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【●】光降る町で(後編)

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第六章:覚醒する真実




 その手にあったのは、珠のようだった。
 唐突にそれが光を放った瞬間、横たわる女性を包んでいたガラスのようなものに大きな亀裂が走り、一斉に吹き上がった黒い腕が、その隙間に群がるようにして入り込むと、女性の体に絡み付いていく。同時に、誰かの苦しげな叫び声が響き渡り、誰もが思わず息を呑んでそれを見やっている内に、絡みついた黒い腕は完全に女性を飲み込み、そして――……それは、始まった。


 最初に聞こえたのは、呻くような音だった。地の底が震えるようなその声は、段々と近づいてくると、低く淀んだ響きで空気を震わせ始めたが、それよりも尚意識をざわつかせたのは、その声の中に混じる深い怨嗟の念だった。恨み、嘆き、憎しみ――それらを練り合わせて凝り固まったものをそのまま音にしたようなそれが、ドーム中に反響する。

 そんな、誰もが耳を抑えたくなる衝動に駆られるような音の洪水の中。
 ただ一人平然と、寧ろ心地良さそうにして、一人の男が立っていた。

「――聞こえるか、歓喜の声が。信徒たちを皆殺され、巫女を奪われ、永き封印を受けた超獣の、目覚めの歌が」

 長めの焦げ茶の髪に緑の目。錫杖にも似た槍を手にする、真っ白い古代の神官服らしきものを纏った青年が、低く笑う。ディバイスの口を借りていたのは彼だと、誰もが直感的に理解した。
「……超獣、だと?」
 青年から感じる強いプレッシャーに、足元が震えかかるのを堪えながら、クローディスが問うのに、青年は目が一つも笑っていない笑みで、そうだ、と答えた。
「お前たちにとっては太古の昔、この地に大地のエネルギーが集まり、一つの意思の様なものを持った。それが、超獣だ」
 本来は循環してゆくべき大地の力が、何かのきっかけで巨大なエネルギー生命体のようなものへと変質したのだ、と青年は語る。そして、それを超獣と呼んで、彼と彼の一族たちは、今まさにトゥーゲドアの町があるこの場所で、長い間守ってきたのだと言う。青年の纏う神官のような服装から見て、彼自身もその守人の一人だったのだろう。
「俺たちはただ、超獣が暴れ出して大地を損なわないように、見守っていただけだった。だが……力を恐れ、利用しようと下や面に、俺たちは邪教の誹りを受けた」
 淡々と語る声に、段々と暗い色が深くなっていく。鋭い目元に、強い憎しみが閃き、ぎり、と奥歯を噛む音が鳴った。
「一族を皆殺しにされ、町は滅びた。巫女は永き眠りから目覚めはしない――……」
 一言一言に、強い憎しみが溢れさせながら、シャラリと槍を鳴らしてその切っ先をクローディスへと向けた。
「何故、殺されねばならなかった。何故全てを奪われなければならなかった。俺は認めない……俺は許さない」
 ほとんどうわ言のように呟き、唐突ににい、と青年は笑うと、その切っ先を今度は床へと向け、勢い良く地面へと突き立てた。それを合図に、地面から巨大なエネルギーの塊が噴き出し、灰色を極限まで濃くした結果そうなったような黒い色をしたそれは、腕の形を取って地上へと伸びていく。その内の一塊の上に青年は飛び乗ると、そうしている間にも増えていく黒い腕に、じりじりと後ろへ下がっていくクローディスたちを見下ろして、嘲るようにして笑った。
「約束は果たされた。町は安定を、力はあるべき場所へ……超獣の元へと還る」
 撤退の殿を務めるクローラは、地上へ向かったのか、姿をかき消していく青年が、最後に憎悪に満ちた顔で笑うのを見た。


「今は行くがいい――……復讐は、これからだ」