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リアクション
闇雲に探し回るのは良くないと、鵜飼 衛(うかい・まもる)はルーン魔術カードを用いて、占いであたりを付けることにした。
呪文を唱え、大幅に魔力を上げることで、占いへの集中を高める。
そうして、占いの対象であるパートナーのメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)のことを思いながら、数枚のカードを手にした。
「……ふむメイスン。おぬし、『求めるモノ見つける』と出たぞ。おぬしに着いていくと食糧が手に入りそうじゃのう」
カードの意味を読み解くと、衛はそう告げた。
そして、片付け終えると、もう1人のパートナー、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)も連れ立って、メイスンの行きたい方へとジャングルの中を進んでいく。
ジャングルの中を進んでいくと、衛はふいに、何か食べ物の匂いが漂ってくることに気付いた。
「これってどこかで……」
「ん、この臭いは!」
衛が首を傾げている間に、メイスンは何かに気付いたのか、歩を進めた。
「ま、待ってください〜」
慌てて、妖蛆が後を追い、衛もそれに続く。
「って、なんじゃこりゃあ!?」
先に歩いていったメイスンが足を止めた先にある立つ木を見上げた衛は声を上げた。
彼が驚くのも無理はない。
木の枝の先に、丸くて平たい粉モン――『お好み焼き』が実っているのだ。
「こ、これは『お好み焼木』! この伝説の木をここで発見できるとは思わんかった!」
「メイスン、おぬし知っとるんかい!?」
驚きと感動に声を上げるメイスンに対し、衛はそちらにも驚きを見せる。
「見た目と匂いだけで、食べ物ではないということはないじゃろうのう?」
早速、採ってみようと衛が木へと近付いた。
「衛様、危険です!」
後方に控えていた妖蛆が声を上げ、火を呼び出して、玉のようにして放つ。
火の玉の向かった先の枝には、大蛇が首を伸ばしており、近付く衛へと襲い掛かってこようとしていたのだ。
「カカッ、やけにでかい蛇じゃが、丸焼きじゃ!」
大蛇に気付いた衛は炎の嵐を呼び出した。大蛇に向けて、その嵐をぶつければ、彼の宣言どおり、その身が焦げて丸焼きにされていく。
「……こ、この臭いは、鉄板で焼けるあの臭い!」
ふいに声を上げたメイスンが、別の枝から様子を窺っていた大蛇に対し、手にした柄からビーム状の光刃を作り出す剣――ライトブレードを振るった。
見事に真っ二つになった大蛇の亡骸の切り口から、どろりとした体液が流れ出る。それを手にして、メイスンは一口舐めてみた。
「メイスンの斬った蛇の血が……、血?」
新たな香ばしい匂いに、衛が首を傾げる。
メイスンが手に持った大蛇の亡骸から流れ出ているのは、血ではなく、ソースのようなものであった。
「これは血がお好み焼きソースの『お好みソースネーク』! それに近くには『青ノリーフ』も群生しておる! これらを合わせれば、天然のお好み焼きができる! まさにお好み焼きの楽園じゃ!」
辺りを見回して感動に震えるメイスンに、衛と妖蛆は互いの顔を見る。
「こんな未知が世界にはまだあるのですねぇ……」
己の知らないものばかりを目にしたことで妖蛆はポツリと、呟いた。
「こういう面白いモノもあるとは、世界は奥が深いわい! カッカッカッ!」
逆に衛は笑顔を見せる。
そうして3人は、試食できそうな分量だけ採るのであった。
*
エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)は1人、ジャングルの中を歩いていた。
時に果物や木の実を探して木々の合間を見ることもあれば、時に草陰などを覗き込んで食肉になりそうな小動物を探してみる。
草陰から顔を上げた先に、美味しそうなマンゴーを見つけて、エリザベータは近付いていく。
熟していそうな1つをもぎ取ると、味見と称して、一口齧る。
美味しさが口の中いっぱいに広がって、口元を綻ばせていると、近くの草むらがガサリと揺れた。
「!」
素早く身構えたエリザベータへと突進してきたのはイノシシだ。
すれ違い様に刀身が高速振動することで高い破壊力を得ている、高周波ブレードで一撃、斬りつけるも、タフなイノシシはそれだけでは倒れない。
イノシシの突進と、それを受け流しながら入れられる彼女の一撃とが、暫しの間、繰り返される。
「中々やるわね貴方。でも、次で終わらせてあげるわ!」
エリザベータはそう告げて、高周波ブレードを構え直した。イノシシもいつでも来いと言わんばかりに、鼻息を上げる。
踏み込む彼女と、突進してくるイノシシ。
刀身と、牙がぶつかり合って、すれ違う。
そのまま、どう……と倒れたのは、イノシシだった。
「やったわ、大物が取れたわ!」
倒れたイノシシを前に、エリザベータは喜びながら、ほっと一息ついた。……が、それも束の間。
油断した彼女を背後から、巨大な食虫植物が襲いかかる。
「きゃあ!?」
うねる蔦が、エリザベータの身体を捕らえて締め上げたのだ。
*
「気を付けて下さいね。美緒さん」
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が美緒へと心配の声を掛ける。
「はい。ありがとうございます」
美緒は頷き返し、歩を進めていく。
彼女らが探すのは、同行するオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)の提案の下、飲み水になる水源であった。
