リアクション
★ ★ ★
「これは、いったい何が起こったというの!?」
突然の地震と地鳴りに、リカイン・フェルマータが驚いて叫んだ。
なにか、山が崩れたようにも感じる。
「結界が、決壊しました……。いえ、洒落でなく。呼び込まれた力が、この空京神社の守りの力と反発し合って、噴出したようです。問題は、実際にそれがどういう形で具現化しているかですが……」
空京稲荷狐樹廊が、リカイン・フェルマータをうながした。
山道を駆け降りて、途中の朽ち果てた鳥居をくぐって、その先の崖へと駆けつける。
「この先って、百物語でみんなが欺されて崖からダイブさせられそうになった廃墟があるんじゃなかったかしら」
リカイン・フェルマータが、なんとか朧気な記憶を振り絞って言った。
駆けつけてみると、崖の際にあった社殿が崖と共に崩れ落ちていた。
「今日は、ここに誰かいたんじゃ……」
空京稲荷狐樹廊をかかえたリカイン・フェルマータが、翼の靴で崖から下へと下りる。
「これはなんなの!?」
崖の斜面を見たリカイン・フェルマータが、信じられないと目を見張った。
大きな横穴が、崖の中程にぽっかりと口を開いている。おそらくは、空京神社がある丘の中、福神社の方へとむかってのびているのではないだろうか。そして、そこから、無数の古びた着ぐるみが、まるで大地から吐き出されでもしたかのようにして零れ落ちていた。
「怪我をしている人はいませんか?」
ツァルト・ブルーメと九条ジェライザ・ローズが、怪我をした人たちを見て回る。
「危なかった。このバケツがなければ即死だった」
百物語が始まってから、初めてバケツを脱いで、曖浜瑠樹が言った。被っていたバケツは、落石にあたってボコボコにへこんでいる。
「よかった、りゅーき、無事で」
マティエ・エニュールがほっと胸をなで下ろした。
「それにしても、あのゆる族たちはなんだったのでしょうねえ。それに、この大量のゆる族の着ぐるみは……」
「うん、調べてみる必要はあるかな」
曖浜瑠樹が、興味を持ってうなずいた。
「これは……」
回収したビデオカメラを調べていた樹月刀真が、顔を顰めた。
「どうかしたの?」
何か映っていたのかと、漆髪月夜がモニタをのぞき込もうとする。
「いや、月夜は見ない方がいい……」
あわてて、樹月刀真がカメラを後ろに隠す。
「ビデオを撮っていたの。それで、何が写っていたの?」
水橋エリスが、興味深そうにそのモニタをのぞき込んだ。そこには、ボロボロの廃屋の中で、地面に敷き詰められた着ぐるみの上で怪談話を繰り広げている一同の姿がしっかりと映っていた。巫女さんも、顔や身体のあちこちに穴の開いた着ぐるみだった。
★ ★ ★
「二人とも、大丈夫だったか?」
帰りの遅いティー・ティーたちを迎えに来ていた源鉄心が、突然の土砂崩れを目撃して、あわてて崖下へ駆けつけてきた。
「で、でましたです。緑茶、いくです。任せますです」
源鉄心を見たとたん、イコナ・ユア・クックブックがティー・ティーの後ろに隠れて叫んだ。そのまま、ぐいぐいとティー・ティーを押し出す。
「ちょ、ちょっと。私だって、生き霊は苦手です」
必死に腰のあたりを手で押さえながら、ティー・ティーが答えた。
「そんなこと言っても、きっと、緑茶のくらーいところが、鉄心を生き霊にしてしまったのです」
「い、生き霊!?」
いきなり物の怪扱いされて、源鉄心が目を白黒させた。
「俺は、生きてるから。本物だから」
「やっぱり生き霊です!」
「だから……。ええい、もう帰るぞ!」
話にならないので、源鉄心がティー・ティーとイコナ・ユア・クックブックをつかんでズルズルと引きずっていった。
後日、地下から大量に発見された着ぐるみは全て回収されて調査が始まり、空京神社の地下にできた横穴は安全のために埋められたのだが……。
空京での怪異は、これで終わりではなかった……。
春の怪談話……、思いっきり季節外れでしたね。
とはいえ、話の真相と、みんなの怪談がなぜかシンクロ率が高くて驚きました。何か、不思議な力でも働いたのでしょうか……。
この後、話は『七不思議 戦慄、ゆる族の墓場』に続く予定です。
はたして、この事件の後に何が待っているのか……。のんびりとお待ちください。