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第八章 見事なカオスになりました

 こんな感じで、比較的正統派の一作目の撮影は順調に進み。
 アレクスたちが提案していた二作目も、同じく順調に進んでいた。

 問題は、当然と言うか何と言うか、やはりハデスの提案したアレである。

「確かに、『新しい要素』も必要なのかもしれないが……」
 撮影現場の様子を見て、あまりのことに絶句するダリル。
「新しい要素」が「色物」でなければいいか、と危惧していたダリルであったが、実際は「それどころではなかった」。

「フハハハ、首尾はどうだ、越後屋!」
 いちいち高笑いを上げる「史上最強の悪代官」。もちろん演じるのはハデスその人である。
「全て上々でございますわ」
 扇子で口元を隠して妖しく微笑むのは、やや場違いな雰囲気の金髪の少女、ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)
 このキャスティングがはたして相応しいのかどうか、という疑問もあるが、実はこのミネルヴァが秘密結社オリュンポスのスポンサーだったりもするため、「演じるまでもなくほぼ普段の役割そのまんま」という意味では極めて適任であるとも言える。

 そして、問題なのは彼女ではなく、むしろ彼女が取り出したモノの方だった。
 ミネルヴァが包みを開けると、中から鳥かごが姿を現す。
 その鳥かごの中に入っていたのは、ラブ・リトル(らぶ・りとる)演じる「身長30cmの囚われの姫」であった。

 このキャスティングを提案したのは誰だあっ!
 調理場――もとい、企画室に乗り込みたくなるようなキャスティングであるが、問題は「こんなキャスティングでも周囲からそんなに浮いていない」ことであり――つまり、ここだけでなく、「全体的にこんな感じ」なのである。

「いらっしゃいっ!」
 そば屋の看板娘を演じるのは結城 奈津(ゆうき・なつ)
 もちろんただの看板娘なはずもなく、その正体は幕府の隠密だったりもするのだが。
「ああ、おなつさん。もりそばを頼む」
 すっかりなじみの様子で店に入ってきたのは、和服を来ていてもどこか異国風の雰囲気が漂う少年。
 それもそのはず、彼こそはトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)。エジプト第十八王朝のファラオである。
 もちろんエジプトのファラオが堂々と江戸市中を闊歩するわけにもいかないので、一応身分を隠して町火消に居候したりしているのだが。
 ちなみに、その際に名乗っている仮の名前がトゥトゥ田シンノスケだったりするのはもはやご愛嬌である――これが「ご愛嬌」で済む状況ってどういう状況だ、というツッコミはなしでお願いしたい。
 なにしろトゥトゥもそこまで時代劇に詳しいわけではなく、犬養 進一(いぬかい・しんいち)が仕事で出かけている間に何気なくテレビの再放送を見ていた、くらいの知識しかないのだ。

 そしてもう一人目立っている客が、画面端で見切れるようにして蕎麦をすすっている九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)
 曰く、「今回は時代劇なのでろざりぃぬじゃない」とのことだが、行動パターンは一緒である。
 ちなみに今回の役所はこれまた正義のニンジャ。もはや石を投げれば確実に忍者かニンジャかNINJAに当たりそうな人口比率であるが、江戸ではよくあることなので気にしてはいけない。一人見たら三十人である。

 そんな様子を見て何か言いたげにしているのは、これまた公儀隠密役のルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 一説によると、幕府の財政難の原因は隠密の雇い過ぎによる人件費の増大であるとも言われている――とかいうトンデモ説が生まれかねない隠密の比率であるが、これも気にしてはいけない。
 ……というか、もはや「時代考証」など、やるだけムダである。
 最初は不適切な単語などをいちいちチェックしていたダリルであったが、今では越後屋役のミネルヴァが「サービス・アンド・セキュリティですわ」とか言い出しても完全スルーである。
「ねえダリル、やっぱり『バッチリ』って言葉とか、投げチョコバーとかはやめた方がいいかな?」
「……いや、もう、好きにしてくれ」
 暴走の勢いがひどすぎて、ブレーキがかかる前にブレーキが焼き切れてしまった。そんな感じである。
「……これ、俺も普通に出てもよかったんじゃ……」
 自分のちみっちゃい見た目を気にして演技指導や撮影に回っていた淵がため息を一つついたのも全く無理からぬことであろう。