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機械仕掛けの歌姫

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 第十二章 三奏、戦場狂想曲、第二幕

 楽士隊の詩は止むことがなく、戦場に響き続ける。
 それは耳にする全ての者達に効果を与えるが、その中でも大介に与える影響は一際大きかった。

 ――思い描いた理想。
 懸命の努力と、残した足跡。
 それでも、わたしはあなたに近づけることなく。まがいもののまま。


 心の奥、大介の凍っていた記憶の一端がよみがえる。

(この詩は……いつも夢で聞く……)

 それ以外は考えられない。悲壮な想いの詰まった歌詞。死んだと教えられた彼女と記憶を失った自分の思い出の詩。
 しかし、それを奏でている者達は違う。歌い手も時間も違うはずなのに。
 どれだけの時を経ても、かつてと変わらぬ繊細で綺麗な響きを失っていなかった。

 残されたのは数多の傷跡。心に刻まれた幾多の記憶。
 進んできたその道は、決して平坦なものではなく。
 夢も希望も全て、過程(うしろ)で失った。
 だからこそ、叫ぶ。
 この偽者の姿で、ただ叫ぶ。


(自分の○ート○ー、棄てられた◇◇姫、フ□□)

 詩に共鳴して、自らの凍っていた記憶が融解し始める。
 共鳴して、夢の中でしか思い出せなかった彼女の顔の脳裏に浮かぶ。
 そして、その顔にかかったモヤがだんだんと剥がれていき――。

「あ、が……ッ!」

 突然、頭が割れるほどの頭痛が大介を襲った。
 まるでそれは、何かが思い出すことを阻止しようとするかのようで。

「止めろ、止めろ、止めろ……ッ!」

 脳を侵す激痛が、記憶を取り戻すことを許さない。
 大介は呻き、頭を抱えて、膝をつく。そして、天を仰ごうと視線を上へ向けたとき。

「……ッ!?」

 不意に、楽士隊を指揮する者の後ろ姿が大介の目に映った。

「彼女、は……?」

 大介は立ち上がり、狙撃銃から手を離す。
 そして、ふらつきながらも、剣戟が響く戦場へと歩み出した。


 鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)は戦場の渦中でウルフアヴァターラ・ソードをなぎ払い、鏖殺寺院の構成員をまとめて倒していた。
 その後ろに居るのは、ハイドシーカーと銃型HCで人員の配置を逐一確認しているパートナーの睡蓮。それと楽士隊に続く道だ。
 九頭切丸はただ寡黙に大剣を使い敵を蹴散らす。彼が何も語らないのは、フランとは逆で元々声帯を持っていない機晶姫だったからだ。

「…………」

 九頭切丸は敵の攻撃を歴戦の防御術で得た感覚で、攻撃に併せて剣の当て方を変えて受け流す。
 そして、体勢を崩した敵に一撃かけた大技。一刀両断を放つ。
 大剣が描いた剣閃は前方にいる全ての敵に直撃。まとめて、遠くへ吹っ飛ばした。

「お見事ですね、九頭切丸」

 一部始終を見ていた睡蓮は労いの言葉をかけるが、九頭切丸は何の反応も見せない。
 何いつものことだ、と睡蓮は口元に笑みを浮かべ、ハイドシーカーを使う。が。

「……ん、これは?」

 急に戦場の敵――その中の一人が他の追随を許さないほどの強さを持っていることに気づいた。
 睡蓮はその者に注視する。
 ふらつきながら歩くそいつは、こげ茶色の髪に鷹のような鋭い目つきをしている。

「あれは、大介さん……ですか? なぜ、狙撃手である彼がこんな戦場のど真ん中に……」
 
 ――――――――――

 戦場のど真ん中に現れた大介に気づいたフランは、指揮をする手を止めた。
 そして、意識せずとも洩れたのは愛しい彼の名前だった。

「大、介……」

 そして、大介に会う為に無我夢中に走り出した。

「フランさん!?」

 ペルディータがフランの予想外の行動に、歌うことを止め彼女の名前を叫んだ。
 周りもそれを制止しようと動き出すが反応が遅れた。
 そして、フランは一人で剣戟が響く戦場に向かっていってしまう。

「フランは僕らに任せとき、君らは歌声が途切れんように頼む!」

 そう叫んだのは泰輔だった。
 フランが大介を見たときのことを考慮していたのか、最もフランを追いかけるのが早かった。
 そして、楽士隊の面々とそれを護衛する者達が頷くのを見るやいな、一心不乱にフランの後を追う。

「行くで、レイチェル!」
「はい!」

 レイチェルも頷き、泰輔に追走して駆け出した。