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夏合宿 どろろん

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    ★    ★    ★
 
「さあて、奴さんのお出ましだ
「もう、ジーナちゃんとアホ鎧の番だね。いってらっしゃーい」
 というわけで林田樹さんと緒方章くんに送り出されたジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)さんと新谷 衛(しんたに・まもる)さんだったわけですが……。
「やい、バカマモ、ちょーっと離れやがれなのです」
「そっちこそちょいと離れろって、じなぽん」
「じなぽんゆーな、この脳筋魔鎧!」
 仲いいんでしょうか、悪いんでしょうか。でも、そんなことやっていていいんでしょうか。
「だいたい、なんでミサイルポッドなんか背負ってるんだ!?」
 新谷衛さんが、ジーナ・フロイラインさんの背中を見て聞きました。
「何かあったときのためですよ」
「何かって、何だ?」
「何かは、何かなのです」
 なんだかかみ合っていませんが、結局くっついたり離れたりして、ちょっとびくびくで進んで行きます。
「んっ、あれは何だ?」
 新谷衛さんが、道端に落ちている白っぽい物を見つけて近づきました。
「不用意に近づくんじゃないのです。お馬鹿魔鎧がです」
「ふっ、なんだ、ただの蛇の抜け殻だぜ。ははは、はあっ!?」
 抜け殻を見ていた新谷衛さんが、突然飛びあがりました。背中に何か冷たい物が当たったようです。
「ひーっ」
「あっ、こら、待つです。おいていくなです!」
 逃げだす新谷衛さんを、ジーナ・フロイラインさんが追いかけました。
「おかしい、二人にむかってコンニャク落としたのにぃ。まあ、仲良く逃げてったからいいかなあ」
 木の上からコンニャクを落とした秋月 葵(あきづき・あおい)さんが、ちょっと不完全燃焼気味に言いました。
 蛇の抜け殻を囮にして、細かく刻んだコンニャクを落として、新谷衛さんの方は首筋などに命中したものの、ジーナ・フロイラインさんの方は、背中のミサイルポッドにみんな弾かれてしまったようです。ミサイルポッド恐るべし。
「ぷぷぷ、コンニャクで驚くなんて。お子様なのです」
「俺様は、ガキじゃねえ」
 やっと人心地ついたところで、新谷衛さんがジーナ・フロイラインさんにコンニャクをとってもらいました。
「だいたい、食べ物を粗末にするという、その心根が俺様は気にくわねえ。食べ物は、美味しくいただく物だってんだ」
「コンニャクって美味しいですか?」
「あたりまえよ。味噌おでんとか、うめえぜ」
 まだちょっと怖いものですから、食べ物の話題で恐怖を紛らす二人でした。
「帰ったら、回鍋肉とか食べたいぜ」
「ピーマンとか入れたあれですか? まったく、アンタは真っ赤なピーマンとか好きでしたよね。苦い緑ピーマンが食べられないなんて、やっぱりおこちゃま……」
「赤い色って、こんな色ー? それとも、このはみ出たパンヤを食べたい?」
 すっかり話に夢中になっていて周りを注意していなかった二人の前に、小鳥遊美羽さんの雪山ベアゾンビとコハク・ソーロッドくんの北国ベアゾンビが突然現れました。
「いっやあぁぁぁ!!」
 思わず、反射的にジーナ・フロイラインさんが背中に背負っていたミサイルを発射します。
「ちょ、ちょっと、それは……!」
 止める間もなく、二人の周囲にミサイルが着弾しました。
ちょっと、ヤバいかも……
 ばったりと、小鳥遊美羽さんとコハク・ソーロッドくんが倒れます。二人とも、肉体の完成歴戦の生存術がなければ危なかったかもしれません。
 猛ダッシュでジーナ・フロイラインさんと新谷衛さんが逃げて行った後、オリヴィエ博士改造ゴーレムのローゼンクライネさんが、二人をかかえて回収していきました。
「ここまで来れば大丈夫……」
 勢いで海岸まで逃げてきてしまった新谷衛さんが、肩で息をしながら言いました。
 そのとき、海の中に何かが見えました。
 ゆっくりと、海岸にあがってきます。その姿は、頭に巨大な皿のような物を載せ、そこから触手のような物を垂らしているお化けでした。
「いやあぁぁぁ!!」
 再びジーナ・フロイラインさんがミサイルを発射して逃げだしました。海中に巨大な水柱が立ち、お魚が気絶して次々に海岸に打ちあげられました。
 あわてて新谷衛さんが、ジーナ・フロイラインさんの後を追います。
 そのままの勢いで無我夢中に走ると、いつの間にか祠の前に辿り着いていました。
「さ、さすが、ワタシです」
 なんだかよく分からないけれど、ジーナ・フロイラインさんが勝ち誇ります。
「じゃあ、貝をおけばいいんだな」
 新谷衛さんが、浜辺で拾った貝殻に『俺参上!』と書いて、祠におきました。
「何ですの、それはです。どっかのパラ実生じゃありませんし、馬鹿ですわ」
「いいじゃないかよ」
「バーカ、バーカ」
「あのな……」
 不毛な言い合いをしていると、何かが動いて、ずるりと音がしました。
「チャックがない……」
「うきゃあああぁぁ!!」
 暗闇から這ってきたカレン・クレスティアさんに、二人は脇目も振らずにスタート地点まで走って行きました。
 
