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第十一章 史上最強の用心棒 二

「……やるわね!」
「そちらこそ……!」
 大剣と、炎を纏った刀とが何度も打ち合わされ、その度に派手めの火花が飛ぶ。
 八重とアルテミスの戦いは、八重の考えた演出とも相まって、この中でも一番正統派かつ見応えのある剣戟となっていた。
 それを察して、斬られ役の皆さんもあえてこちらに茶々を入れようとはせず。
 必然的に近くにいるなつがその相手をする形となったのだが……彼女も、実はあまり大勢相手の戦いは慣れてはいない。
「……っと、このっ!」
 まさか刀の攻撃は受けるわけにはいかないし、一人にそんなに時間をかけてもいられないので、必然的に打撃でのカウンターがメインになってしまう。
 相手がノリよくちゃんと一発でダウンしてくれているのが幸いだが、まずいことに、彼女が相手しなければならないのは下っ端ばかりではない。
「くらえいっ!」
 ハートビートキャノンの一撃を、とっさに飛び退いて避けるなつ。
 むろん、近くにいた下っ端の皆さんはナチュラルに巻き込まれている。
「仲間ごと吹っ飛ばそうとするなんて……!」
 普段のハーティオンからは考えられないことだが、今日のハーティオンは悪役である。
 正義の味方だけに、敵である悪役に関する知識も多く、それを活かした演技はなかなか堂に入っている。
「ふはは、逃げてばかりでは勝てんぞ!」
「……くっ」
 歯噛みするなつに、八重が声をかける。
「なっちゃん! こっちに!!」
「……そうか、わかった!」
 雑魚をあしらいつつ、八重の方へと向かうなつ。
 そこで、再びハートビートキャノンが放たれ。

「きゃああああああっ!?」

 ……案の定、アルテミスに命中した。
「しまった!?」
 その一瞬の隙をついて、なつではなく八重がハーティオンに向かって走る。
「なっちゃん!」
「ああ、任せろっ!!」
 度重なる誤射を受けつつも、八重を追おうと振り向いたアルテミスの前に、なつが立ちふさがり。
「必殺! 豪炎龍っ!!」
 なつの放った真紅の光の弾をまともに受けて、アルテミスは炎に包まれたままその場に倒れた。
 それとほぼタイミングを同じくして、八重が魔法の力で天高く飛び上がり。
「奥義! 鳳凰飛翔っ!!」
「鳳凰飛翔」と書いて「フェニックスブレイカー」と読む。
 刀の先から放たれた巨大な炎の鳥がハーティオンを包み――その隙にハーティオンは素早く合体を解き、バグベアードは画面切り替えの隙にこっそり退散する。
 炎が消えたとき、そこにいたのは「妖怪が退治されてもとに戻った」ハーティオンであった。





 一対一の状況から、敵が大勢増えてもほとんど苦にしていないのはルカルカ。
 むしろここが見せ場とばかりに、分身しては二刀流でばったばったと敵をなぎ倒している。
 そんなルカルカの勇姿を撮影すべく、隠形の術で隠れつつ至近距離での撮影に挑んだのは淵。
 術のおかげで他のカメラにも写らず、撮影の邪魔にもならないのだが、いかんせん役者陣にも見えないので、ときどき踏まれたり蹴っ飛ばされたりしている。
 それでも懸命に撮影を続ける淵の前で、雑魚をあらかたなぎ倒し終わったルカルカ「たち」が、一気に片を付けるべく未来へと向かう。
「……っと!」
 一人目の攻撃をかわし、二人目の攻撃を如意棒で受け止める未来。
 だが、その時にはすでに三人目にして本命のルカルカが、彼女の背後に回り込んでいた。
「おやすみ」
 ルカルカが刀を振り下ろすと、未来はふらふらと数歩前に歩いた後、如意棒にもたれかかるようにしてその場に倒れたのだった。

 ちなみにこの後、斬られ役の皆さんと一緒に淵まで一緒にブリジットに回収され、医療班に治療されるはめになったことは言うまでもない。





「結局、こうなるのね」
 セレンフィリティとセレアナは、お互いに背中を預け合うようにして多くの敵と戦っていた。
 セレンフィリティが狙い澄ました狙撃で中距離から遠距離の敵を倒し、近づいてきた敵はセレアナが炎や雷の術を使って退ける。
 そのチームワークは抜群であったが、敵の中でも腕の立つ者は、その中に生じるわずかな隙を確実についてきた。
 綱である。
「……っ!?」
 なぎ倒される斬られ役たちの合間を縫って、一瞬にしてセレンフィリティに肉薄する綱。
「もらった!」
 綱の横薙ぎの一撃を、しかし、セレンフィリティは銃でどうにか反らす。
「セレン!」
 セレアナがとっさに光術で目くらましを仕掛けると、綱は追撃を諦めていったん後ろに下がる。
 けれども、今度はこの隙を裕輝が狙っていた。
「隙ありや!」
 セレンフィリティと同じ方向を向いてしまっているセレアナの背後から奇襲してきた裕輝を、しかし、セレンフィリティが振り向きもせずに背後に向けて銃撃し、牽制する。
 急いで飛び退いた裕輝の方を振り返りつつ、セレンフィリティは怒りの表情でこう言った。
「なかなか卑怯なマネしてくれるじゃない」
「そない褒めても、何も出えへんで」
「……いい性格してるわよ、全く」
 そんなやり取りの後、再び残りの斬られ役が動く。
 そして、それに紛れて綱が二人との間合いを詰め――。

 それを待っていたかのように、セレアナがサンダーブラストを放った。
 それも、前方の敵に向かってではなく、「後方の敵に向かって」。
「……何っ!?」
 範囲攻撃であるこの術ならば、多少狙いがいい加減でも当てることは難しくない。
 だいたいどの辺りに相手がいるかさえわかれば、正確に目視で狙いをつける必要はないのである。
 不意をつくつもりが逆に不意をつかれて、ダメージ以上に動揺する綱。
 その状態で、セレンフィリティの銃撃を避けられるはずもない。
「無念……!」
 二連射をまともに受けて、ついに綱も倒されたのである。

「さあ、これで後は……」
 そこまで言って、セレンフィリティはきょとんとした顔で辺りを見回した。
 裕輝の気配は、既に周囲のどこにもなかったからである。