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第五章

――日もすっかりと暮れ、スパ施設にも夜が来た。
 帰る者、宿泊する者と別れ、施設は昼間の喧騒と打って変わって静寂が目立つようになった。

「……ふぅ」
 興行の後始末も終わり、自由の身となった翼は温泉につかっていた。
 宿泊客の入浴のラッシュが終わったせいか、温泉には今は誰もいない。固まった筋をほぐすように、大きく背筋を伸ばす。
「翼、おつかれー」
 背後からそっと近寄ってきた泉空が翼に労う言葉をかける。
「ひゃぅ!? い、いっちゃん……だからなんで胸揉むの?」
「私の癒し。仕方ない」
 胸を鷲掴みにする泉空が全く悪気なく答える。癒しなら仕方ない。
「お二人ともお疲れ様です」
「お疲れ様ー」
 その様子に苦笑しつつ、泪とななながやってきた。水着を着ているので、温泉に入りに来たのだろう。
「お疲れ様です。やっと休めますよー」
 大げさに溜息を吐いて翼が言った。何だかんだ言って試合したり、運営の仕事をしたりと忙しい時間であった。
「そう言えば……その額は大丈夫なんですか?」
「あ、はい。もう傷口はふさがってますし」
 泪に問われ、翼が前髪をかき上げて額を見せる。包帯は既にとってしまい、傷口は目立つるが、彼女の言う通りもうふさがっていた。
「それにこの後はもう寝るだけなんで、大丈夫ですよ」
 そう翼は言う。この後は団体でスパの宿泊施設を使用させてもらえることになっている。
「ふふふ、今夜は寝かさないぜ?」
 泉空の目が怪しく光った。何するつもりだ。
「ゴメンいっちゃん、寝かせて」
「あ、皆さんここにいたんですね。お疲れ様です」
 ボニーが泪やなななを見つけ、駆け寄ってくる。
「お疲れー。そういや随分とお客さんいないみたいだけど、帰っちゃったの?」
「いえいえ、今外で使わなかったお肉でバーベキューやっているんですよ」
 なななにボニーが答える。外ではイベント参加者や一般客に行われなかった焼肉フラッグの賞品を用いてのバーベキューが振る舞われているらしい。どうりで人がいないわけである。皆そちらへ行ってしまったのだろう。
「あれ、それじゃ早くいかないと無くなっちゃうかな?」
「そうですねぇ、参加者の方々も含めると、良く食べる人もいるでしょうし」
 なななと泪の会話を聞いて、ボニーがくすくすと笑いながら言う。
「大丈夫ですよ。運営の人の為に材料は取り置きしてますから。どうぞゆっくりなさってください」
「それじゃお言葉に甘えて。もうちょっと温泉を堪能させてもらいます。こうでもないと温泉とか機会が無いんですよ」
 翼の言葉に、ボニーが「どうぞどうぞ」と微笑む。
「私も、もうちょっと堪能させてもらいます。こういう機会でもないと」
 未だに胸から手を離さない泉空に、翼が苦笑する。流石乳職人、堪能する物が違う。
「ああ、こんなところにいた! 大変な事になってるぞ!」
 そんな和やかな状況の中、慌てた様子でヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が駆け寄ってくる。彼は今日救護関係の仕事を手伝っていた。
「どうしました? そんなに慌てて……」
 ボニーが首を傾げると、ヴァイスが口を開く。
「そ、外のバーベキューで何人か今ぶっ倒れた!」
「た、倒れた!? どういうことですか!?」
「どうもこうも、バーベキューと一緒に出てた料理口にした奴がいきなり倒れたんだよ! 今処置してるけど前世の罪告白しだしてる! 相当ヤバい!
「な、何とかしてください! ここで食中毒とか起きたなんてニュースになったら大打撃ですよ! ちょ、ちょっと様子見てきます! 皆さんはそのままゆっくりしていてください!」
 ボニーとヴァイスが、慌ただしく駆けていった。
「……何か大変な事になったねー」
「そうですねぇ……この時期だと食中毒とか怖いですからね」
 走り去ったボニー達の背を見送りつつ、なななと翼が呟く。
「大事にならなければいいんですけど……あら、泉空さんどうしました?」
 泪が泉空に問いかける。彼女は何か、思う所があるような表情を浮かべていた。
「……翼、質問」
「何、いっちゃん?」
「……焼肉フラッグ、翼何か手伝った?」
「え? うん。賞品に使うって言うから、作ったお料理を提供したけど
 翼の言葉に、ピシリと場が凍りついた。

――先程、ヴァイスが言っていた。
『バーベキューと一緒に出てた料理を口にした者がいきなり倒れた』と。
 そして、過去に団体を休業まで追い詰めた実績ある料理を翼は提供した、と。
――このことから導き出される答えは一つ。

「……えい」
 突如、泉空が翼の身体を足で挟み身動きが取れなくする。
「え? いっちゃん何を……って何で胸揉みしだいてくるの!?」
「うん、揉まれても仕方ないから」
「答えになってないよ!? ちょ、ちょ……お、お二人とも助けて……」
 縋るような目で翼はなななと泪を見るが、
「「いや、これは仕方ない」」
「な、なんでお二人とも見捨てるんですかぁ!?」

――そんな感じで、今年の夏も慌ただしく賑やかに過ぎていくのであった。

 ちなみに料理の犠牲者は一命を取り留めたとのことである。

担当マスターより

▼担当マスター

高久 高久

▼マスターコメント

ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。今回担当させていただきました高久高久です。
御参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。そしてお待たせして申し訳ございません。

今回はプロレスだけでなく、バラエティを混ぜたシナリオでした。
ですが蓋を開けてみたらほとんどがプロレスという結果に。試合数二桁ってどういうことなの……?
アクションも相変わらず皆様ガチすぎます。皆様のガチなアクションを全て使いたかったのですが、私の力では遠く及ばず色々とカットさせて頂いたり使えなかった技も多くあります。
『この技を使う姿が見たかったのに!』という方もいると思いますが実現できず申し訳ございません。
元ネタ等詳しい事は後程マスターページで書かせていただきます。

毎回アクションを読ませていただき、楽しく読ませていただいてます。
毎回勉強させられる事も多く、自らの未熟さを痛感させられています。
今回も色々と反省することだらけになってしまいました。お待たせして本当に申し訳ございません。

それではまた次の機会、皆様と御一緒できる事を楽しみにしております。