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ジヴォート君のお礼参り

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ジヴォート君のお礼参り

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★お化け屋敷であなたもリア充っ?★


 そんなキャッチフレーズとともにオープンしたお化け屋敷には、今日も今日とてたくさんのカップルが並んでいた。きゃっきゃうふふと楽しげながらも、どこか目が真剣だ。
「まあ、公私混同いいことだ。で、みと、準備は出来ているか? 多分、リア充爆発しろと願うフリーテロリストが出張ってくるはずだ。そいつを突破して見せるか」
「恋路を邪魔する努力を恋人を見つける努力にすればいいのに……。毎度のことながら邪魔ですね」
 いつもよりもやや上機嫌に話し合っているのは相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)である。洋がにっこりとみとを抱きよせ、みとも洋に身を寄せている。誰がどう見てもいちゃつくカップルだ。
「お化け屋敷ですか。恐怖はないのですが、問題は妨害者の方でしょう。あの手の存在は台所の黒い宿敵よりもしつこいですから。以上」
 洋とみとがお化け屋敷に入ってからしばしたち、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)も恋人の振りをして中へと入っていった。
 入ってから5分ほど経ったろうか。そこで不穏な気配を感じ、洋が口を開いた。
「みと、行くぞ。可能な限り、殺すな……手加減しておけ」
 道の端々から飛び出てくるお化けに悲鳴を上げつつ楽しんでいたみとは、放り込まれた爆弾のようなものを見て不快そうに眉を寄せた。
「邪魔です」
 同時に放たれるサイコキネシスが爆弾の動きを止め、飛んできた方へと逆に返す。同時に飛びかかろうとしてきた無法者たちの動きも阻害する。
 殺すなと言った洋だったが、その手にはラスターハンドガンが握られている。ハンドガンから光が放たれる。それは見事に男たちへと命中し、ぱらりぱらりと床に何かを落とした。
「え、外れ……ギャー」
 一瞬後、野太い悲鳴が上がる。洋のラスターハンドガンは、テロリスト? の服だけをはぎ取ったのだ。もちろん、顔につけていた仮面も。
 慌てて逃げ出そうとした彼らの頭に、洋はその銃口をつきつけた。
「殺しはしないが、恐怖せよ。人の恋路を邪魔するバカは死ななければならない……かもしれない」
 非リアたちは動きを止めた。
「ぎゃー、も、もうゆるし」
「あらあら。人様の恋路を邪魔しておきながら、それだけですか」
 みとはみとで、サイコキネシスで捕まえた相手に強力な幻覚をかけて傷つけずに無力化していた。……身体に傷はないが、心のダメージは大きいかもしれない。
「うわ……モテない奴らがこんなにいるのかよ。シューティングゲームだな、おい」
 そして後方にいた洋孝たちのところにもたくさんの非リアたちが襲いかかっていた。洋孝はフューチャーアティファクトで威嚇射撃しつつもその数に、思わずぼやいた。
「警告です。次はその頭を砕きます。以上」
 エリスは淡々と非リアたちを無効化していたが、1人だけマスクなどをかぶらずにいる人物がいた。
「って、あれジヴォートじゃね? ほんとにいるとはな」
 洋孝はその知らせをすぐに洋へと送る。
「……お父上と同じで人が良すぎるといいますか、世間知らずといいますか」
 みとが呆れた。それを聞いたからか、洋孝がこんなことを言った。
「なあじーちゃん、どーせならジヴォートもリア充候補にしてしまえば? エリスは結構可愛いし、ジヴォートもいろいろ経験はしたほうがいいしね」
 ジヴォートを捕獲したエリスは、ふむと頷く。
「こちらとしては特に問題ありません。その提案を可決し即座に実行しましょう。以上」
「はっ? ちょ、何す」
 ジヴォートに腕をからめるエリス。ジヴォートは何をされるのかと戸惑っている。
「胸のサイズに関してだけは普通ぐらいだと思いますので、ほんのりあたっているのでしょうか? 以上」
 からかうようなエリスの言葉に、腕に当たっているものが何かを理解したジヴォートは、瞬時に顔を赤くして
「うわっ」
 火事場の馬鹿力というやつか。エリスを振り払ってそのまま逃げ出してしまった。彼には刺激が強すぎたらしい。



