イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

料理バトルは命がけ

リアクション公開中!

料理バトルは命がけ

リアクション

『長らくお待たせいたしました、審査員の方々が漸く復活したようです』
『いきなり弱点引き当てた人もいたからねー』
『若干時間が押しているので、ここからはまいていきますよ』
『おーけー、それじゃエントリーナンバー2、とっととまいりましょー!』

「二番手は私ですか……ではこちらを」
 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が審査員席に出したのは、刺身であった。薄く切られた切り身が皿の上に広がる様に盛り付けられている。
「これは……見た目はフグみたいですね」
 アザトースが皿をしげしげと見て呟く。
「……ど、毒とかあるんじゃないでしょうね〜?」
「それは無いんちゃう? フグに毒があるのは内臓部や」
「フグとは限らないですよ……まぁ頂きましょうか」
 恐る恐る審査員達は切り身を口に運ぶ。
「んー……食感は普通ね〜」
「そうやな、普通の刺身みたいな感じや」
「味も……まぁ悪くは無いですね……これは一体なんなんですか?」
「知りたいですか。ではそろそろネタばらしといきますか」
 そう言うとラムズは一旦奥へ引っ込み、もう一つの皿を持ってくる。
「「……え?」」
 泰輔とアスカが言葉を失う。
 皿の上には、シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)の頭が載っていた。
 本来あるはずの大小様々な触手は無く、首から上の頭部だけがちょこんと皿の中央に置かれている。
「……えーっと?」
「まさか……」
 それを見て、泰輔とアスカの頭にある考えがよぎる。『いや、そんなはずはない』『けどまさか』と思っていると、『手記』がにやりと笑みを浮かべた。
「我の味はどうじゃったかな? 美味い部位を選んだつもりじゃが、大小合わせて八十三本の我の腕が犠牲になったんじゃ、確りと味わうが良い」

「「毒の方がまだよかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 泰輔とアスカがダッシュで裏へと駆けていく。そこには嘔吐用のバケツが置いてある。
 放送できないような音声が聞こえてきていた。
「あーあー、ありゃ結構な感じでSAN値削れてますね」
 その物音を聞いて、ラムズが可哀想に、と呟いた。
「元凶が何を言うか」
「発案者は『手記』でしょう?」
「まぁの。けど身体全部使うとは思わんかったわ」
「仕方ないでしょう、味見もしないといけないんですし。本当は根元行くほど旨味あるから頭部も使いたかったんですけどね」
「やめろ、それは我でも流石に死ぬわ」
「根元程旨味があるんですか。先端はどうだったんですか?」
 ラムズと『手記』の会話に、残っていたアザトースが加わった。
「ああ、先端に行くにつれて味が落ちていましてね。逆に根元は生でも大丈夫なくらいだったので今回使わせてもらったんですよ」
「ほぉ……しかし、何かもう一つ味が欲しいですね。こう、山葵醤油みたいなの」
 そう言いつつもひょいひょいとアザトースは『手記』の切り身を口に運んでいく。
「けどそれだと先端も気になりますね。あと頭部も」
「だから本気で死ぬと言うとろうが……ところで、食って平気なのかのぉ?」
「何がです?」
 アザトースがもきゅもきゅと刺身を食べつつ首を傾げる。その姿に『手記』が「何でもないわい」と答えた。
 結局の所、アザトースはそのまま完食。それまで残りの二人は裏から戻ってはこれなかった。
 ちなみに『手記』の身体は二週間程度で全快するそうである。そんな『手記』だからできる芸当なので。よい子は真似してはいけない。

「さーて次は俺達の番だぜー!」
 続いて現れたのは、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)真田 幸村(さなだ・ゆきむら)真田 大助(さなだ・たいすけ)の親子チームである。
 自信満々に氷藍が審査員達に見せつける様にクロッシュを開ける。
「俺達の自信作のチョコレートケーキ! さぁたんと食うがいい!」
「さ、どうぞ。あ、口直し用のジュースも置いておきますね」
 大助がジュースと一緒にケーキを切り分けて配るが、審査員達はなかなか手をつけない。
「……絶対まともなモンちゃうよな」
 泰輔が警戒の姿勢を崩さず、ケーキを見る。
「見た目は、まぁ……普通ね〜」
 アスカが言う通り、ケーキの見た目はそこまでおかしい所はない。
「でも何か色々と細かい所は気になりますねぇ……何か変な臭いしますし……」
 アザトースが呟いた。ケーキはよく見ると、所々粒のような物がクリームに混じっていたり、カカオ豆が丸ごと入っていたり、かと思えば砕いてあったりとバラバラである。
 そして、手をつけるのをためらうような異臭がケーキから発せられていた。
「食わないのか? 別に変な物は入れていないつもりだが」
 幸村に言われ、『ぜってー嘘だ』と審査員達は心の中で思う。しかし最早後に引けず、覚悟を決めた様に審査員達が恐々口にケーキを運ぶ。

