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 第十一章 機晶石に宿るモノ

 陽動班と突入班よりも先に戦闘を開始していた屋上から侵入した者達は、陽動班のお陰でオークが減り先に進むことが出来た。
 そして、オークがほとんど居なくなった二階の通路を小さな身体で懸命に走るのはレンカ・ブルーロータス(れんか・ぶるーろーたす)だ。

(怖い人達の所にフランお姉ちゃんの声があるんだね。レンカちょっと怖いけどフランお姉ちゃんの為だもん。
 怖い事なんて我慢我慢!)

 レンカは健気にそう思いながら、小さな身体を精一杯使い走る。
 そして、一階へと通じる階段に差し掛かった頃、階段を塞ぐようにいたオーク達と遭遇した。

「うわっ!? え、えっと、くしゃみ花粉!」

 レンカは吸い込むとくしゃみが出る花粉を撒き、相手がくしゃみをしている間に距離を取る。
 そして、そんなレンカの危機を感じたのかなたを見たレンカの目が爛々と輝く。それは子どもがヒーローを見たときの眼差しに似ていた。

「レンカに何してんだテメェらぁぁああアアッ!」

 腹の底から出した怒号と共に、なたはオークにしびれ粉を放ち、接近戦を仕掛けていた。

「オラ、喰らいやがれぇぇッ!」

 なたはしびれ粉を浴び身体の動きが鈍くなったオークに、片手の紅蓮の槍を突き刺した。
 鮮やかな赤色の刀身はオークの身体を建物ごと貫き、串刺しにする。一応、急所は外したので死んではいないはずだ。
 そして、すかさずもう一方の紅蓮の槍を傍にいたもう一体のオークを穿とうとして。

「あぁ! 彼女のプレゼントに買った香水が!」

 ティセラフレーバーを落として割り、倉庫内に香水の匂いが充満した。
 しかし、これはわざとうっかりと落としているように見せただけで初めからなたが決めていた作戦の内だった。


 香水の匂いが倉庫に充満するのを感じて、
ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)も行動を開始した。
 ソニアは機晶回転楯に乗って浮遊しつつ、できるだけ大きく音を立てながら進む。

 道中にちらほらというオークにソニアは上空から曙光銃エルドリッジで攻撃。
 発射される強烈な光の弾丸はオークを射抜き、倒していく。
 そうして、また進みながらソニアは思う。

(声を奪うなんてどうして酷い事ができるの……。機晶姫は決して『モノ』ではありません。
 たとえ道具や兵器として生まれたとしても……。私達は『人』です……少なくとも心だけはそう思っています)

 ソニアは同じ機晶姫として、思うところも多いのだろう。
 普段は穏やかなソニアの双眸に宿るのは静かな怒りの炎だった。

(だから取り戻さないといけないんです。それはフランさんの『心の一部』だから……!)

 ソニアは駆ける。同じ機晶姫のフランを救うために。
 その心の一部を取り戻すために。

 ――――――――――

 倉庫に充満するティセラフレーバーの香りと機晶回転楯のけたたましい音により、オークの気は削がれ侵入をし易くなった。
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)はそれを感じながら、ブラックコートで気配を消し、光学迷彩で姿を消して進んでいた。
 目標はひとつ、スティルからの声帯奪還だ。

(フランという奴が泣いて『もう一度、声を下さい』と頼んできた……理由はそれで十分……断る理由など一つもない)

 思わず、グレンは両手に持つ魔銃モービッド・エンジェルを握る手に力が籠もる。

(……人の声を奪うような奴らは早々に潰したいところだが……。
 今は『そんな事』よりも……フランの声を取り戻す事が……何よりも優先だ……)

 グレンはより一層目つきを険しくしていた。

 そのグレンのすぐ後ろを追随する形で、カモフラージュを用いながらついていくのはサオリ・ナガオ(さおり・ながお)だ。
 スナイパーライフルを構えながら、物陰に身を潜めて、誰にも見つからないよう進んでいく。
 サオリの目標はひとつ、スティルの射殺。

「……敵のほとんどは知能の低いオーク。部隊の要である指揮官を倒せば、わたくしたちの敵ではない筈ですぅ」

 サオリはやけに間延びした口調でそんなことを口にした。
 その可愛らしい外見や普段の柔らかな物腰とは裏腹に、サオリは戦場では冷徹な判断を下しその為に行動が出来る。
 サオリは戦場ではれっきとしたプロだった。