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夏合宿 どろろん

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夏合宿 どろろん

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「えー、小暮さん、もう出発しちゃったんですか!?」
 網に入ったスイカをぶら下げたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)さんが、しまったという顔で言いました。肝試しにはスイカ(?)だと、準備している間に出遅れてしまったようです。
「おや、スイカ娘じゃねえか。どうしたんだ、余ったのか?」
「うん」
 通りかかったアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)くんに聞かれて、イコナ・ユア・クックブックさんが答えました。
「そうかそうか、じゃあ、ちょうどいい。俺様がペアを組んでやろう」
 いや、多分、余ってしまったのはアッシュ・グロックくんも同じだと思います。
 とりあえず、ペアはできたようです。
 
    ★    ★    ★
 
「よかったんですか、自分なんかと組んでしまって?」
「ああ、今回は息抜きなんだから、ルカのことはルーさんとでも呼んで」
 水着の上に濃紺の花火柄の浴衣を着たルカルカ・ルー(るかるか・るー)さんが、小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)くんに言いました。
「いや、あくまでも合宿ですから、気を抜くと100%後でヤバいことになるんでは……」
「にしたって、秀幸はリハビリ中でしょ。遊べばいいのよ」
 小暮秀幸くんの身体を気遣って、ルカルカ・ルーさんが言いました。
「そうだな。さすがに、お化けから逃げ回るのは勘弁してほしいところだ。ということで、参加者から割り出した、現在の敵予想配置図を作ってみたんだが」
 受付でユーシス・サダルスウドさんからもらった地図に、何やら細々と書き込みをした物を広げて、小暮秀幸くんが言いました。どれどれと、ルカルカ・ルーさんがのぞき込みます。
「つまり、これらのポイントを避けて通ればいいわけよね」
「まあ、さすがに全てを回避するというのは無理な話だが、最低限の遭遇でやり過ごすことは可能だと思う」
「でも、これじゃ、敵の脅威度がデータに組み込まれていないわね」
 それでは片手落ちじゃないかと、ルカルカ・ルーさんが言い返しました。
「それに関しては、データ不足もあるが、平均化と言うことで処理している。やっかいなのは、追いかけてきたり、いきなり襲ってくる奴らだが、それはまあ……」
「撃退あるのみかあ。まあ、仕方ないわね。これも戦いよね」
 作戦をとりまとめると、ツーマンセルで周囲を警戒しながら進んで行きます。
「あの明かりは何かしら?」
 久我浩一くんが仕掛けた壊れた携帯ゲーム機の画面の点滅を見つけて、ルカルカ・ルーさんが言いました。
「あからさまにブービートラップだな。だが、いずれにしても、海岸に出るにはここを通るしかないか」
「強行突破ね。だったら……」
 ルカルカ・ルーさんが、あえてゲーム機に近づいていきました。そして……。
 バリッ!!
 踏み潰しました。
「何をするう!!」
 まさかのゲーム機を破壊された久我浩一くんが、突如として小暮秀幸くんの後ろから現れました。これは、ちょっと想定外です。
「ゲーム機の恨み、はらさでおくべきかあ!」
 種モミ袋を被ったネバネバ男が迫ってきます。私情が入っていますから、その鬼気迫る勢いはさすがに怖いです。
「うわああ!!」
 さすがに、小暮秀幸くんが一目散に逃げだしました。
 追いつかれてネバネバにされると思いましたが、なぜか久我浩一くんは追ってきません。小暮秀幸くんは辛くも逃げ切ることができました。
 一方の、久我浩一くんは、踏み潰されたゲーム機を拾いあげてしくしくしていたそうです。壊れていた携帯ゲーム機ですが、それでも多少の愛着がありました。さすがに、問答無用で壊されてはたまったものではありません。
「種籾戦士として、いつか甦ってこいよ……」
 いや、それはさすがに無理でしよう。
 さて、無事に海岸まで逃げおおせた小暮秀幸くんたちはほっと一息ついていました。
「まだまだ、突発的な事態に対する対処が甘いわよね」
 ルカルカ・ルーさんが、小暮秀幸くんの斜めになったメガネをなおしてあげて言いました。
「予想しすぎるというのも、さすがに考えものだなあ」
 小暮秀幸くんがちょっと苦笑します。
「そうそう、今のうちに祠に納める貝殻を渡しておくわよ。二人で持っている方が確実でしょ」
 リスク分散でしょうか、ルカルカ・ルーさんが、持っていたハマグリを小暮秀幸くんに手渡しました。下半分だけのハマグリです。
「ハマグリは、上と下が一組になって、同じ貝同士しかぴったりと合わないんだって。不思議だよね」
「へえ、そうなのか」
「それで、平安時代とかには内側に綺麗な絵を描いて、貝あわせという神経衰弱みたいな遊びをしていたんだって」
「まあ、雅……というところか」
 しばらくの間、貝に纏わる蘊蓄話が続きました。
 ひとまずまたお化け役をうまく避けながら、おしゃべりしつつ洞窟の奥にむかいます。
「やあ、お疲れ様。こちらがゴールの祠です。これはいかがですか? どうぞ、お茶でも飲んで落ち着いてください」
 なぜか、二人を出迎えたのは鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)くんでした。
「なあんだ、ちゃんとゴールには見極め人がいるんじゃない」
「ええ。安全上、そういうことになっています」
 ルカルカ・ルーさんの言葉に、鬼龍貴仁くんがうなずきました。
「それじゃあ、貝おこうよ」
 ルカルカ・ルーさんにうながされて、小暮秀幸くんもハマグリをおきます。なんだか、ちょっと無口です。少しビビっているのでしょうか。
「はい、確認しました。ではお帰りください」
 笑顔で、鬼龍貴仁くんが送り出そうとします。
 ルカルカ・ルーさんと小暮秀幸くんが道を戻ろうと振り返りました。
「そうそう、帰り道ではこんな化け物に気をつけろよぉ!」
 絶対闇黒領域を展開した鬼龍貴仁くんが、アボミネーションで見るも恐ろしい化け物の姿になりました。
「うっきゃあ!」
「やっぱり、罠か!」
 さっきから予測していた小暮秀幸くんが、放電して鬼龍貴仁くんを痺れさせようとしました。
危ない、危ない。ああ、電撃が心地いい♪」
 さすがは、雷電耐性43です。鬼龍貴仁くん、うっとりしています。でも、その間に、小暮秀幸くんたちに逃げられてしまいました。
「さっきの貸しは返したぜ」
 逃げながら、小暮秀幸くんがルカルカ・ルーさんに言いました。