「「「んぶぉあッ!?」」」

 そして噴出。

「ごふッ……! がふッ……! げふぉッ……!」
 アザトースが咽返りながら耐えるのは口内を襲う辛さ。ケーキにかかっていたソースが、とてつもなく辛い。油断しきっていた所に来た辛さに、目を見開いて呼吸を整えるので精一杯である。
「か、辛!? そ、それとに、苦いわよ〜!?」
 アスカの口内を、辛さ以外に苦味が襲う。舌を抉るような苦味に口を押える。
「こぉれアカン! これホンマにアカン奴や!」
 泰輔が叫ぶ。辛さ、苦さ、そして口に広がる異臭と不快感が奏でるハーモニーに全身悪寒が走っていた。味覚だけでなく他の五感に加え、三半規管まで狂いそうである。

『えー……辛いって言ってるけど、何か情報あるピュラ?』
『かかっているソースがデスソースだからでしょう。タバスコのジュレなんてのもありましたし。他にクリームは茶色い絵の具の隠し味に味噌と納豆などが入って、お茶とガソリンで硬さを調節してました』

「アウト過ぎるわ! 何が変な物入れてないや!」
 泰輔が叫ぶ。が、幸村も氷藍も首を傾げる。
「いや、別に入れたつもりはないんだがな」
「っかしーなー?」
 二人は本気で解らないようであった。二人は二人なりに真面目に作ったつもりであった。それだけにタチが悪い。
「こ、この分だとこれも危険ね〜……」
 アスカがジュースを手に取ってみる。
「そっちも別に変な物入れていませんよ? 健康を考えてマムシジュースと青汁をブレンドしてドクダミを添えたんです」
 大助はそう言うが、充分変な物が入っている。むしろ変な物しかない。
「こ、これ……アラザンじゃないですよね……」
 何とか耐えたアザトースが口元を押さえつつ、クリームに混じるアラザンのような物質を指す。
「あ、後カカオに混じって違う物も入ってるわ〜……」
 アスカの言葉に、幸村が頷く。
「ああ、アラザンは用意するの忘れたから消臭ビーズで代用した。後カカオと一緒におかかも入れておいた」

『ちなみに正式名称は『血汚固霊吐・刑鬼』だそうです』
『口で言ってもわからないわよそんなの!?』

「私はギブアップ〜……おかかでトドメ刺されたわ〜……」
 アスカがぐったりとした表情でテーブルに突っ伏す。
「所で、これはなんですかね? 味も変ですし……」
 アザトースが指さしたのはケーキの上に載っている物体である。
「ああ、それは僕も気になっとったんや。食感も見た目もカカオとはちゃうしな」
 泰輔も頷く。それは見た目はトリュフに似ている物であったが、よく見ると何となく違うような気がする。
「ああ、それは大助が用意したもんだ。漢方らしいが、何だっけ?」
 氷藍が問うと、大助が口を開いた。
「ああ、それは『五霊脂』ですね」
「「『五霊脂』?」」
 聞きなれない単語に、アザトースも泰輔も首を傾げる。
「ええ、活血作用のある物でして、ムササビの●●なんですよ」
 大助が平然と言ったその単語に、二人が凍りついた。

 ちなみに●●に入る文字のヒント。
A「なぁなぁ、う●こ味の●んことカレー味のカレー、どっちか食わなきゃ殺すって言われたらどっち食う?」
B「お前ふざけんなよ! うん●食ってる時にカレーの話すんじゃねーよ!」
C「逆だ逆!」
※赤文字部を難しく言った文字が入ります。


「「そんな物食わすんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ」」
「はぶぉぁッ!?」
 流石にキレたアザトースと泰輔が大助の顔面をぶん殴った。勿論グーで。
「あぁ! 大助になんてことするんだよ!」
「俺達の大切な息子に何て事をしやがる!」
「何て事しやがるはこっちのセリフですよ!」
「そんな言うなら君らこのうn……五霊脂とやら食べてみんかい!」
「「それは断る」」
 氷藍と幸村が首を横に振る。
「……た、食べなくてよかったわ〜」
 一人アスカが、安堵の息を吐いていた。
 この後誰も食べるわけがなく、氷藍チームの『血汚固霊吐・刑鬼』は審査員全員が審査拒否という結果に終わった。当然だが。

