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第3章 触手対策スタート

 時折見え隠れする不穏な影に気づかず、ビーチでは女の子たちの無邪気にはしゃぐ声が響いていた。
 ざっぱーん!
「うぉー、こら波ー、やったなー!」
「あはは、橘田、波に負けてるぜ!」
「うっせ、でぃる! ちくしょー、リベンジだっ!」
「はああ、やっぱり海は楽しいですねええ〜」
 波打ち際ではしゃぐ橘田 ひよの(きった・ひよの)に軽口を叩くまーけっと・でぃる(まーけっと・でぃる)
 それを楽しそうに見ているヴィサニシア・アルバイン(びさにしあ・あるばいん)
 雑貨屋『ウェザー』のサニーの企画で海水浴に来た面々は、思い思いに海を楽しんでいた。
「煙さんは、泳がないの?」
「んー、見てるだけでも十分楽しいからねぇ」
 サニーの言葉にのんびり答えたのは不動 煙(ふどう・けむい)
「あらあ、いいじゃないですかぁ。せっかく来たんだから、煙ちゃんも一緒に泳ぎましょうよぅ」
「そうだそうだ、泳ごうぜ!」
「そうだねぇ……じゃ、いっちょやりますか!」
 ひよのとヴィサニシアにもせっつかれ、やっと煙は重たい腰を上げた。
 上げすぎた。
 浜から少し距離を取ると、ダッシュ!
 強化された煙の力は、ダッシュローラーによってさらに高速移動、そのまま海へ……
「ダイブ!」
「きゃあ!?」
「うわっ!」
「あら〜」
 どっ・ぼーん!!!
 尋常ではない水しぶきを上げ、煙は海へと沈んでいった。
 跳ね上がった海水を浴び、その場にいた全員が目を瞑った。
 そして目を開けると。
「あれ、煙さんは?」
「ん」
 周囲を見回すサリーに、でぃるが遙か後方を指差す。
 こぽこぽこぽ……
 そこは、煙が落下したと思われる地点。
 そこには大量の泡が浮かんでいた。
「あら〜、煙ちゃんすごいですねぇ〜。潜水までできるんですかぁ〜」
「いや、これは潜水というか……」
 さすがにひよのが心配そうに泡を見る。
「あら?」
「うーん……」
 その場の全員の視線が泡に集まる。
 ぷかーり。
 無言のままの、煙が浮かび上がってきた。
「きゃあ、煙さん!」
「うにょうにょが……うにょうにょが、いっぱい……」
「大丈夫、息はしてるから」
「みんなー、そろそろ海から上がって、砂探しでもやらないか……ん?」
 ビーチに誘いに来た崎島 奈月(さきしま・なつき)が、違和感に足を止める。
「ああ、奈月さんいい所に! 煙さんを助けるの手伝ってくれない?」
「え、わ、大変だ!」
 ナース服を着ているだけあって、救助は適任か。
 奈月を中心に、ヴィサニシア、でぃるたちはなんとか煙を救助することができた。

「サニーも皆も、楽しそうでよかったね」
「楽しそう……?」
「まあ、事故さえ起きなきゃな」
 ビーチで遊ぶ友人たちを見ながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は笑顔でパートナーたちに話しかける。
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)は、少し首を傾げながらもルカルカの言葉を肯定する。
「でもさ……なんか、おかしくない?」
 ふいに真面目な顔になって、ルカルカが呟く。
「おかしい?」
 ルカルカの言葉にいち早く反応したのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だった。
「うん、なんだかビーチの様子が騒がしかったり、それに……」
「ちぃっとばかり、数が多いな」
「そう!」
 カルキノスがビーチを見る。
 その先には、波の合間に見え隠れする何かの影。
 うねうねと、うねっている。
「あれは、イソギンチャクと……クラゲだな。今の時期に、一体何故あれだけ大量発生しているんだ……」
「うん。サニーちゃん達が危ない目に合うといけないし、ちょっと調べてみよう!」
「それなら、ワタシに任せて!」
「ん?」
 ルカルカ達の前に、息を切らせたショートウェーブの女性が立っていた。

 それは、ビーチに人が集まる少し前。
「……流出経路は外洋とつながっている人工タイドプールの、ここの縁からですね。クラゲは潮に流され、イソギンチャクは……共生しているパラミタイソヤドカリと共に脱走した形ですね」
 ハート・ビーチ付近の河口にある研究所。
 この研究所内で行われている研究に興味を持って勉強に来ていたアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は、一人計算を続けていた。
「潮流を見ると、クラゲたちの流れ着いた先はここになる可能性が高いのですが」
 アルテッツァは、広げられた地図の一点を指す。
「ここには、何かあるのでしょうか」
 問われた研究者たちは、気まずい様子で顔を見合わせる。
 しばしの沈黙の後、一人の若い職員が仕方ないといった様子で口を開く。
「その、海水浴場が……」
「何ですって?」
「ハート・ビーチというビーチがあるんです」
「……それは、大変まずいのでは」
「い、一応ビーチには連絡してネットで告知はしたのですが、なにぶんビーチの方の対策がいまひとつのようで……」
 言葉を濁す職員に、アルテッツァは美しい顔を僅かに歪ませ、傍らに立つ良く似た面立ちの女性に声をかける。
「仕方ありませんね。シシィ」
「わかったわ、パパーイ。急いで海岸に行ってみるわ」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は捕獲用の網とクーラーボックスを持って、走り出した。

「……そんな訳で、パラミタラブクラゲとラブイソギンチャクがこのビーチに大量にいるってわけなのよ!」
「ええーっ!」
「なんて迷惑な……」
 セシリアの話を聞き、驚愕するルカルカ達。
「それは、どのような生態なんだ?」
 早速ノートパソコンで研究所のページを開きながらダリルが聞く。
「えっと……たしかパパーイから渡されたレポートに書いてあったような」
 セシリアが、レポートを読み上げる。
「……刺胞が皮下に残りやすく、それが皮下で融解することにより強烈な痒みを伴う発作を起こす。この痒みを起こす物質が脳内麻薬である『ベータ−エンドルフィン』と結合することで無効化され症状が治まる。イソギンチャクの方は『セロトニン』で無効化され……」
「さっぱり分かんない!」
「なるほど、よく分かった」
 ルカルカとダリルが同時に答えた。
「と、とにかくその迷惑なクラゲとイソギンチャクを捕まえなくっちゃ、だね!」
 ルカルカの言葉に、全員が頷いた。