    ★    ★    ★
 
「うわあああ、なんだ、何が起こったんだあ。いきなり海が爆発したあ。祟りか、祟りなのかあ!? いっ、いやあぁぁぁぁぁ!!」
 いったん海に沈められたまたたび明日風(木曾 義仲(きそ・よしなか))くんが、ぶはあっと水を吐き出しながら顔を出しました。周囲には、魚もぷっかりと浮かんでいます。
 頭の上に載っていた三度笠がずれたので、身体についていたワカメの一部は外れていました。木曾義仲くんが憑依しているため、花妖精の特徴が消えていて、なんだか普通の青年みたいです。
 吊り橋から落ちた後、なんとか泳いで海岸に辿り着いたのですが、思いっきり酷い目に遭っています。
「怖い、海怖いよー!!」
 そのまま恐怖にかられたまたたび明日風(木曾義仲)くんは、パニックになって無茶苦茶に走りだしていきました。
 
    ★    ★    ★
 
「なんですか、これは。もしかして、ジーナたちの仕業ですか!?」
「みたいだねぇ」
 運び込まれてきた小鳥遊美羽さんとコハク・ソーロッドくんを見て、緒方章くんと林田樹さんが頭をかかえました。
「早くどこかで横に」
 森の中でローゼンクライネさんに運ばれている二人を見つけてここまで運んできた希龍 千里(きりゅう・ちさと)さんが、指示を仰ぎました。
「あっちだよぉ」
 すかさず、林田樹さんが指示を出します。
「こばこばあ」
 小ババ様が、ゴザを叩いて希龍千里さんを呼びました。すぐにそこで横に寝かせます。
「怪我人が運び込まれたと? いったい誰……はうあっ!」
 治療に駆けつけた悠久ノカナタさんが、ゴザの上に横たわる二体のゆるゾンビを見てあっけなく気を失いました。
「怪我人が増えたあ!?」
 小鳥遊美羽さんの着ぐるみを脱がそうとしていた林田樹さんが、唖然として叫びました。
「そちらはお願いします」
「任せてくださいです」
 コハク・ソーロッドくんの様子を見ている緒方章くんに言われて、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)くんがパフンと胸を叩きました。
「こ、これは、暖めないといけないです。さあ、僕をだいてください」
 そう言うと、パラミタ一の抱き枕を目指すリイム・クローバーくんが気絶した悠久ノカナタさんにだきつきました。