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6/ お疲れ様


 お疲れ様。そう言って、目の前にはチョコバーが差し出されている。
「あ……ありがとう、ございます」
 倒木をベンチがわりに、彩夜は腰かけて肩の傷への本格的な治療を受けていた。
「どうしたいかって答え、出たみたいね。よかった」
 ルカルカ・ルーさん……ルカさんは、肩を竦めてまるで自分のことのように、嬉しそうに笑う。
 なんだかこそばゆくって、気恥ずかしさに彩夜は受け取ったチョコバーへと視線を落とす。
「出たというか、出せたというか。まだ完全にってわけではないですけど……皆さんのおかげです」
 ありがとう、ございました。
「ええって、そんな謙遜。嬢ちゃんはようやった思うで?」
 泰輔が隣に腰を下ろし、ぽんぽんと肩を──もちろん、治療中ではないほうを──叩く。
 これでよし、と、ティアが塞がりかけた傷口に白のガーゼを固定してくれた。制服は破れたままだけれど、これはあとで繕えばいい。
「僕な、もともとはこの学校おったんやで? まぁ、今後とも仲良うしてや」
「え、あの。その、はい」
 フランクな言葉を向けられ、彩夜は少し戸惑った。
 正直、まわりにいる人々皆に対して、仲よくするとかそれ以前に、……ただただ、感謝の気持ちしかなくて。
「嬉しい、です。その。光栄、です」
 オーバーやなぁ。泰輔が言うと、釣られて皆が笑った。彩夜も、苦笑気味に笑った。
「そのほうがいいな」
「ええ。とっても」
「……?」
 エースが呟き、加夜がそれに同調する。そのほうって……どのほう?
 きょとんと、ふたりに向けて彩夜は首を傾げた。
「笑顔のほうが可愛い、ってことですよ」
 真人が繋ぎ、いたずらっぽく彩夜を指差した。
「か、かわ……かわい、くなんて。そんな」
「あ、照れてる。かわいー」
 詩穂とシリウスが、笑いあっている。
 そして。
「……小説家。なりたいんだっけ?」
 ぶっきらぼうに言い捨てて、ルーシーがまっすぐ、彩夜のことを見下ろす。
 なにしろ一度は銃口を向けられた相手だ、思わず彩夜も身を硬くして、縮こまらせる。
「バーカ。今更、取って食ったりしやしねえよ。今日みたいな出来事を参考にさ、小説とか書いたらいいんじゃねえの?」
 ぷいとそっぽを向きながら、そんなことを言う。
「……その、なんだ。先輩としての提案つーか、忠告っつーか。どっちみち、この学校にいるかぎりこういう出来事には退屈しないだろうしな」
「あ……」
 違いないですね。色々、起こりすぎです。思い当たる節が浮かんだ真人をはじめ、何人もが彼女の言いぐさに苦笑している。
 平穏とは程遠い──そういう場所だ、ここは。
「色んなことを体験して、知ること。小説を書く題材には困りませんよ、きっと。……私も、読んでみたいです。彩夜ちゃんの小説」
「え、ええっ?」
 私も。あたしも。僕も。加夜の言葉に触発されたように次々と手が挙がり、きょろきょろと彩夜は彼ら彼女らを交互に見回した。
「ねぇねぇ、このあと何か用事とか、ありますか?」
「ふえっ」
 アルコリアが後ろから、ひょいと抱きつく。
 用事。一応、戦闘の当事者として事情聴取は受けなければならないだろうけれど、それは皆だって同じこと。
 別に、他に用事も特にはない。
「それなら、一緒にパフェ食べに行きませんか?」
「えっ」
 それは、予期せぬ誘い。
「お、いいねー。ウチらも行こうか」
「あ、じゃあ僕も」
 口々に、周囲が先ほどと同じく便乗していく。
 まさかの誘いに、彩夜自身が返事を返せていないにもかかわらず、周りがひと足先に進んで行く。
 ああ、また流されてる。これじゃあダメだって、動かないとって、思ったばかりなのに。
「行きましょう? 彩夜さんのおかげで皆、助けられたんですから」
 眼鏡を押し上げながら告げられたベアトリーチェの言葉に、
「は、はいっ」
 思わずすっくと立ち上がり、裏返った声を出してしまう。
「れ? ひょっとして彩夜ちゃん、パフェ嫌いとか」
「そ、そんなことないですっ。大好きです、とっても好きですっ」
 もう自分が何を言っているかもよくわからなかった。
 いっぱいいっぱいの彩夜の様子に、周りの面々からどっと笑いが巻き起こる。
 ふと左手を見ると、血で真っ赤に汚れていたはずの包帯が真っ白で清潔な新しいものに、いつの間にか巻き換えられていた。
 肩の治療を受けていて、全然気付かなかった。一体誰がやってくれたんだろう。笑いあう皆を見渡して、犯人を捜す。
「……あっ」
 先輩たちのつくる人垣の先。クラスメート──香菜が、真新しい包帯のロールをその掌で玩んでいる。
 視線を注いでいると、こちらにあちらもやがて、気付いた。
 不敵に、香菜は彩夜へと笑う。
 そして唇をオーバーに動かし、声なき声で伝える。

 パフェ。みんなで食べに行きましょう。

 同級生からの誘いに、ぱっと彩夜の表情が明るくなる。
「さ、行くよー!」
 右手を美羽に、左手をアルコリアに引かれて、問答無用で連れ出されていく。
 危うくつんのめりそうになってどうにか立て直しつつ、足取りを身体が追いかける。
 前に、進んで行く。
 さしあたってその先には、パフェという名の甘美な未来が待っている。

                                        (了)

担当マスターより

▼担当マスター

640

▼マスターコメント

ごきげんよう。担当ゲームマスターの640です。リアクション『魔法少女をやめたくて』、いかがだったでしょうか?
今回初登板のNPC、詩壇彩夜については皆さん、やさしかったり、手厳しかったりという風に各々反応がきれいにわかれていましたが、いずれもNPCにとって様々に影響を与えてくれるアクションとなっていたのではないかと思います。皆様それぞれの「先輩らしさ」が出ていたら、幸いです。
できるかぎり今回は「二度以上それぞれのキャラクターに出番・見せ場をつくる」つもりでリアクション執筆を行っていったのですが、どうだったでしょうか? さすがにすべての人物について、という風にはいきませんでしたが、それでももっとこれからもなるべく多く、たくさんの参加者さんたちに複数の出番を用意したいですね。

まあ、結局これも要精進ということです(汗

それではまた、次のシナリオガイドでお会いできることを祈りつつ。
では。