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夏合宿 どろろん

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夏合宿 どろろん

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「じゃあ、頑張って行ってこいよー」
 杜守 三月(ともり・みつき)くんが、元気に杜守 柚(ともり・ゆず)さんと高円寺 海(こうえんじ・かい)くんを送り出し……たふりをしました。
「さて、先回り、先回りと。ふふふふふ」
 そんな杜守三月くんの悪巧み(?)も知らず、杜守柚さんは、高円寺海くんと一緒に進んで行きました。
「来ましたねー。奥の手、行きますよー」
 待ち構えていたソア・ウェンボリスさんが、赤いペンキを塗ったゆる族の抜け殻を風術で飛ばしました。ついでに、うっかりぬいぐるみ妖精まで飛ばしてしまいます。
「ゴーストか!」
 高円寺海くんが、容赦なくゆる族の抜け殻を切り捨てました。
ふっ、口ほどにもなかったな
「ちょっと、中の人がいたらどうするんですか。ちゃんと確かめないとダメですよ」
 勝ち誇る高円寺海くんに、杜守柚さんが言いました。結構しっかりしています。
「面倒だなあ」
 本当に面倒そうに高円寺海くんが言いました。
「でも、着ぐるみさんだとすぐ分かるから、あまり怖くないですね」
 そう言った杜守柚さんの足許で、何かが動きました。
「僕と契約して、ナラカに堕ちて……」
 ザクッ。
 最後まで聞かずに、高円寺海くんがぬいぐるみ妖精を妖刀村雨丸で一突きにします。
「またあ」
「いや、今のはあからさまに邪悪だろう」
「もう、これ以上変な物を切らないうちに急ぎましょう」
 杜守柚さんが、高円寺海くんをうながしました。
「今度こそ、うまくやるんですよ」
 二人を見つけたティー・ティーさんが、式神と化した手錠さんによく言い聞かせました。クイクイと、輪っかの部分が動いて、手錠さんがうなずきます。
 しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ……。
 手錠さんが蛇のように二人に近づいていきます。
「ゴーストか!」
 すぐに気づいた高円寺海くんが、妖刀をむけました。
「!」
 手錠さんが、あっけなく、命からがら逃げ帰ります。根性なしです。
「またあ」
「いや、今のはどう見ても、ゴーストだろう」
「手錠でしたよ。多分、誰かの式神です」
 意外と冷静に観察している杜守柚さんでした。
「こう見えても、ちゃんと強化合宿で鍛えたんですよ。本当ですよ」
 お守り代わりの貝殻を握りしめながら杜守柚さんが言います。みんな忘れているかもしれませんが、夏合宿は、生徒たちの心身を鍛えるのが目的です。決して、遊びに来ているのではありません。本当ですよ。
 なみいるお化けたちを退けて、二人は洞窟にまでやってきました。
 さすがに、夜の暗さから、洞窟の暗さに周囲が変わります。
「怖くなーい、怖くなーい」
 高円寺海くんに聞かれないように小声でつぶやきながら、杜守柚さんは進んで行きました。
「ふふふふふ、怖いよー、怖いよー。『ほんとは怖い夏合宿の肝試し大会』をとくと味わうがいいわ、リア充め!」
 イリス・クェインさんは、まだまだやる気十分です。
 クラウン・フェイスさんの足音と共に、ゴーストダンサーズがビキニ海パンで杜守柚さんたちの前に現れました。
「こ、これは……!」
 さすがに本物のゴーストです。杜守柚さんはなんとか悲鳴だけは噛み殺したものの、高円寺海くんの腕をきつく掴みました。
「いてててて。どうしたんだよ。ただの変態じゃないか」
「ゴーストですよ。ほら、少し透けてます。足許なんか凄い適当です!」
 必死に、杜守柚さんが高円寺海くんに訴えました。
「だったら、やっつけてもいいんだよな。おりゃあ!」
 妖刀一閃、高円寺海くんがゴーストたちをやっつけます。
「ああ、私のゴーストたちがイチコロに……」
 がっくりと、イリス・クェインさんが膝をつきました。
「さあ、祠に貝をおいていこうぜ」
 何ごともなかったかのように、高円寺海くんが言いました。
「うん」
 杜守柚さんが、ずっと大事に持ってきていた白い貝殻を二枚、祠に収めました。貝殻の内側には、それぞれ、杜守柚さんの名前と、高円寺海くんの名前が書いてありました。
「呪ってやる……お前たちを……」
「きゃっ!」
 突然、祠の影からお化けが飛び出してきました。長い髪を振り乱し、服の破れ目から血を流して、背中にはナイフが突き刺さっています。
「出たな、ゴースト。お前も滅ぼしてやるぜ!」
「ちょ、何、マジ!? ま、待てったら!」
 殺る気満々の高円寺海くんを見て、お化けに扮していた杜守三月くんが焦りました。あわてて逃げようとして、祠の裏に逃げ込んで何かにぶつかって倒れます。
「もう、あんなの構わないで早く帰りましょうよ」
 後を追おうとする高円寺海くんを、杜守柚さんが引き止めました。
 一瞬どうしようか迷った高円寺海くんでしたが、今は杜守柚さんを無事に送り返すのが使命と考えなおして、スタート地点へと戻ることにしました。
「きゅう……。ううっ、いったい、僕はどうして……」
 誰かにゆさぶられて、杜守三月くんは目覚めました。どうやら彼を起こしたのはドクター・ハデスくんのようです。
「よかった。目覚めてくれたか。さあ、一緒に帰ってくれ。頼む!」
 一人では帰れなくなっていたので、杜守三月くんに懇願するドクター・ハデスくんでした。