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ジヴォート君のお礼参り

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ジヴォート君のお礼参り

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★お化け屋敷であなたもリア充っ?・2★


 どこからか聞こえてくる悲鳴に、飛都は少し眉を寄せるだけだった。
「意外とよくかかるものだな」
 目の前には設置していた罠にかかった非リアたち。例のごとく爆弾を所持していたが、その爆弾が少々普通のものとは異なるのに気づく。設置しやすい形になっている。
「……なるほどな」
 意図を察した飛都は屋敷内を探索し、設置された爆弾を排除していった。
 しかし出口を見回った後にやってきた二十二号がそこへ爆弾を設置したため、そこの爆弾だけは気づかれなかったのだった。



「キャー、お化けー」
 また屋敷へ響く悲鳴。しかしそれはどこか楽しげなものだった。
「ふふっ楽しいね! さっきのタコもすごくリアルだったし……キャー」
 隣を歩くコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)としっかり手をつないだ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のものだ。壁から飛び出て来たたくさんの手に、また楽しげな悲鳴をあげている。
「うん。……あ、そこ足元気をつけて」
「ありがとー。ひゃー、冷たい」
 コハクも楽しそうな美羽の姿に、にこりと微笑みながらエスコートしていた。
(ふふふ。良かったです。2人とも楽しそうで)
 そんな2人のあとをひっそりとついていきながら見守っていたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も笑顔を浮かべていた。
(このまま何事もないと良いのですが)
 そう願うベアトリーチェだが、そうは問屋がおろさない。
「リア充メっ」
「くそっ羨ましくなんか……ないんだからな!」
 どこか涙声でコハクと美羽へ襲いかかる非リアたち。仲睦まじい2人の姿を見ていて、嫉妬心がふつふつとわき起こったようだ。テンションが高い。
 ……いや、元からか。
「出たわね! いい? みんなが楽しんでいるのを邪魔するのは、悪いことなんだよ」
「させない」
 元気よく非リアの懐に入り込む美羽。そんな彼女の背後から襲いかかろうとした非リアの攻撃をコハクが防ぐ。攻撃には回らないが、美羽を守るために立ちまわる。コハクはただ反省してくれたらいいな、と思っているので怒りはないようだ。
「おしおきのぉお、セレスティアーナ・アッパあああああああああっ」
「どゅべしっ」
 多少の加減はしているだろうが、アッパーを受けてすっ飛んでいく非リア。そんな非リアを、ベアトリーチェが捕まえて横に並べていく。
「いいですか、みなさん! このような……人様の楽しみを妨害するようなことはしてはいけません!」
 そして始まるお説教。正座をさせられ、足がしびれてきた非リアたちの元へ、ジヴォートがやってくる。
「おお、ジヴォート。助けてくれぇ」
「ジヴくん!」
「ジヴォートさん! あなたまでこんなことを」
 駆け寄ってきたジヴォートに、美羽がセレスティアーナ・アッパーを、ベアトリーチェがお説教をしようとした、その時。

「いい加減にしてよ! まだ騙され足りないの!?」

 素早く駆け寄ってきた影がジヴォートの頬を思い切りたたいた。青い髪をツインテールにした蓮川 澪(はすかわ・みお)である。
「騙された脳みそで何も考えずに暴れて! 騒いで! 満足!?
 この惨状は何? 巻き込んだ人の悲鳴は? 呻きは ?仮初めだとでもほざくの!?」
「いや、えっと?」
 ジヴォートも今ここに来たばかりなのでどういう事態か分かっていないのだが、澪は関係ないとばかりに一気に語る。
「リアジュウが世界を滅ぼす? アンタはその片鱗だけでも見たの?
 アンタのその目は! 耳は! 脳みそは! 飾り!? 他人の囁きじゃなく、自分の頭で考えなさいよ!」
 それはアキュートにも言われた言葉だ。考えながら自分の足で歩き、ここまで来たのだがまだ何をすべきかは分からない。
 ぐいっと澪に手を引かれる。
「何するべきか思いつくまで、一緒に逃げてあげる、守ってあげる。
 だから考えなさい!」
「へ? あ」
 2人は走り出す。逃避行を謳歌する男女のように。その時の澪の心境はこうである。
(これで坊ちゃんを更生させてパトロンGETよ!)
 本音ェ。



