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第九章 大混戦! 時代劇バトル!? 二

 ともあれ。
 下手な考え休むに似たり、ということで、結局「まあとりあえずやってみよう」という形に落ち着き……かくして、正義の味方が続々と代官屋敷に押し入る事態となったのであるが。

「何奴だ!!」
 お約束のセリフを発する下っ端。
 ここから主人公の名乗りターンに突入するのは普通の時代劇と同じなのだが、今回は顔ぶれも人数も半端ではない。

「悪党ども! 余の仮面を見忘れたか!」
 のっけからもう時代劇でも何でもない黄金の仮面をかぶって登場したのはトゥトゥ。
 そもそも代官クラスが将軍の顔を知ってるものなのか、というツッコミの三光年くらい手前の問題として、一体この時代の日本の誰がファラオの仮面なんか見たことがあるというのか。
 そもそも「埃及」だってほとんどの人間は読めはすまい……もちろん「ほこりおよ」ではなく「エジプト」である。

「誰でもいいでしょ? でも、強いて言うなら……通りすがりの正義の味方、かしら?」
 軽い感じでそう名乗り、二丁拳銃を構えるセレンフィリティ。
 その隣で、セレアナも静かに身構える。
 普通なら十二分に目立つ名乗りなのだが、これくらいまだまだ地味な範囲、というのが恐ろしい。
 ちなみに今回は時代劇ということで二人とも普段とは違って着物姿なのだが、派手めの着物をやや妖艶な感じに着崩したセレンフィリティと、落ち着いた感じの着物をきっちりと着こなしているセレアナ、という辺りにも、二人の性格の違いがはっきり出ていると言えよう。

「ひとつ、人の世の生き血を啜り……」
 どこかで聞いたようなセリフとともに登場したのは永倉 八重(ながくら・やえ)
「ふたつ、不埒な悪行三昧……」
 江戸の長屋に暮らす浪人、という設定は特に問題がないように思えるが、悲しいかな、それはあくまで「表向きの」設定である。
「みっつ、醜い浮き世の鬼に……御仕置きしましょう、魔法少女!」
 おわかり、いただけただろうか。
 浪人とはあくまで仮の姿であり、その真の姿は魔法の国からやってきた魔法少女だったのである。
「ブレイズアップ……メタモルフォーゼ!」
 そして魔法少女とくればお約束の変身である。
 もちろん変身している間は味方も黙っているし敵も手を出さない。皆よく訓練されていると言えよう。
「心に灯す正義の炎!」
 髪と瞳が紅に染まるのはいつものことだが、今回は着物も、しかもただ紅に染まるだけでなく、ちょっとマジカルな感じの模様が浮き出ていたりする。
「紅の魔法少女参上!!」

 さて、正義と言えば、正義を自分から名乗ってしまう人がもう一人。
「正義の忍者スイサン! みなごろしでござるニンニン」
 どこからどう聞いてもうさんくさいエセ忍者っぷりを発揮しているのはろざりぃぬである。
 そもそも忍者というのは忍ぶ者と書くはずなのだが、外国人特有の……とも、近年では言い切れないが……勘違いにより、全然忍んでいないのでこれはニンジャもしくはNINJAと呼ぶべきであろう。
 もっとも、本当に完全に忍ばれてしまうと、それはそれで見栄え的にどうなんだ、という話でもあるが。

 ともあれ、先述の通りニンジャは一人見たらほぼ必ず一人では済まない。
 何を思ったのか、壁抜けの術でわざわざ壁から登場したのはルカルカ。
「別に名乗るほどのものじゃないわ……ただの公儀あんみつよ!」
 ……えーと、これはどっちからツッコミを入れたらいいんですか、淵さん?
(あんみつじゃなくて隠密だ、バカ!!)
 ああ、そっちですか。
 確かにそれもツッコミどころではあるのだが、そもそもそれ以前の問題として、火付盗賊改でもあるまいし、隠密がむやみに自分の身分を名乗るな、という話である。

 ……とか言っていたら、今度は隣の壁を「物理的に」ぶち破って、派手な忍装束に着替えた奈津が姿を現す。
「同じく公儀隠密、『火竜のなつ』!」
 釣られるな、名乗るな、そしてそもそも忍んでない!
 前の二人にも該当するツッコミを改めて入れ直さなければいけないのも問題だが、それ以前の問題として、奈津は日本人なのではないだろうか?
 日本人まで普通に忍者ではなくニンジャになってしまう時代。
 時代考証も何もかもまとめて意図的にぶっちぎったハデスの案の方が、実は今の時代にはマッチしているのかもしれない。

 そして最後に登場したのは、義輝と富永 佐那(とみなが・さな)である。
「我こそは十三代将軍足利義輝……我の名は引導代わりぞ。迷わず地獄に堕ちるがよい」
 名乗りといい、刀を構えたその姿といい、とにかく義輝は「本物」の雰囲気が漂っている。
 今回のメンバーの中ではかなり珍しい正統派であることを考えれば、江戸幕府ではなく室町幕府の将軍であることくらい、実に些細な問題と言えよう。
 ちなみにその脇に控える佐那は、義輝に仕える隠密という設定なのだが、これまたここまでに登場したニンジャな面々よりは確実に「忍者っぽい」。
 設定以外は正統派なのだが、むしろ周りが全員ぶっ飛んでいるせいで正統派の方が浮いてしまう、というのは悲しいことであった。

 ともあれ、こんな感じで登場した正義の味方総勢九名。
 その顔ぶれを確認すると、悪代官が……指示を出すより早く、「史上最強の越後屋」役のミネルヴァが全体に指示を出した。
「これはまた多士済々ですわね。皆の者、全員まとめてお相手して差し上げなさい!」