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夢見月のアクアマリン

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夢見月のアクアマリン

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〜扉1〜 

 
 転送装置の前には、何人もの契約者が集まっていた。
「あなた、こんな事を起こしておこしておいてよくも顔が出せたものね」
 御東 綺羅(みあずま・きら)マリス・マローダー(まりす・まろーだー)はジゼルの顔を見るなり、吐き捨てるようにそう言った。
「死にさえしなければ力を奪って捨てても良いなんて、とんだ偽善者ね。
 貴方の言い分は”腹が減ったからお前の腕を斬り落として食わせろ”と言ってるようなものよ」
「一方的に騙されっぱなしってのは面白くないよね」
「……ごめんなさい」
「謝ればいいって訳?
 はっ!! 可愛い顔してとんでもない女ね、あなた自分のした事が分かっているの?」
 綺羅が顎をしゃくる先には蔵部 食人(くらべ・はみと)魔装戦記 シャインヴェイダー(まそうせんき・しゃいんう゛ぇいだー)がやっとの事で立っている。
 唇からは荒い息が漏れ、誰が見ても衰弱している事は明らかだった。
 そんな彼を、シャインヴェイダーはぞんざいに投げ捨てた。
「食人!」
 ジゼルが食人に駆け寄って、彼の身体を抱き起していると、上から無感情な声が降ってくる。
「これはお前の仕業か?」
 答える事が出来ずに肩を震わせていると、シャインヴェイダーは言葉を重ねた。
「それ程に苦しいなら何故こんな事をした。
 悪の魔法使いになりきれないのなら、とっととそんなのは辞めて悲劇のヒロインでも気取ればどうだ。
 君を信じて助けてくれるような”お人良し”なんてそこら中にいるだろう?」
「あなたおかしいわ。
 あの襲ってくる奴等と同じ。いえ、もっと酷い偽善者の、モンスターよ」
「まあまあお嬢さんたち、少し落ち着いて」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だ。
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が、ジゼルから食人を預かると、エースはジゼルに向かって紳士然と手を差し伸べる。
「頭ごなしにそんな風に言っては何も解決しないよ、今は皆が無事に帰る方が先決」
 エースは笑ってそう言うと、ジゼルにウィンクしてみせる。
「エース、私」
 ジゼルが口を開こうとすると、エースの人差し指がそれを止めた。
「おっと、今は何も言わないでいいよ。
 それより彼に声をかけてあげた方がいいんじゃないかな?」
 エースが言うと、エオリアが食人を連れてこちらへやってくる。
 食人は立っているのもやっとのようだったが、ジゼルの目を見ると口を開き始めた。
「私、あなた達を騙して――」
「ジゼル、俺は思うんだ。
 ここに集まった連中は、元々は君を助けてくれた人達で、それから今日も君の事を思って集まってくれたんだろ。
 君の事を少しでも、好意をもっていてくれた人達って訳だよな」
「うん」
「そんな人間なんだから、きっと話せばわかってくれるさ」
「私……皆に……あなたに酷い事を……」
「俺は目つきが悪いし、顔に傷痕があるし、世渡りがヘタだから、君みたいに何度か出会った程度の人達に慕われるなんて事は殆どない。
 だからジゼルに対しては羨望こそすれ、悪人だなんて思っちゃいないし、ましてモンスターだとも思わない。
 今は本当の友達じゃないかもしれないけれど……ここから出たら、仕切り直して……本当の友達同士になれたらいいな」
「うん……うん!」
「ジゼルさん、そろそろ食人さん達を外へ」
 エオリアの申し出に、ジゼルは涙を拭うとネックレスを外す。
「エース、これが転送装置のカギになるわ。もうひとつの鍵は宝玉の間だから、私はそこへ行ってくる。
 私が発動させればそこの中央に石板が現れるはずよ。そしたらこの石をそこへ置けば作動するから、皆を外に出してあげて」
「受け取るよ」
 ジゼルはエース達に頭を下げると、踵を返して走り出した。