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「わ、私はその……お兄ちゃんと一緒にいれば……何でも楽しい、ですよ? 今日もお兄ちゃんにはチョコをあげました……」
「ほうほう、いいですねー」
 ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が、恥ずかしがりながらも嬉しそうに言う。その言葉を聞きながら、うんうんと伝道師は頷いていた。
「えっと、伝道師さん、誰かにプレゼントしたりとか、ありますか? バレンタインじゃなくても、誕生日とか…ええと、友愛って言葉もありますし」
「友愛ですかー……」
「どしたの?」
 何処か渋い表情をしているように言う伝道師にアゾートが問う。
「いえ、本来あの言葉っていい言葉のはずなんですが、とある宇宙人のせいで陰謀とか暗殺とかそっち系のイメージついちゃいまして」
「ちょっとそのネタ危ないからやめようか」
「もういいか」
 ミュリエルの前を遮るようにエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が立ちふさがった。
「あ、良ければ貴方も教えていただけますかね」
「……ロボマニアっぷりなら最高クラスだと自負してる。それ系のアニメやゲームは大好物だ。答えたんだからさっさと行け……妹に何かしてみろ、半殺しだからな」
 伝道師を睨み付けながら、エヴァルトは追い払う様に手を振った。
「ふむ、随分と妹さんが大事なんですね」
「当たり前だ……言っておくが、俺はロリコンでもシスコンでもないからな! 可愛い妹を守るのは当然だろうが!」
 別に何も言っていないというのに、エヴァルトが怒る。
「……ほぅ……あ、御嬢さん。ちょーっと離れていてくれますかね? アゾートさんも」
「ふぇ?」
「え? なんで?」
「いいからいいから」
 首を傾げつつも、ミュリエルとアゾートが二人から距離を取る。
「おい、何をする気だ?」
「いえいえ、お構いなく」
 そう言いつつ、伝道師がRPGを構えた。
「お構いなくじゃねぇよ! 何すんだよ!」
「ちょっと素直じゃない貴方を更生するんですよ!」
 そう言って、伝道師は引き金を引いた。弾頭がエヴァルト目がけ、放たれる。
「甘いッ!」
 瞬間、エヴァルトが【アクセルギア】を発動させる。
 ゆっくりと進む時の中で、エヴァルトはRPGの弾頭を掴んだ。
(後はこいつの信管を無効化すれば……!)
 刹那、寒気が走る。
 見えたのは銃弾。真っ直ぐに、弾頭に向かって来ていた。
 その向こうには回転式拳銃を構えた伝道師の姿。
 銃弾を止める、避ける――どの行動を取るにも遅すぎた。

――後にエヴァルトは語る。
『あ、ありのまま起きた事を話すぜ! 俺は弾頭をキャッチしたと思ったら、そいつを拳銃で撃ち抜かれていた。な、何を言っているか(以下略)』

 銃弾で貫かれた弾頭は、エヴァルトの手の中で炸裂した。

「お、お兄ちゃん!?」
 気を失うエヴァルトにミュリエルは駆けより、その体を揺する。
「安心してください、急所は外しておきました」
「いや爆発しといて急所もへったくれもないと思うよ!? てかなんで撃ったのさ!?」
「いえ、この人ロリコンとか気にし過ぎてて素直じゃないんで」
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
 ミュリエルが揺するが、エヴァルトはピクリとも動かない。
「けど、そんなに心配するなんて貴女お兄さんの事、好きなんですねー」
「うぇッ!? え、い、いえ……その……」
「正直に話してくださいよ」
 そう言うと、ミュリエルはゆっくりと頷いた。
「その……お嫁さんになりたいくらい好きです……」
「ふーむ、なら今がチャンスですよ」
「チャンス?」
「ええ、今の内既成事実作るくらいしてしまいましょう。れっつ背徳!
「何教えてんのキミは!」
 伝道師の後頭部を、アゾートは思いっきりぶん殴った。
「痛いですよ、何するんですか」
「子供に変なこと教えないの! ほら行くよ!」
 伝道師を無理矢理引きずるようにして、アゾートが去っていく。
「……きせいじじつ? はいとく?」
 残されたミュリエルは、ただ首を傾げていた。