「私の料理はこちらです」
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は今までのチームと違い、クロッシュを被せた皿を持ってこなかった。
 代わりに持ってきた……というより、連れてきた、というのが正しかった。
 優梨子が指したのは、笑みを浮かべながら虚ろな目で虚空を見据える3人のモヒカン達であった。
「さ、どうぞ召し上がれ♪」
 優梨子が審査員に満面の笑みを浮かべる。
「炭、名状しがたき者、う●こと続いて遂には人肉ときたか……まだ僕人間捨てたくないで……」
「さ、流石に人は無理よ〜……」
「私もちょっと……カニバリズムの趣味は無いですね……」

 審査員は全員でギブアップの札を立てていた。
「あらあら、皆さん勘違いをなさってますね。この方々を食べろ、だなんて悪趣味な事はしませんよ」
 困ったように優梨子がほほ笑んだ。
『ルール的にはあってもおかしくないんだけどねー』
『では藤原選手、料理の説明をお願いします』
 ピュラの言葉に優梨子は「はい」と笑みを浮かべる。
「では……この方々は大荒野や空大でスカウトしてきた健全なモヒカンさん達です。モヒカンさん達には下ごしらえとして【超有名銘柄の日本酒】を浴びせる様に飲ませ、【自称】……えっと、小麦粉をたっぷりと与えました。名付けて、『モヒカンさんの日本酒漬け小麦粉和え』ですね」
『一部ちょっと危ない発言があったっぽいけどここでは一応スルーで。で、何処が料理かわからないんだけどこの人達をどうするの?』
「ええ、それはですね……」
 モニカに問われた優梨子は、一人手頃なモヒカンを立たせると、首筋に噛みつき【吸精幻夜】で血を啜る。
「あっあおぉぉぉぉ……」
 血を吸われたモヒカンが悶えつつ喘ぐような声を上げる。ある程度啜ると、優梨子は口元から垂れた血を拭い息を吐く。
「……ふぅ。このように血を啜ると良いのです。首筋をがぶっと」
「「できるかぁぁぁぁぁ!」」
 泰輔とアスカが立ち上がり叫ぶ。
「タシガンの酒場ではこのように血を振舞われるものと聞き及んでおりますっ」
「いや嘘や! それは絶対嘘や!」
 泰輔の言葉に「うふふ」と優梨子が笑う。勿論適当に言っているだけなので信じてはならない。
「そ、そんな血を吸うなんて私はできないわ〜」
「そんなん僕かてそうや」
「なら首を掻っ切って血を用意――」
「「しないでいい!」」
 危うくグロの世界に突入するところであった。
「……なら私が行きますか」
 ここで、一人黙っていたアザトースが名乗り出る。
「え、君行くの?」
 泰輔にアザトースが頷いた。
「ええ、一応私【吸精幻夜】使えますし……このまま全員ギブアップっていうのも面白くないでしょう?」
「折角用意したのに無駄にならなくて助かります。それではどうぞっ」
 優梨子が危ない笑みを浮かべるモヒカンを差し出すと、アザトースは異形と化した左腕で血液を啜る。
「はぁぁ……あっおっ……おぉっ……あおぉ……」
 モヒカンが口の端から涎を垂らし、ガクガクと体を震わせる。
 失血量が致死量に至る前にアザトースは左腕を離すと、がくりとモヒカンは膝から崩れ落ち、ピクピクと痙攣する。
「……うっぷ……」
 そしてアザトースがげんなりした表情に変わる。
「お味はどうでした?」
 何処か期待したように聞く優梨子に、アザトースは口元を押さえた。
「……想像以上に……酷く酒臭いですね……これだけで酔いそうです……」
 相当な酒量を摂取したであろうモヒカンの血中は、急性アル中レベルでのアルコールが占めていた。その為か血の味すらも酷くアルコール臭がしており、アザトースに不快感を与える。
「気持ちよくは無いですか?」
「いえ……逆に……気持ち悪いですね……」
「そうですか……せっかく高級な【自称小麦粉】を使ったんですけどねぇ」
「ええ……その手の薬は耐性があるので効かないんですよ」
 アザトースの言葉に、優梨子ががっかりしたように俯いた。
『……えーっと、この場合はどうなるの?』
『一応アザトース選手は完食、他のお二方はギブアップ、という事で』
 だそうです。