「ジヴォートっ? お前、俺たちを裏切ったのか?」
「くそっ。お前だけは分かってくれると思ったのに!」
 逃避行(笑)をしているジヴォートと澪を見て、涙ながらに襲いかかってくる非リアたち。澪がそれらの攻撃を弾こうとするが、
「リア充をひがむ一団って君たちのことかな?」
「ひえっ」
 襲いかかろうとした1人の首筋に弥十郎がふっと息を吐きかけて邪魔をした。息がまだ酒臭い。
「ふっふっふ。甘いね! 嫁もいるこのワタシこそ最強のリア獣だよぉ。はは、ひがめひがめ」
「よ、嫁だとっ?」
「これは手ごわいぞ! 気を引き締めろ」
「あ、あれは伝説のコンヤークユビワっ?」
 最強の言葉『嫁がいる』とチラリと見せられた婚約指輪に、非リアたちの中に動揺が広がる。それを見てふふふと笑う弥十郎だったが、兄である八雲が間に入った。
「弥十郎、僕も参戦する」
「いくら兄さんでも今のワタシを止められるかなぁ」
「兄の面子にかけて止めてみせる!」
 数十分後、酔いの冷めた弥十郎に八雲が説教する姿が見られたとかなかったとか。
「本当にごめんなさい」
「酒は酔っても呑まれるなって、あれほどきつく親父に言われたのを忘れるとはな」
 しかし元々の原因を作ったのが八雲であることは忘れてはならないだろう。



「自分も世間知らずな所があるけど、ジヴォート君のは更に凄いな。これはリアジューの何たるかを教えるべきかな」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が苦笑気味に呟きながら暗闇を歩いている。そしてそんなエースの前を歩いているのは2組のカップル……じゃなくて、恋人のふりをしている男女。
「俺と恋人のフリをして構わないのか?」
「ええ。構わないわ」
「ならばこの時を楽しむとしよう。行こう、リリア」
「ふふ。ダリルが一緒ならどんな状況でも安心よ。なんてね」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)に確認のような言葉を投げかけ、了承を得ると恋人へ応対するように彼女をエスコートし始めた。リリアもリリアで
「きゃっ」
 天井から落ちてきた玩具の生首に可愛らしく悲鳴をあげてダリルに抱きつき、リア充っぽさをアピール。
(個人的にはこのお化け屋敷のジンクスの方が関心高いんだけれど……だって永遠に結ばれちゃうのよ。何てロマンテイック。はにゃん)
 そして対するダリルは
(ルカが言うには涼司もテロ対象ということだが、バカバカしい話だ)
 恋愛を含め、感情がそもそも希薄な彼にとって今回の話はよく分からないものだった。

「この組み合わせにはいろいろ言いたいのだが……お前の任務は彼女を護る事だけだ。それ以上は許さん」
 ダリルにそう何度も言っていたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)と恋人役をすることになり、リリアたちのすこし後ろを歩いていた。
「だってリリアはダリルと組むって飛んでったし邪魔しちゃダメじゃん」
「邪魔……くっ」
 ルカルカの言葉にうぐっと唸るメシエ。そんな彼の目の前でリリアがダリルに抱きつく。
「万一の時に守ればいいだけで襲われてもいないのにその密着ぶりは無いだろう。離れろ」
「あれはリリアからいっただけでしょ? というか真面目にやってよ、囮役」
 ぺしぺしと叩かれて黙り込むメシエ。囮役という以上、ダリルの方が適任なのも分かっているのだが、それでももやもやするのはいたしかたないだろう。

「……ん、おかえり。何か分かったかい?」
 後方を歩いていたエースの元へ、偵察に行っていた使い魔の猫(シヴァ)が帰ってきた。シヴァはあっち、と手で後方を示し……そこからやってきたのは澪とジヴォート。それからそんな2人を追いかける非リア集団だった。
 エースはすぐさまその情報を前方の4人へと知らせ、ジヴォートたちへ襲いかかっていた1人をヒプノシスで眠らせる。
「女性には優しく誠意を持って対応すれば、皆優しくしてくれるよ」
「嘘つくな!」
「嘘じゃないんだけどなぁ」
 ため息をつきながら、今はとにかく彼らを止めるべきだとエースの目が変わる。
「じっくりと教えてあげなきゃね」

「ルカっさせん!」
 メシエがルカを守るように弱めた魔法を放ち、すぐさまその相手を眠らせる。だがその姿はまさしくリア充。非リアたちの心がさらに燃える。
「ねぇこの本、知ってる? 私の友人の知人はこの本で人生が変わったわ。テキストはバインダー形式、一日僅か20分の簡単学習よ♪」
 ルカルカは本気なのか冗談なのか分からないが、『出会いのススメ』なる本を非リアたちに渡していた。
「こんなもんで騙されるか。ま、まあ俺が代わりに処分しといてやるよ」
 怒ったそぶりをしつつ懐に入れていく非リアたち。
「もうっせっかくお化け屋敷を楽しんでたのにっ」
「奴らの動機は理解の外だ」
 リリアが機嫌悪そうに細身の剣を振るい、ダリルはそんなリリアを守りつつ非リアを冷たい目で見つめた。