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夏合宿 どろろん

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ええっと、今、逃げ帰っていったのはエースでしょうか!?」
 何やら、悲鳴をあげてすれ違ったカップルを見て、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)くんが小首をかしげました。
「い、今のは、こ、怖かったよね……」
 ギュッとメシエ・ヒューヴェリアルくんの背中にしがみついたままリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)さんが言いました。ピッタリとくっついているので、言葉が直接メシエ・ヒューヴェリアルくんの身体に響きます。
「ちょっと怖がりすぎですよ」
 どうしたものかちょっと困って、メシエ・ヒューヴェリアルくんが言いました。
「だって、怖かったんだもん」
「まったく、エースも何をやっていたのだか……」
 脅かし役になってどうするのだと、メシエ・ヒューヴェリアルくんが内心溜め息をつきました。
「とりあえず、歩きづらいので、横に立ってもらえますか」
「あっ、はい」
 メシエ・ヒューヴェリアルくんに言われて、リリア・オーランソートさんが彼の腕にしがみつきました。
 なんだか、どうもメシエ・ヒューヴェリアルくんとしては調子が狂います。まあ、ペアですから、ちゃんと守るつもりではいるのですが、本来のリリア・オーランソートさんなら、怖がる前に相手を吹っ飛ばしているはずです。もっとも、さっきのはエース・ラグランツくんたちでしたから、本当に吹っ飛ばされたらそれはそれで困るわけですが。
 しばらく進んで行くと、なんだかうーんうーんと唸るような声が聞こえてきました。
 見て見ると、道端に勉強机があり、誰かがそこで何かをしています。
『終わらない……。宿題が終わらない……』
 どうやら、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)くんのようですが、なんだか動きがぎこちないみたいです。
「大丈夫、きっと間にあうからのう。もし、間にあわなければ、先生から地獄の補習が……。あああ、恐ろしいのう、怖いのう」
 なんだか、そばに立つルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)さんがフォローしていますが……。
「これのどこが怖いんですかあ……」
 メシエ・ヒューヴェリアルくんはちょっと呆れ気味です。
「わあ、怖い」
「ちょっとわざとらしいですよ」
 腕を抱きかかえる手に力を込めてきたリリア・オーランソートさんに、メシエ・ヒューヴェリアルくんが言いました。
「大丈夫。まだいけるぞ、まだまだ」
『でも、もう、もう、もう、レポートの、も、も、も……』
 まだまだルシェイメア・フローズンさんが小芝居を続けています。
文字数がぁ!! 文字数が足りねぇんじゃ。ゴルァアアアァアアアアァ!!
「きゃあ!」
 突然叫ぶアキラ・セイルーンくんに驚いて、さすがにリリア・オーランソートさんが声をあげました。
 ここでリリア・オーランソートさんに本性をむきだしにされて戦われても困ります。リリア・オーランソートさんの腕をとると、メシエ・ヒューヴェリアルくんがそのまま海岸の方へと走っていきました。
 とりあえず、海岸へと出ました。
「意外と、潮が満ちていますね」
 ドレスの裾を片手で持ちあげつつ、リリア・オーランソートさんがなんとかメシエ・ヒューヴェリアルくんの腕をキープしようとしています。そんな小走りな歩みを見て、ちょっとは女の子らしいところもあるんだなあと思ったメシエ・ヒューヴェリアルくんが、ひょいとリリア・オーランソートさんをだきあげました。
「えっ!?」
「裾が濡れてしまうし、歩きにくいでしょう。この先の洞窟の前は、もっと水浸しのようですし」
 突然のことに驚くリリア・オーランソートさんに、メシエ・ヒューヴェリアルくんが言いました。
「よし、来たな。さっきの水死体みたいな変なお化けには驚いたけど、これからが俺の本領発揮だぜ」
 海の中に下半身をつけて立つ白いドレスの女がそうつぶやきました。桃幻水で女体化した本物のアキラ・セイルーンくんのようです。先ほど森にいたアキラ・セイルーンくんは、どうやらリモコン付きスペアボディだったようです。
 正体が分からないようにと、しっかり女体化までしてごまかしています。後で、女の子が一人足りない。あれは本物だあと言って二段構えで脅かすつもりのようです。
「もしもし、そこの人……」
 アキラ・セイルーンくんが二人に声をかけましたが……気づいてもらえません。
「……だって、重くて歩きにくいでしょう?」
「もしもし……」
「俺の力を見くびってもらっては困りますね。リリアの一人ぐらい、負担にもなりませんよ」
「おーい、私は道案内の者なのですが……」
「だいたい、あんな歩き方だと、転んでしまいそうで見てられません」
「おーい、話聞けー……」
「心配してくれるんだ?」
「こらー、こっち見ろー!」
「……もちろんですよ」
「なめとんのか、そこのバカップル!」
「あっ、今、変に間が空いたんだもん」
「あっ、えーと、すいません、ちょっとお話いいですか?」
「別にそんなことはありません。ああっ、洞窟の入り口ですね」
「無視するなよお!」
「あー、今ごまかしたんだもん」
「……」
「さあ、下ろしますから、気をつけてください」
 アキラ・セイルーンくんを完璧にスルーすると、メシエ・ヒューヴェリアルくんとリリア・オーランソートさんは連れだって洞窟の中へと入っていきました。
「おのれえ!!」
 ポツンと取り残されて、叫ぶアキラ・セイルーンくんでした。