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第四章 ある次世代の形 二

 最初に映し出されたのは、登場人物紹介を兼ねたシーンのいくつかであった。
『耳太郎さん! そちらはどうでしたか?』
『あ、蒼一郎さん……今のところ、これといった手がかりは、まだ』
 岡っ引き姿の蒼とミミが、二人で手分けしたり協力したりしながら捜査していくシーンに、「岡っ引き 蒼一郎/耳太郎」のテロップが入る。
「ね、蒼ちゃん格好いいでしょ? これだけでもウリの一つになると思うの!」
 自分はさておいても、蒼を猛プッシュするミミ。
 そうしてそのシーンは終わり、次のシーンへと切り替わる。

『そうそう、ご存じですか? この前の押し込みなんですが、事件の前に少し妙なことがあったと言う噂がありましてね……』
『へぇ。そいつぁ興味深ぇな。ちょっと聞かせちゃくれねぇか』
 白い着流し姿のエメと、いかにも遊び人といった感じの瀬島 壮太(せじま・そうた)が映り、その前に「三味線弾き/隠密 白」「遊び人の金/奉行 頭髪の金」のテロップが表示される。
「と、頭髪の金って……」
 そのあまりの役名に、映像を見ていた数人が思わず吹き出し、部屋の隅で憮然としていた当の壮太がますますげんなりとした表情を浮かべていたが、そんなことにはお構いなしに映像は進んでいく。

 次に映し出されたのは、夕日の河原に二人たたずむ蒼一郎と耳太郎の姿だった。
「女性ターゲットなら、恋愛とイケメンは必須にゃう」
「恋愛ねェ……っても、名前からして二人とも男って設定だろ? いわゆるBLってヤツか?」
 常春がそう疑問を口にしたとき、まるでその疑問に答えるかのように、PVの中の耳太郎が口を開いた。
『蒼一郎さん……ボク、ほんとはね……』
 瞳を潤ませ、蒼一郎に語りかける耳太郎。
「耳太郎は本当は女の子だけど、とある事情があって岡っ引きの仕事をしてる、って設定なんだよ」
 ミミの説明に、アレクスがこうつけ加える。
「……という設定は最初は隠しておいて、視聴者の反応で、女の子にするか男の子のままで行くか切り替えればいいにゃう」
「ああ、選択肢を増やしておくってことか。なかなか考えてるな」
「パッと見は男の子同士だけど、ほんとは片方女の子、っていうギャップが新しい層の開拓につながると思うの!」
 また妙に熱心に語るミミに、常春は少し考えてからアレクスにこう尋ねた。
「新しい層を開拓できる可能性もあるが、バクチでもあるよな。で、その勝負をするかしないかは、風向き見ながら決めればいい、ってことか?」
「そういうことにゃう」

 続いてのシーンは、風呂場である。
「時代劇と言ったら女性の入浴シーンにゃう」
 確かに、言われてみると定番の一つになっているような気はする。
 しかし、はたしてこの顔ぶれの中で誰を撮ったのか?
 その疑問に答えるかのように、カメラが横に移動し、ついにその場にいた人物をとらえる。
 映っていたのは、長い髪の……白、というか、エメであった。
「ただ、今回は女性ターゲットなので、女性じゃなくてイケメンの入浴シーン投入にゃう!」
 胸を張るアレクスであったが、驚いたのは当のエメである。
「え……あれ? あの、アル君? この入浴シーンっていつ撮ったんです?」
 アレクスを揺さぶって問いただそうとするも、アレクスは全く意に介さぬ様子で、さらりとこう言ってのけた。
「とりあえず、今回はサンプルにエメ撮ってみたにゃう」
「サンプルって、そんな話は一言も……アル君、本当にいつ撮ったんです?」
 なおも問い続けるエメだが、アレクスは答えず……そうしている間に、次のシーンへと移った。

 今度は、いよいよアクションありの捕り物シーンである。
 逃げる悪役を追う蒼一郎と耳太郎。
 そしてその時、いきなり蒼一郎が「飛んだ」。
「せっかくパラミタでやるのですから、毎回のゲスト出演者にもいろいろな種族を招いて、その能力に応じた演出をしてみてはいかがでしょうか」
「とりあえず、今回はゲストいないので、蒼とミミに頑張ってもらったにゃう」
「確かに、スキルも使うとなりゃ、種族は活かさない手はねェよな」
 蒼とアレクスの言葉に、常春も楽しそうに答える。
 PVの中では、蒼一郎に前に回り込まれた悪役たちが、回れ右して耳太郎の側を突破しようとした……が。
「えいっ!」
 耳太郎がバニッシュを使い、その閃光にひるんだ悪役たちを、後ろから蒼一郎が十手で一撃し、取り押さえていた。

 そして最後は、いよいよお白州のシーンである。
『証拠を出せ!』
『そうだそうだ、証拠を出せ!!』
 騒ぐ悪役を相手に、お奉行が……というシーンのはずなのだが。
『証拠ならあるにゃう!』
 飛び出してきたのは、箱から出た状態のアレクス。
「隠密 タマ」のテロップが重なる中、アレクス……いや、タマが持っていたメモリープロジェクターから、動かぬ証拠となる犯行時の様子が映し出され……。
「……いや、こいつァさすがにまずいだろ」
「……だよな」
 さすがにこれには常春も難色を示し、壮太もそれに合わせてため息をつく。
 そんな二人を尻目に、PVの中では証拠の上映が終わり、それからおもむろに奉行がもろ肌を脱いでいた。
『この通り……この桜吹雪が全てお見通しよ!』
 ……それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?
 この通りも何も、証拠はついさっきお白州で上映されたばかりであり、桜吹雪じゃなくてもその場にいる全員が見届けているわけであるから、このセリフは完全に滑っている。
「まあ、さすがにちょっと荒いところもあると思うにゃう」
 これには、さすがのアレクスも苦笑するより他になかった。