エッツィオが空気中の水分濃度や地質の保水力を確かめながら、沢或いは川、湖を探す。
一行は、ジャングルを抜けつつ山に向かっていた。
時折、木々に実る果実などを見つけては、食べられるものかと試してみたりしながら、ジャングルを進んでいると、「きゃあ!?」と何処からか悲鳴が聞こえてくる。
「何でしょう!?」
美緒が辺りを見回し、ラナや正悟も身構えた。
イナンナの加護を受け、身に降りかかる危険に対して敏感になっている小夜子だが、危険は自分たちに向いていないのだろう。感じ取ることは出来ない。
「行ってみましょう? 何方かが、危険に晒されているのであれば、助けませんと……!」
「美緒がそう言うのであれば……。皆さんもお願いします」
ラナは頷き、周りの皆へと声を掛けてから、美緒に纏うビキニアーマーへと姿を転じる。
そうしてから声のした方へと向かうと、
「エリザベータ!」
オルフィナとパートナーを同じくする彼女が、蔦をうねらせる食虫植物に捕らえられ、武具を奪われてあられもない姿にされた状態で、今まさに大きく開いた口の中へと入れられようとしていた。
「助けますわ。少々我慢してくださいね」
告げて小夜子は御札を取り出すと、稲妻を呼び寄せる。雷電が、食虫植物の本体そのものを駆け抜け、痛みを与えた。
「っ……今、ねっ」
蔦に捕まっているエリザベータにも少しの雷電が流れてきて顔をしかめる。けれど、痛みに蔦が緩んだ今がチャンスだと、抜け出した。
痛みを振り切り、食虫植物が再び、蔦をエリザベータへと伸ばすけれど、間にオルフィナが立ち塞がり、構えたバスタードソードで叩き斬る。
その傍から、すぐに別の蔦がうねうねと動く。そして、美緒へと伸びてきた。
「きゃっ!?」
「美緒!」
驚いて身を竦める美緒を正悟が庇い、彼が蔦へと捕らえられる。
他の蔦も伸びてきて、彼の武具を奪おうとしたところで、はたと蔦の動きが止まった。
「うわっ!?」
ポイッ、と。
お前には用は無いとでも言わんばかりに、蔦は正悟を投げ飛ばし、再び美緒へとその蔦を伸ばして、彼女を捕らえる。
「い、いやぁ……」
捕らえて、邪魔されぬよう高く持ち上げられた上に、他の蔦が伸びてきて、ラナであるビキニアーマーを外そうと蠢く。
「うぅ……気持ち悪い、ですわ……」
蠢く蔦の感触に、小さく呟いた美緒は気を失ってしまう。
「美緒、気をしっかりと……!」
外されて喰われてはならないと、ラナは声を上げた。
「美緒さん!」
小夜子も彼女を助け出そうと、食虫植物の懐に飛び込んで、その本体へと拳を繰り出した。一度の痛みは少ないものの、七度に渡る連続攻撃により、積み重ねは大きくなる。
必殺技が出るかと思いきや、その前に他の蔦が伸びてきて、最後の一撃を防がれた。
「嬢ちゃん、どんな状況だ、これ!?」
美緒が気を失ったことにより、内側から出てきた“黒髭”が声を上げる。
「見ての通りの状態だよ。とりあえず、じっとしててよ!」
投げ飛ばされていた正悟が漸く身を起こし、断罪の覇剣ツュッヒティゲンを構えた。
身に付けた剣技で以って、正悟は黒髭を捕らえている蔦を斬り付ける。
緩んだ蔦から抜け出した黒髭が地へと下りると同時に、正悟の斬り返した刃が食虫植物の本体へと突き刺さった。
痛みに耐えかねた食虫植物の蔦が力なく落ちて行き、本体も地面へと倒れていく。
「まあ、これくらいなら大丈夫でしょうか」
エッツィオが呟く。未開の島であるならば、その均衡を崩すようなことはしたくないと、戦いに手は出さなかったのだ。
「助かったぜ。だが……蔦からも捕らえたモノを溶かすような何かが出てんのか? すっげぇベタベタする……」
「不快だわ……」
黒髭とエリザベータが、眉を寄せた。
「水の落ちるような音が聞こえるから、滝でもあると思うぜ。もう少し進もう」
辺りの音を探るようにしていたオルフィナが告げるので、一行はジャングルの中を暫し歩き進む。
すると、ジャングルが開けると共に、彼女の言うとおり、崖の壁面から湧き出る水が滝のようになり、落ちてきた水が泉となっている場所へと辿り着いた。
「ヒャッフォー!」
見つけるなり、黒狼の外套や武具を外したオルフィナが泉へと飛び込んでいく。
「生き返るぜぇ! おーい、美緒もエリザベータも来いよ」
泉の中央の方へと泳いでいった彼女が手を振って、2人を呼ぶ。
「おーう」
「待ちなさい、黒髭!」
そのまま応え、武具を外そうとする黒髭を、ビキニアーマーになっているラナが制した。
「……流石に、嬢ちゃんの裸は見せねぇってか」
バレたか、とでも言うように苦笑いを浮かべた黒髭は、瞳を閉じてすっと気を抜く。
同時に、美緒が表に出てきた。
「ありがとうございましたわ、黒髭様。でも……見られたくはないですわ」
美緒はそう告げてから、ラナと離れる。
「正悟さん、エッツィオさん、あなた方もジャングルの方でも警戒しててくださいね」
「あ、ああ」
小夜子の言葉に、正悟は慌てて、身体の向きを変えた。エッツィオもそれに続いて身体を反転させる。
「さあ、脱いだ脱いだ……おっ、相変わらず良い胸だな」
「オルフィナ様! そのようなこと、口に出さないでください、恥ずかしいですわ」
岸へと戻ってきたオルフィナに、ひん剥かれるように武具を脱がされて、恥じらいながら美緒は泉へと入る。
エリザベータやラナもそれを追い、美緒たちは泉で身を清めた。
肌に纏わりついていたベタベタした感触を流し終えた一行は再び、探索へと戻る。
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