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リアクション
第玖拾玖話 山小屋の子供
「いよいよ、大詰め。俺の出番だな」
ちょっともったいをつけて、樹月刀真が進み出る。
「登山カップルのお話です。
下山が少々遅くなってしまった夕暮れ時、川沿いの道をロッジにむかって歩いていると急に周りが暗くなってきました……。逢魔が刻という言葉が、頭をよぎります。
そんな二人の耳に聞き慣れない音が入ってきました。
それは、ずるりずるりと何かを引きずるような音で……。何かと思い目をこらすと、這いつくばった五歳くらいの子供が、腕の力だけで身体を引きずり、こちらへと寄ってくるのです。
女性が助けようと子供に駆け寄りましたが、はっきりと見えたその子の姿は……、腐り果てた四肢、内臓がはみ出て引きずっている身体、虚ろな眼窩を覗かせる骨だけの顔で、全身がずぶ濡れでした。
その姿を見た彼らは、一目散に逃げ出します……。そんな彼らの背後から取り残された子供の悲しそうな声が聞こえてきました。
『なんでいっちゃうの? おいてかないで、独りにしないで……。寂しいよ、お父さん、お母さん』
その昔、三人家族の一家が心中しようと山で飛び降りたのに両親だけが生き残ってしまい、子供の遺体は最後まで見つからなかったと言う話があるそうです……。カップルたちは自分たちが出会ったのが両親を捜し求め、彷徨い続ける子供なのだろうと、お寺に供養を頼んだそうです」
ふうっと、樹月刀真が蝋燭を吹き消した。
びとっ。
その瞬間、何かが背中に貼りついた。子供のような手が身体に回され、樹月刀真が固まる。
「遊ぼー」
「はいはい、回収回収」
「あーん、もっと遊ぶー。燃やしたくせにー」
ぴたっと樹月刀真の背中に貼りついていた彩音・サテライトを、綺雲菜織が連れていく。そのはずなのだが、まだ何かが樹月刀真の背中をぺたぺたと触っていた。
「はははははは……、はあっ!?」
「刀真? 固まってる……。はっ、今なら……」
触り放題だと、漆髪月夜が目を輝かせた。ぎゅっと、後ろから樹月刀真をだきしめる。
「何をしている、月夜。我もまぜんか」
ぺたぺたと玉藻前も参加してきた。
「よし、また何かに巻き込まれないうちに、戻れ」
さっさと、緋山政敏がフラワシを呼び戻した。今度は、フラワシも無事に……。
「政敏、見つけてきたのだよー」
パタパタと急いで緋山政敏の許に戻ってきた綺雲菜織が、彩音・サテライトをかかえたままで前を歩いていたフラワシを踏み倒してきた。
「うぐうっ」
あおむけにひっくり返る緋山政敏に、綺雲菜織と彩音・サテライトがダイブして、何か変な悲鳴が聞こえた。
第壱百話 剣の花嫁
「それでは、私で最後になりますね」
ローザ・シェーントイフェルが、皆の前に進み出る。
「私たち、剣の花嫁は、『使い手にとって大切な人』によく似た外見になるんですけど、これって、つまり、同じ顔を持つ人間が二人いることになりませんか?
私の知り合いの話なんですが、ある男性契約者と、その恋人、そしてその恋人にそっくりな剣の花嫁がいたんです。
ある日、男性は恋人の様子がおかしいと感じます。
一つ一つは小さな差異でも、合わせてみるとまるで別人のような……。
そう、別人だったんですよ。
その剣の花嫁は、男性の大切な人になりたくて、恋人を殺した上で、その恋人として生きることを選んだんです。
今、あなたの傍にいる人は……本当に、昨日と同じ人ですか?
もしかしたら、あなたを慕う剣の花嫁が、入れ替わってるかもしれませんよ……」
そう語り終えると、ローザ・シェーントイフェルが蝋燭の炎を吹き消した。
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