「はぁっはぁっ」
 外へと逃げ出したジヴォート。まだ少し顔が赤い。
「おいジヴォート! 何やってんだ。戻るぞ」
「あ、ああ。悪い」
 そこへやってくる謎の男たち。そのまま再びどこかへ連れて行こうとするが、ジヴォートの腕を掴んでいた1人が吹き飛んだ。
「ヤレヤレ。ったく、余計な事吹き込んでんじゃねえよ」
 めんどくさそうな顔をしたその男はアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)。そしてその後方で浮いている魚……じゃなく、守護天使ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)。ウーマはどこか悲しげ(?)な空気を醸し出していた。
「あんたたちは――」
「ジヴォート殿、それがしは悲しい」
 語りだすウーマに、アキュートはただ「イキモの事になると毎度熱いな」と肩をすくめる。
そなたは先日、それがしに真実の愛を見せてくれた。『俺には最初から、二人親父がいた』あの言葉にそれがしが、どれほど感動したか……。
 だがジヴォート殿。そなたが今やっているのは、愛する二人を妬み、邪魔をする行為に他ならぬ。臆病な父親達を許した寛容さは、どこへいったというのか?
 わだかまりを飲み込み、共に歩む決意をした、前向きな心意気はどこへいったというのか?」
「は? えっと……愛する? ねたみ?」
 ウーマの言葉をよく理解できないジヴォート。ウーマはウーマで、ジヴォートが騙されているとは知らずに語りかけている。
「それがしは悲しい! かくなる上は、力づくで連れ帰るのみ」
 そう意気込んで飛んでくるウーマだったが、周囲にいた非リアたちに捕獲された。
「ギョー」
「待」
 ジヴォートが慌てて止めようとした。そこでようやくアキュートが動く。
「ジヴォート、『りあじゅう』ってのはそいつらが言うような、世界を脅かす敵なんかじゃねえぜ。
 細かい説明は面倒だから省くが、すぐに判る方法が一つある。
 お前が今爆弾を投げつけようとしてる『りあじゅう』と、横でお前をけしかけてるそいつらの目をじっと見てみな。
 負の感情ってのは魂を蝕み、目の奥に表れる。言葉が表す真実じゃなく、お前が感じた感情で判断しな。
 そいつが出来なきゃお前はいつまでも、ボウヤのままだぜ?」
「目……」
 何かを考え込もうとしたジヴォートに、非リアたちは慌てて声をかける。
「りあじゅうのたわごとだ。聞くなよ」
「…………」
「さっさとお前は前線へ戻れ」
 思考に没頭して無防備なジヴォートは再び連れられて行かれ、アキュートたちの周囲を非リアたちが取り囲む。
「あとは本人次第としてお前たちには……お仕置きが必要みてぇだな」
 息を吐きだしたアキュート。数分後、その場から悲鳴が響き渡ったのだった。



