リアクション
0.―― おまけ程度のエンドロールとカーテンコール
◆
紅茶を啜りながら、既に誰もいなくなっているリビングでラナロックが物思いにふけっていると、そこにドゥングと綾瀬がやってきた。
「おいラナ……落ち着いて聞けよ」
かけられた言葉がいきなりだったのもあり、そして何より第一声がドゥングからであった事もあり、彼女は怪訝そうな顔で彼等を見やった。
「ウォウル様は本当に、何者かの手によって連れ去られた様ですわ」
綾瀬が静かに言うと、ラナロックは「そうですか」とだけ呟く。
「昨晩の一件が終わってもウォウルさんの姿、なかったですものね」
諦めた様な口調の彼女を、二人はどうにも困った様子で見つめるだけしか出来ずにいる。
「犯人の目星は?」
「そこまでは何とも。ただこれが――」
綾瀬が握っていた物をラナロックに手渡す。恐らくウォウルの血であろうものがついたモノクル。彼の使っていたモノクル。
「そうですか、彼が怪我を――」
静かなひと時。それは偽物であり、それは嘘。誰よりも彼女の気性を知るドゥングが一歩後ろへと引き下がり、綾瀬も警戒を解くことはない。
正真正銘――ウォウル・クラウンの姿は消えたのだ。
◆
翌日――。カフェ・ディオニウスは通常営業。
前日にあった事などおくびにも出さず、彼女たちは日常生活の中にいた。無論睡眠不足だとか、疲れが見え隠れするのは当然の事ではあるが、それにしても彼女たちの――特にシェリエ、パフューム二人のやつれ方は尋常なものではない。自然、和子が心配をするわけであり、トレーネもその様子を心配そうに見つめている。
「ねえ、何であの二人ってあんなにやつれてるの?」
「わたくしも話に聞いただけですが、どうやら昨晩ね、気味の悪い物を見たらしくって――」
「あ、それって……」
トレーネの言葉に対し、和子は真剣な表情で言葉を選ぶ。と言うよりは、何かを懸命に思い出している様な、そんな様子で暫く考えてから、トレーネに言った。
「それって、明け方の五時くらい?」
「確かそのくらいだと言っていましたわ。にしても、何故それを?」
「お店の外でね、私寝ちゃってたでしょ? その前にね、変な人がお店に来たの。私「帰って」ってずっと言ってたんだけどなかなか帰らなくて」
「……」
「それでね、夢中になってぶってたら漸く止まってくれて――その人が倒れてたんだけど、私疲れたら急に眠気が来てね、御店の前で寝ちゃってたんだ。そしたら五時くらいに」
「叫び声が聞こえた――ですか?」
無言で頷く和子。二人はなおも真剣な顔で、疲れ切ったシェリエ、パフュームの様子を見ていた。
と、そこで。店の扉が開き、入店を知らせる音が店の中に響き渡る。
「いらっしゃいませー」
「ブラックの珈琲を一杯」
「かしこまりました」
入店した客の声を聞いたシェリエが一瞬、背筋を伸ばす。何かに気付いた様にして、何かに気付いた様子で。
「あれ、今の声って――」
その言葉に何の意味があるのか。その場のほぼ全員が理解する事はなく、しかし一人――その客だけは、突然に噎せ返るのだ。
「どうしましたの? 今の声とは――」
「ううん、何でもない。そうだよね、気の所為、よね」
客として来ている彼は、ほっと胸を撫で下ろし、いつもの窓際の席から窓の外を見つめている。
此度はシナリオ、『【神劇の旋律】旋律と戦慄と』にご参加いただき、まことにありがとうございます。
出来ればもう少し早く公開したかったのですが、なかなか思う通りに進まず、申し訳なかったな。と反省しております。
今回のシナリオはいつもより少しだけ戦闘描写に凝った? と言うよりは自分なりに力を込めてみた感じがします。もしかしたら前の方が良かったと言うお声を頂くかも
しれませんが、ちょっと怖いのでそれはまたの機会にしておきたいと思います。
あれよあれよと言う間に【神劇】シリーズ(?)を担当させていただき、色々な事を学ばせてもらった内容になりました。特に前回と今回は本当に、お世話になりました。
まだまだ自分の精進が足りな過ぎて、これは本当にどうしよう。と思う様な局面が多々あり、色々考えさせてもらったシナリオになります。
どうか皆様が楽しいでいただければ幸いだなぁ、と思い、またそうなる様に頑張ってはみました。
皆様の素敵なアクションを、時間と文章とでカバーできるスキルが欲しいなぁ。頑張るぞ、と毎度思っていますが、本当にそのままの心持で進んで行けています。
いつか、良い意味で、皆様の心に残る様な、そんなリアクションを公開出来る様に精進していきます。
今回のシナリオ、ご参加いただき誠にありがとうございました。またどこか、いずれ機会がありましたら。
【追記】:
この度はご参加いただきました皆様に対し、一部PL様のキャラクタ名、誤字が多大にあった事を深くお詫び申し上げ、修正したました事をご報告させていただきます。
まことに申し訳ありませんでした。