「さて次はオレやな……」
 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が用意した料理は複数あった。それぞれがクロッシュを被せられたまま審査員席に並べられる。
「まぁこういうバトルでダメージって言うたら肉体的な物が基本や。というわけで、そこを責めようと思うんや」
 そう言うと裕輝はクロッシュを取り払う。
 そこに現れたのは、何物かが入ったスープ、ネズミの丸焼き、何かの幼虫の串焼きに蜂の幼虫を炒めた物であった。
「思ったんやけど、面白そうな食材があったんよ。で、こんなん作ったわけやけど。まぁいらんと思うが一応説明させてもらうで。何かわからない奴がおらんかもしれないし、そんな奴おらんかもしれんけど」
 裕輝は料理の皿を手に取り、薄笑いを浮かべつつ説明を始める。
「これは豚の丸焼き。ギニア豚、と言うとか言わんとか」
 手に取ったのはネズミ、モルモットの丸焼きである。ちなみにモルモットは英語で『ギニーピッグ(ギニアの豚)』と呼ばれることもある為、ギニア豚の丸焼きというのもあながち間違いではない、らしい。
「これは蚕の串焼き。この蜂の幼虫は蜂蜜で炒めたからデザートにあうかもしれん。ああ、このスープに関しては後で説明するかもしれん」
 そう言って串に刺さった蚕や、炒め物を紹介していく。スープに関しては触れず、裕輝ただ楽しそうに口元を歪めた。
「まぁ見た目は悪いが、味は悪くない、かもしれんな。食ったことないからわからんけど。まぁ嫌なら食わんのもええかもしれんけど――」
「なんつーか正統派のゲテモノって感じやな」
「そうね〜こんな蚕とかの虫の串焼きなんて久々に見たわ〜」
「今バラエティでもやりませんからねぇ。あ、これネズミなんですね。意外と悪くないですよ」
「って普通に食っとる!?」
 審査員達は平然と、ゲテモノ料理を口にしていた。
「……え、何で平気なん? おかしない? 普通何処ぞのさそり座の女の歌い手並みにキャーキャー言うもんちゃうの?」
 信じられない物を見るような目で裕輝が言うと、審査員の面々は首を傾げた。
「……そう言われてもなぁ、こういう料理もあるもんだと僕は思うし」
「実際料理としてあるからね〜」
「まぁこのくらいなら別に問題はありませんからね。普通でしょう」
「いやいやいや、作ったオレが言うのもなんやけど、普通ちゃうやろ」
 裕輝がツッコむがやはり審査員達は首を傾げた。
「と言われてもですねぇ……」
「ここまでろくなもんが出てないから、このくらいのゲテモノだったら平気やで」
 泰輔の言葉にアザトースがうんうんと頷いた。
「考えられへん……おかしいで自分ら……」
「所でこのスープはなにかしら〜」
 アスカが問うと、がっくりと項垂れていた裕輝が顔を上げた。
「ん? あぁ……そのスープは正直恥ずかしくて言いにくいんやけど……牛の金玉のスープや」
 恥ずかしくて言いにくい、という割にははっきりと裕輝は言った。
「食材にこんなもん置いてあるってのもどうかと思ったんやけど、まぁ見つけたからには使ってみたいと思うのが人の性って奴やな。珍味らしいし……って勘違いせぇへんでくれよ? 何を勘違いするかって? そりゃチン味って言わせんなや恥ずかしい。んでちょいと調べてみたらスープにする物らしいから適当に作ってみたんやけど金玉なんて食うの躊躇うよなってまた普通に食われとる!?」
 審査員達はまたも、極平然と食べていた。
「……え? 何で? 金玉やで? おかしない自分ら?」
「え? 別に珍味である物やし、おかしないやろ?」
「私はスープなら何でもいけるわよ〜」
「珍しい物ですが、食材ではありますしね」
 最早審査員達は他の料理ですっかり感覚がマヒしていた。
「……ちなみに味は?」
「「「くっさい」」」
 審査員達が声を揃えて言った。何でも牛の睾丸スープはサイの味がするらしいです。
 結局の所、あれよあれよと審査員達は全て食してしまった。
「……いや、オレおかしないよな? 普通アレ食えんよな?」
 裕輝の言う通り、普通ゲテモノはそんな平然と食べられる物ではない。しかし今回はそれ以上に殺しにかかっている物が多かったのであった。