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パラミタ百物語 肆

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第玖拾参話 三つの問い

 
 
「ぬいぐるみが……!」
 廊下の方から、悲鳴が聞こえてくる。
「桜さんめ、またぬいぐるみで悪さを……」
「私じゃない!」
 決めつける笹野朔夜に、新風燕馬(笹野桜)が言い返した。
「ティーの声も聞こえたですか……?」
「だから、隙間から外に出てはいけないと言ったのに……」
 膝の上のイコナ・ユア・クックブックの言葉に、鬼龍貴仁がぽつりとつぶやいた。
「トイレにでもハマって動けなくなったのかしら」
「いやー、トイレ嫌ー」
 叫ぶツァルト・ブルーメを残して、九十九昴が九十九天地とともに様子を見にいった。
「やれやれ。これから俺が話を始めようというのに……」
 なんだかどんどん人が減っている広間を見て、クロセル・ラインツァートがやれやれと肩をすくめた。
「すでにいくつもの物語が語られているというのに、皆さん覚えていない物語も多いと聞きます。
 まあ、そこまで記憶に残らないとは、きっと、よっぽどつまらないお話だったのでしょう。まさにお話になりません。
 ですが、御安心ください。
 今日は俺がいます。
 永遠の語り部、雪だるま王国怖くて寒い話協会理事長、クロセル・ラインツァート、降霊!
 さあ、大船に乗ったつもりで、俺のお話をお聞きください。
 怖いですよー。
 
 ある所に、父子二人が仲よく暮らしておりました。
 その年は冷え込み、父子が暮らす村も随分と長く雪に閉ざされておりました。
 そのため、村の備蓄が底をついてしまったのです。
 父親は子供のため、村のため、近隣の町へ救援を求めにむかいましたが、飢えた身体は雪中行軍に耐えられず、力尽きてしまいました。
 いつまで経っても戻らない父親。
 ついに、子供は餓死してしまいました。
 しかし、死してなお、父を慕う子供は、父を探して未だに彷徨っているそうです。
 そして子供は出会う人に、
 『僕はどうしたらよいのかな?』
 『お父さんと一緒にご飯を食べたい』
 『よい子にしていたらお父さんって戻ってくるよね?』
 といった質問を投げかけます。
 それぞれの模範解答は『待つ、叶う、そう』です。
 一個でも対応を誤れば呪われてしまいます。
 さあ、皆さん、忘れないように繰り返し唱えましょう。
 まつ、かなう、そう。
 まつかなうそう。
 ……。
 真っ赤なウソ!
 お後がよろしいようで」
 言い捨てると、蝋燭を持ったままクロセル・ラインツァートが脱兎のごとく逃げ出した。その勢いで、蝋燭の明かりが消える。
 廊下に飛び出したところで、トイレから避難してきた神代夕菜たちと出会い頭にぶつかった。ぴちゃんと、何か冷たい物がクロセル・ラインツァートの頬をかすめた。
「オチがついたようじゃのう」
 やれやれと、医心方房内が言う。
「そのノリ、嫌いじゃないぜ」
 畳にめり込んだ禁書写本河馬吸虎が、クロセル・ラインツァートにとても親近感を持って言った。
「はあ、和みました。ちょっと怖くなくなったです」
 ツァルト・ブルーメが、なぜかほっと胸をなで下ろす。
「なんだか、間の抜けた話であったね、政敏君。政敏君? きゃあ、しっかりするのだ!」
 先ほどの血糊を拭いて、やっと落ち着いて甘えていた綺雲菜織が、緋山政敏からの返事がないのであわてて飛び起きた。見れば、神代夕菜にフラワシを撃退された緋山政敏が、泡を吹いて気絶している。
「目を開けるのだ!」
 あわてた綺雲菜織が、バキボキと音をたてて緋山政敏をだきしめた。