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リアクション
タワーに上る鉄心たちと別れた鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は、タワーの前でグランドコンコースを見渡した。
辺りは、三方それぞれのゾーンから来た人々の流れの合流点だけあって、一般客でごったがえしている。
はぐれた連れの名を呼んで走り回る者。連れに会えた安堵で泣き崩れる者。それとは関係なく、恐怖の形相で意味のない悲鳴を上げながら走り回っている人も幾人か目に留まった。
係員と協力者がメインゲートへの誘導をしていたが、まだ時間が掛かりそうに見える。
この状態で、またバケモノがここに向かって来たら……想像するだけでもおぞましい阿鼻叫喚の巷になることは目に見えていた。
バケモノの目的は、未だ不明だ。囮や揺動に反応するなら、それなりの知性は持っている筈なのだが。
貴仁は非常用の携帯を取り出し、鉄心を呼んだ。が、つながらない。
こんな、目と鼻の先にいるというのに。
苛立ちながら、メールを打ち込む。メールなら、非常用の回線がある。
『攻撃が効いてるのに倒せないって変だよね。どういうことなのか、ちょっと直接聞いてみるよ!』
……送信。
送信失敗のメッセージが入らないのを確認して、貴仁は顔を上げた。
そして真正面、ステージゾーンを見晴るかすように視線を送り、感覚をオープンにした。
「ちょ、えええっ!?」
携帯の画面に向かって、ティー・ティーが叫んだ。
「直接って、誰に!? っていうか、無理! 不許可! やめてください!」
「どうされましたの?」
隣でPCに向かっていたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が不思議そうに訊いたが、ティーは答える余裕もなく、大あわてで携帯に文章を打ち込む。
送信……そして、二人で息を詰めて携帯を見つめる。
ぴろぴろん。
「あああ、繋がりませんんん」
「何をやってるんだ、あいつは……」
鉄心は頭を抱えて広場を見下ろした。
「本物の古き神々なら、その存在を知覚しただけで発狂する。仮に紛い物だとしても、テレパシーで直接コンタクトとは……愉快なヤツもいたものじゃな」
ティーは思わず顔を見たが、当の鵜飼は何の他意もない様子だ。鉄心が軽くため息をついて言った。
「とにかく、呼び続けろ」
ティーは頷いて、再び携帯に向かった。
周囲の人々の錯乱した恐怖の感情が、貴仁の中に一斉に流れ込んでくる。
それに引きずられぬよう注意深く感度と自分の感情を抑制しながら、そろそろと遠くへ感覚の手を伸ばして行く。
その存在は、すぐにわかった。
周囲の恐怖など掻き消えてしまうような、激しく巨大な感情。それは、残酷なまでの侮蔑と嘲笑の波動だ。
そしてそれは真っ直ぐに、己自身に向けられている。
愚かだ、愚かだ、愚かだ! どこまでも愚かで、おめでたい! ははは、はははははは。
「はは、は……」
貴仁の口から、小さな笑い声が漏れた。
あまりにも巨大な感情の波に、貴仁の理性は抗う術もなく飲み込まれて行った。
「ははははは、愚かだ、くだらん、あはは、ははははは」
哄笑をつづける貴仁には、もう手の中で呼び出し音を鳴らし続ける携帯の存在など、どうでもいいことだった。
そして、自分のすぐ横に、機晶悪弾が着弾したことにも、あまり興味は持たなかった。
何故なら、そのとき既に彼は、気を失っていたのだ。
周囲にいた一般客が、蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。ほとんどはグランドゲートに押し寄せ、ゲート前はパニック状態だ。
人気の引いたタワー前に、爆発した機晶悪弾の白煙が立ちこめる。
それが次第に晴れたとき、そこには、ひとりの戦士……葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の姿があった。
「だ、だめだわ……アレ、どうするのよっ!」
悲痛な声で叫んだのは、吹雪のパートナーコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)だ。
「裁さんやアリスちゃん、まだ来ないっ?」
「むぅ……向かってはいる筈だが、連絡が取れん」
鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が陰鬱な表情を表現するように、鋼鉄の頭を左右に振って項垂れた。
吹雪の体の至る所に、ネバネバの白い筋が絡み付いている。それは生き物のように脈打ち、パラサイトソードに張り合うように、じわじわとその肌の上に触手に似た何かを伸ばしている。
しかし、その状態で吹雪はやけに爽やかに笑っていた。
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