「デートスポットは爆破しなければいけません」
 物騒なことを呟き、せっせと爆弾の用意をしていた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、非リアたちの集団に入り混じっていた。
 言葉通り、デートスポットを爆破するために。
「……で、最後はあのお坊ちゃんに全部なすりつけちまえばいいんだよ」
「なるほどな」
 そんな彼女の耳に飛び込んできたのは、最終的にすべてをジヴォートへなすりつけようとしている非リアたちの声だった。
 話を聞いていくと、どうもジヴォートがイキモ・ノスキーダの息子だと分かった上で彼を巻き込み、最後は全員で口裏を合わせ『ジヴォートの命令で〜』とすべてを彼になすりつけるつもりらしい。
「彼に押し付けるのか、覚悟の足りない連中であります」
(こっちはテロする時は常に自爆弾を身につけているというのに)
 少し覚悟がありすぎる気もする。
 とにもかくにも、そんな覚悟の足りない非リアを成敗するため、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)に機晶爆弾を屋敷中に仕掛けるように、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)には客を驚かせて外へ逃がすように指示をする。
 そして自身は二十二号から受け取った遠隔操作できる機晶爆弾を今回の親玉であろう謎の男のカバンに入れ、逃げないように監視。
「ぎぃやああああああああっ」
「助けてぇぇぇ」
「タコ星人があああああああああっ」
 別の場所で必死に客を驚かせていたイングラハムには、どれだけ気合いを入れて臨もうがやはり何組かのカップルが離脱した。
 しかし中には
「へぇ、よくできてるね」
「きゃー。すっごおい」
 と、平然な強者もいた。
 さてどうなる、お化け屋敷。



「本当にこの中にそんな輩がいるの?」
 暗闇の中を進みながらヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)に確認をとるのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)
 何やらよからぬことを企んでる連中がいるみたいなのでその対処を手伝ってほしい。
 それだけをヴィゼントから聞き、お化け屋敷へやってきた。なんでこんなところに、と疑問に思うのも仕方ない。
 よからぬことを企んでいる輩の中に身内――アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が関わっているかもしれないと聞き手伝いを頼んだのだ。
「仕方ねぇんだよ……より危険なアレを呼び出すわけにはいかねえんだ」
 そのアストライトはというと、悲壮? な決意を固めていた。
「いいか? リカインはリア獣の一人『裸SKULL』であり、これ(ジェヴォーダンのラクーン)にその本性を封じてある。水晶ドクロは犠牲者の成れの果てなんだ」
 アストライトはそうジヴォートや周囲に吹き込んでいた。それが自分にどんな結末をもたらすか分かっていても。
 アレとは、仮面雄狩る……リア充死ねだの爆発しろだのという意思に反応、その負のエネルギーを国家神のために有効活用せんと宦官にすべく(最近は女性も髪を刈って神官にすればいい、と見境がなくなった)リア充狩り狩りを行う、謎の仮面に意識を乗っ取られたリカインの成れの果て、のことである。リカイン自身はそのことを知らない。
 アレを呼び醒ますぐらいなら、とアストライトは非リアたちの中へ潜入し、ついでに首謀者を洗い出そうとしていた。
(ジャスティシアとして放っておけないしな……怪しいのはフードの男とあの動物面、マスクの3人か)
 主に指示を出しているのはフードだが、動物面やマスクも重要な位置づけにいるらしくよく3人でなにかコソコソ話していた。
 そんな時、リカインとヴィゼントが通りかかった。
「りあ獣はめっさつ」
 そうリカインへ飛びかかっていく非リアたち。
「……リア獣?」
 リカインが反応する。それはほぼアライグマ化するというトラウマにあっている彼女にとって、もっとも鋭敏になる単語であった。
「獣ですみません」
 そして密かにリア充と分かってはいてもリア獣、すなわち自分のような獣人に向けられた言葉なんじゃないかと杞憂していたヴィゼントにとっても、ぐさっとくる言葉だった。
「リア獣『裸SKULL』! ここでほろ」
「……アストライトね」
 ゆらりとリカインの身体が揺り動く。その額に青筋が1つと言わずにたくさん現れ、その拳が轟音を奏でた。
「ほろぶぶぇばぁっ」
 殴り飛ばされていく非リアたち。ぷっつんと切れているリカインだが、さすがに街中であることを分かっているらしい。そんな彼女の様子に感心しつつ、ヴィゼントはライトニングで非リアたちをしびらせておく。
 その後、リカインに見つかったアストライトがどんな目にあったかは、ここでは語るまい。……語るまい!
 アストライト。君のことは忘れない!