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リアクション
注意:こちらのリアクション上では、キャラクターが惨殺されるなど、残酷な描写が多数存在します。
ご了解の上、お読みください。
第一章 惨劇、開始
「待ってください! 待って、待って待ってまてまてまてまてぇえええええっ!」
かつて高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)の生首だったチョコレート塊を抱きしめて、ティアン・メイ(てぃあん・めい)は走っていた。
すぐ横は切り立った崖。
その先を走るのは朝霧 垂(あさぎり・しづり)。
「やばいやばいやばいやばい……」
彼女の手の中にあるのはダイナマイト。
数秒前、その中の一つが玄秀を絶命させた。
最初は、逃げるために使う筈だった。
自分に襲い掛かってくる相手から逃れる為に、草の影にそっと設置してはその場から離れていた。
しかし攻撃が激しくなってきて、隠す余裕もなくなり手持ちのいくつかに火をつけて無差別に放り投げた。
その中の一つが、幸か不幸か玄秀に命中した。
自分を攻撃する存在は一人は減った。
だがそれによって一人から確実に狙われるようになった。
「忘れ物ですよ」
「え?」
鼻先に突きつけられたのは、ダイナマイト。
朝霧が導火線に火をつけたばかりのものだ。
「シュウは私が守るんだから。シュウは優しいからたとえ首だけになっても私の側にいてくれるけど、あなたなんかに触れさせないもちろんあなたの爆弾にもこれ以上シュウを傷つけさせないだからあなたが……」
ティアンは垂の口にダイナマイトを差し込み、とん、と押した。
崖の方へ。
「死んで」
バランスを崩した垂の身体は崖下に向かいみるみる小さくなっていく。
しかしその姿を最後まで見ることはできなかった。
ダイナマイトの爆破の煙が、垂の身体を包む。
「シュウ……優しいシュウ。私と一緒に動きやすいように、小さくなってくれただけよね。だから、これからもずっと一緒。二人で、この島を脱出しようね……」
チョコレートの塊を抱きしめるティアン。
その背中には、リュックサック。
底からはチョコレートの雫が垂れている。
ぼたり、ぼたりと。
※ ※ ※
「ここは……一体どこなの? 美桜ちゃん、どこ……?」
堂島 結(どうじま・ゆい)は一人、森の中を歩いていた。
気が付いたらこの島の中にいた。
先程まで一緒だった、パートナーの仁科 美桜(にしな・みおう)の姿も見えない。
結は、歩き出す。
人の姿を探して。
※ ※ ※
「はい、これでしばらくは大丈夫ですよ」
「ありがとう。助かったよ」
高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は高峰 雫澄(たかみね・なすみ)の腕に巻いていた包帯を片手で綺麗に留めると、もう片方の手をそっと雫澄の手に置いた。
「あまり無茶してはいけません。ここの人たちは……その、通常の状態ではありませんから」
結和の言葉に雫澄は神妙な顔で頷いた。
この島……病照間島は、異様な雰囲気に包まれていた。
黒い霧が立ち込め、周囲の様子はよく分からない。
しかし、時折聞こえる悲鳴、爆破音。
時折出会う人物は、相手を異様に警戒しているか敵意をむき出しにして襲い掛かってくる。
そして、チョコレート。
攻撃された人から流れていたそれは、結和たちがよく知る体液ではなかった。
甘い香りのチョコレート。
吹き飛ばされた肉塊もまた、茶色い甘い物体へと変わる。
そして何より違和感を感じたのは、それを異様とも思わず受け入れて人を攻撃している人物の存在。
「ここで、何が起こっているのでしょう……」
「分からない。でも」
結和の呟きに、雫澄はきっぱりと応える。
「なんとか、こんな馬鹿げた争いを止めたい。みんなを、止めたい」
「……気を付けてください」
がんばって、とは言えなかった。
「君も。こんな所でも、君みたいに人を助けようとする人に会えて、嬉しかったよ」
笑顔を向けると、笑顔が返ってきた。
そんな何気ないやりとりが、嬉しい。
「青い空、白い海、黒い霧に無人島――そして茶色い吹き溜まり! やって来ました“病照間島”!」
空気を読まない素っ頓狂な声に二人が声のした方を見ると、一人の青年がくるくると踊っていた。
青年は雫澄たちに気が付くと、近くに寄ってきた。
雫澄の包帯に滲む茶色い染みを指につけ、それを口に持って行く。
「ペロっ。これは……チョコや!」
呆気にとられる雫澄らを余所に、青年……瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は一人、歓喜に打ち震える。
「ここは……チョコ好きのオレにとって、天国や!」
「いや、チョコだけでこの島の良し悪しを決めるのはどうかと」
「それもそうやな」
雫澄の言葉に物凄く素直に頷く裕輝。
「とりあえず、この島から出る算段だけはつけといた方がええ。見てみい!」
裕輝は崖の下、海岸線を指差した。
そこには港があり、一艘のボートが停まっている。
「あのボートが……」
「そうや」
唯一の脱出手段らしいボートが、たったひとつ。
人が二人乗ればいっぱいになりそうな小さなボート。
結和の絶望した声に、裕輝が重々しく頷く。
「つまり、皆して真冬の海で寒中水泳すればええっちゅーことや!」
「そういう結論になっちゃうんですか!?」
裕輝が導き出した意外な答えに思わず目を丸くする。
「よっしゃ、昔水泳やっとった血がメッチャ騒ぐで! さあ、泳ごうやないか!」
崖の端に立つと、飛び込みポーズを決める裕輝。
しかしそのあまりの高さにさすがの裕輝も動きを止める。
「……アカン。こっからだとさすがのオレも寒中水泳で死ぬ前に腹打ちで死ぬわ」
「結局死ぬんですか」
「試してみればいいじゃん?」
ふいに、子供っぽい声がした。
声の先には、よく似た3人の少女の姿をした人物。
ミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)、フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)、アシェルタ・ビアジーニ(あしぇるた・びあじーに)の3人だ。
「本当は、向こうから殺りに来た相手だけを始末しようと思ったんだけど…… せっかく崖の上にいるんだから、手伝ってあげた方が親切だよね?」
「さっすがフラットのミリー。優しいんだねぇ」
「わたくしの、ミリーですわ。優しいのは同意しますけど」
ミリーの言葉にフラットとアシェルタが頷く。
異様な空気を感じ取って、裕輝はその場から離れようとする。
「あー……お呼びでないようで。ほんならオレはこの辺で失礼するで……」
「待ちなよ」
とん。
「え?」
「あ」
「あ……」
それは、あまりにも自然な動きだった。
自然すぎて、結和にも雫澄にも止める間はなかった。
裕輝に、抵抗する暇もなかった。
躊躇も遠慮もなく、ミリーは崖の方に裕輝の身体を押した。
ただそれだけ。
しかし、裕輝を絶命させるには十分だった。
「あぁあああああああああああ!」
裕輝の悲鳴が響き渡る。
それは、ぐしゃりという小さな音と共に止まった。
裕輝の断末魔が、この島の惨劇の幕を開けた。
高月 玄秀:死亡(パートナーのティアン・メイは行動中)
朝霧 垂:生死不明
瀬山 裕輝:死亡
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