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【第三章】〜迷い〜

 気づいたら走り出していた。
 胸の奥から溢れる様に歌が零れた。
 走ったからか、それとも裏切ってしまったからか、鼓動の音は止まらない。
 それでもジゼルは目の前で肩で息をしているヴァーナーが無事で良かったと安堵していた。
「怪我は無い? どこか痛いところは……」
「ボクは大丈夫です〜。
 でも雅羅おねえちゃん達は」
「雅羅が? まさかあの………さっきの」
「あ。モンスターじゃないですよ〜」
 モンスター。
 ヴァーナーが何気なく口にした言葉にズキリと胸に痛みが走る。
――私は……何をやっているの? この娘と私達は違う。私は……モンスターなのに……
「あのね、雅羅おねえちゃん達パーティーのところにいるひと達がみんなねむっちゃって」
「そ、そうなの……」
「それでくるしいくるしいって言ってるんです〜」
「え?」
「なんだかあたまがいたかったりきもちわるかったりで、ボクもパーティーのところにいる時は
 むねがどきどきしてくるしくなって」
「そんな……」
――おかしいわ。さっきの幻影。それに体調が悪くなるまで力を奪うなんて。
 三賢者様は私に何かを隠してる? 計画を辞めなくちゃ、皆このままじゃ……
「……このままじゃ死んじゃう」
「え?」
「な、なんでもないわ。きっと海の底なんて環境で調子が悪くなったのね。
 行きましょ、転送装置を作動させるわ」
「はい!」
 ヴァーナーは花が零れるような笑みを見せて、ジゼルの手を握る。
――私、さっきなんでまた嘘をついたのかしら。もうこうなったら本当の事を言ってしまっても良かったのに……
 指先から伝わってくる温かいぬくもりに、鼓動の音が和らいだ気がした。
――離したくないな。
 そう思っている自分にジゼルは気付いていなかった。



「うおおおお無いっ!無いっ!ここにも! あっちにも!! なんで無いんだああああ!!!」
 城の最上階最南端にある人物の部屋があった。
 いや、最も他の部屋は全て空室と言っていい。ここは城の中に一人住むジゼルの部屋だったのだ。
 そしてその部屋は今、国頭 武尊(くにがみ・たける)の手によって家宅捜索にあっていた。
 彼が捜すもの、いや求める者はただ一つ。

 パンツ

 ジゼルのパンツに他ならない。
 武尊は思っていた。
 もてなしの歌よりも、ダンスよりも、沢山の食事よりも、100の感謝の言葉よりも、
 1枚のパンツの方が、オレにとっては嬉しい訳のだと。
 
 そして自覚もしていた。
 まぁ、パンツくださいって頼んだ所で、実際にくれる人は滅多に居ないのだ、と。
 自分で探して、勝手に貰うしか無い訳だ。
 
 色は何色だろうか?
 形状は? 素材は?
 素敵なサムシングを求める期待と好奇心ははち切れんばかりに膨張し、彼の精確無比なるパンツセンサーは遂に彼女の部屋を探し当てた。

「なのにッ! なのになのになのにッ!!」
 クローゼットにも、机の引き出しにも、ベッドの下にも何処にもそれは見つからない。
 ブラジャーやキャミソールすら見つからない始末だった。
 このままではパンツハンターの名倒れではないか。
 それだけは勘弁願いたい。
 しかしこのまま長時間宴会場を離れていると、色々と勘ぐられそうだ。
 もはや一刻の猶予も無いというのに。
 時計の針は残酷に一秒一秒と時間を刻んで行く。
「うおおおおおジゼルのパンツうううう何処なんだあああああ」












「……何やってるんですか」
 三つの軽蔑の眼差しが、何時の間にか彼を射抜いていた。