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リアクション
第二章 ボランティアの面々
空京清掃ボランティアの当日早朝。
松岡 徹雄(まつおか・てつお)はマスターである白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)をボランティアに誘う。しかし返事は良いものではなかった。
「新年を気分良くつーのは分かるけどな。んなくだらねぇもんに参加するぐらいなら、大荒野で大掃除してたほうが、まーだマシだ」
そう言い残すと、「うおー!」と雄叫びを上げて、部屋を飛び出していった。
「俺達だけで行くかぁ」
黒凪 和(くろなぎ・なごむ)とアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)に異論はなかった。
「はっ!」
ベッドから飛び起きたのは御東 綺羅(みあずま・きら)。
「今、竜造様の声が聞こえたような。まさか夜這いに……」
顔を赤らめつつ、パジャマの上から体をチェックする。でもって、そっと下着の中を覗き込む。残念ながらそれらしい痕跡は残っていない。念のため部屋の隅々まで調べたが何の異常も無かった。
カーテンを開けると、朝日がまぶしい。
「気のせいでしたか」
がっかりしたものの、すぐに空京清掃の日であることを思い出す。
「そうだわ! 勇刃様とご一緒できるんですもの。準備しないと」
いそいそと身支度を始めた。
ボランティアのメンバーは、空京に着くと担当地域に散らばって行った。
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、広場にある滑り台の上で演説を始めた。
もちろんお茶の間ヒーローを自称する彼は、今日も今日とて黒のマントに仮面をつけている。とても清掃活動をするとは思えない格好だ。
すぐ横にはマスコットとしてつれて来たのか、童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)も一緒だ。
「良いですか、皆さん! 皆さんの地道な努力が、空京の街をきれいにするんです! きれいな環境は心をきれいにします! 皆さんで頑張りましょう!」
最初こそ聞いていた人もいたが、すぐにアチコチで掃除やゴミ拾いを始めた。
「反応が良くないですねー」
クロセルの表情も冴えない。
「拙者がブリザードで雪を降らせてみようではござらんか?」
「いや、掃除を始めたばかりだから、まだ早いです。それより場所を移してアピールを続けましょう」
滑り台から華麗に滑り降りようとして、お尻がつっかえる。もう子供では無かった。
「あっ! そこの人、助けてくださーい」
通りがかりのボランティアの助けを求める。
「あ、ごみ発見! 袋に入れるの!」
及川 翠(おいかわ・みどり)はクロセルを見つけるや否や、滑り台に上がるとそのまま滑って、クロセルを蹴り出した。
「……ねぇねぇ、そんなところにいると邪魔なの。どいてよねぇ?」
滑り台の下では、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)とアリス・ウィリス(ありす・うぃりす)がゴミ袋を開いて待ち構える。
首だけ出した巾着状に縛られたクロセルは、ゴロゴロ転がされて、仮設のゴミ集積場へと運ばれた。もちろんスノーマンも一緒だ。
「さっそく良いことしたの。これで空京の街もきれいになったの」
ミリアとアリスも満足げにうなずいた。
翠達3人が去ると、クロセルが「だーっ!」と叫んで、ゴミ袋を破って立ち上がる。
「どうして、俺達がゴミなんですかー!」
女の子3人に無茶な抵抗ができなかったクロセルは鬱憤晴らしとばかりに叫ぶ。
「拙者も手も足も出せなかったでござる」
「いや、まぁ、それが普通の雪だるまですし……」
転がってくっついたゴミや破り捨てたゴミ袋を、律儀に1つ1つ集めて片付ける。
「場所を変えてみましょうか」
アレイ・エルンスト(あれい・えるんすと)はアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)と広場の落書きを消して回った。
それはそれではかどったが、思い描いていたような害虫は現れない。
「さすがにこの状況じゃな」
ボランティアが多数を占める広場で、落書きをしようと考える奴はいないだろう。
「アッシュ! 裏通りにでも行って見ないか?」
血の気の多そうな点で共通している2人は、考えを一致させると広場から奥まった通りに行動範囲を移した。
シャンバラ宮殿の近くを掃除していた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は改めてゴミの多さに驚いた。
「きれいと思ってたけど、結構、落ちてるのね」
ホークアイやダークビジョンを活用するまでもなく、子供の視線で気をつけて見ると、危険なものも落ちているのが分かる。持っていたゴミ袋はすぐにいっぱいになる。
猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)とフリーデン・アインヴァイサー(ふりーでん・あいんう゛ぁいさー)もシャンバラ宮殿近くを掃除して回っていた。
「ゴミはあるな……」
「うむ」
「落書きもある」
「そうじゃの」
「強そうな奴らはどこだ?」
2人の周囲には真面目に掃除に取り組むボランティアばかりだった。
「そこの人、これを持ってくださーい」
詩穂に言われて、勇平は「任せろ!」と張り切る。
「ふむ、これも修業ではあるのう」
フリーデンは大きな背をかがめて自らもゴミを拾った。
樹月 刀真(きづき・とうま)達は、シャンバラ宮殿の壁や塀をきれいにしていた。宮殿には公園や街中と違う雰囲気があるのか、目だった落書きはない。ただそれだけに一層きれいにするのに力が入る。
「少し期待外れでした」
「でももーっときれいにしましょうよ」
「そうですね」
ラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)は黙々と、刀真と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は、おしゃべりをしながらも、シャンバラ宮殿の壁や塀をきれいに仕上げていった。
駄菓子屋近辺の掃除を希望した参加者もいる。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も掃除に精を出す。
「いつも遊ばせてもらってるから、お礼も兼ねてきれいにしないと」
「思わぬところにまで、ゴミが入り込んでしまってるのですね」
「どんなに言い聞かせても、聞き分けの無い子供っているから」
中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)と漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)も駄菓子屋付近の掃除に参加していた。ただし綾瀬がまとっているドレスは、清掃のことを知らされていなかった。
「ドレス、いい加減に諦めたらどう? そうやってダダをこねればこねるほど、掃除のペースが落ちていくのよ」
『だって、綾瀬が騙したんじゃないの』
「私は駄菓子屋に行くって言っただけ。ちゃんと来てるもの、間違ってはいないでしょう?」
『それはそうだけど、勘違いさせるような言い方をしたじゃない』
綾瀬は益々ドレスを重く感じる。もちろんドレスがそうさせているのだが。綾瀬はため息をついた。
「分かったわ。掃除が終わったら1回だけ。良いわね?」
スッとドレスが軽くなった。
「現金なものね」
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