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 第十五章 最前線、『九人の勇姿』


 目まぐるしく変わる戦況の最中。
 最前線で敵と交戦し傷だらけになりながらも、決して戦線を後退させないよう踏ん張る九人の姿があった。
 彼らは自分達より数に勝る敵の本隊との最前線に身を委ね、どれだけ傷つこうともその戦線を下げることはしなかった。

「……サンダーブラスト!」

 その中の一人、御凪 真人(みなぎ・まこと)は詠唱を終え、突撃してくる敵部隊に雷を打ち込んだ。
 上空の厚い積乱雲が割れいかづちの嵐が発生。降り注ぐ数多の雷は敵部隊を蹴散らせた。

「ッ」

 その雷を召喚した真人は、不意に目眩を感じた。

(無茶をし過ぎましたかね。……そろそろ魔力が切れそうだ)

 真人はがんがんと頭痛を起こす頭を押さえ、唇を噛み締めて踏ん張った。

「……あれ?」

 が、面白いぐらいするりと足の力が抜けて転びそうになる。

「とっと、と。大丈夫、真人?」

 その身体をセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)はバーストダッシュで駆け寄り慌てて支えた。

「……すいません、ありがとう」
「いいよ、気にしないで。……それよりも、大丈夫なの?」

 セルファは真人の真っ青に染まる顔を見つめながら、心配そうに問いかけた。
 セルファの気遣いは当たり前だ。
 真人は戦いの始まりと共にこの場で戦い続け、数えることさえ億劫になりそうなほどの雷を召喚したのだから。

「……立つのさえ困難なくらいなんだから、無理しないで後方に下がったら」

 セルファの言葉は、唇に当てられた真人の人差し指によって遮られた。
 そして、真人はセルファを安心させようと目を細めた。

「大丈夫ですよ、まだ戦えます。そう思う意思が、俺の心にある限り」

 真人はセルファの手から離れ、自分で立ち上がった。
 真人のおぼろげな視界に映るのはサンダーブラストで倒した部隊を踏み越え、こちらに向かってくるまた別の集団。

「立ち上がるのに必要なのは、いつだって己の意思なんですから」

 真人は手を掲げ、詠唱を開始する。
 指先から生まれるのは七色の光。それが描くのは色鮮やかな魔法陣。
 空中に展開された七色の魔法陣は、真人の魔力を受けて光り輝く。

「ここが勝負どころですね。行きますよ、セルファ」

 真人は不敵な笑みをセルファに向ける。
 光は魂の輝き。魔法陣から零れた光はサンダーバードを構築、召喚した。
 電気を帯びた巨大な鳥は、真人の意思に応えるかのように大きく羽ばたき、敵の集団に向けて一直線に空を飛んだ。

「……分かったわよ。全く、いつも無茶ばかりするんだから」

 サンダーバードが敵の集団の突進力を潰して、体制を崩させる。
 二つに分かれた集団の片方に向けてセルファはゴッドスピードを発動させ疾駆。
 片手に握るは断魂刀【阿修羅】。もう一方は花宴だ。

「フランのためにも、真人のためにも……退いてもらうわよ」

 セルファは疾風の如き速度を生かした剣舞で敵を切り裂いていく。
 時折、繰り出される反撃を受け流さずスウェーで回避。
 スピードが落ちる行為は行わず、のらりくらりと戦う姿はまさに風だった。


 真人によって分断された敵の集団のもう一方に当たるのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
 二人はカモフラージュとテイクカバーで姿を隠蔽。敵に見つからないように近寄ってから確実に仕留めるためだった。
 背後を取り、セレアナが幻槍モノケロスを素早く振るう。
 先端のユニコーンの角に似た刃先が敵を突き殺す。それに気づいた集団は慌てて振り返り。
 
「あはは! 壊れちまいな」

 にやりと笑みを浮かべたセレンフィリティが二丁のマシンピストルで掃射攻撃。
 スプレーが霧散するかのようにばら撒かれた銃弾は、敵の集団を掃討した。

「ほら、これもあげるわ。持っていきなさい」

 セレンフィリティのスプレーショットを浴びても生き残っている敵に、セレアナは光術で眩い光を発生。
 閃光爆弾のようなその光に、敵の集団は一時的に失明状態に陥った。
 無論、その隙を無下にする二人ではない。

 二人は混乱に乗じて一気に攻めかける。
 セレンフィリティは近づく敵に銃弾をばら撒き。
 セレアナは近寄る敵を貫き、突き刺し、突き殺した。

 一見大雑把に見えるその戦い方は、その実互いの死角をカバーし合う絶妙なコンビネーション。
 かすり傷ひとつ負わず戦うその姿は、練兵度の高さを物語っていた。

「戦争は数だっていうけど、数に質が伴わないと意味ないわよ!」

 セレンフィリティはそう叫ぶのと同時に、二丁のマシンピストルのカートリッジを交換した。