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夏の終わりのフェスティバル

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夏の終わりのフェスティバル
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第五章 午後のロシアンカフェにて


 一番忙しいランチタイムも無事に終わり、カフェは午後のお茶の時間になった。
 ちょうどその頃に、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は来店した。
 美羽はセラがお店の切り盛りを任されていると聞いて、セラの様子を見に来たのだった。
「やっほセラ、遊びに来たよ!」
「美羽! 来てくれたのね、ありがとう!」
 テーブルについた美羽のもとに、セラが駆け寄る。
「おすすめのメニューは何?」
「お茶にするなら、ブリヌイのセットとかどうかしら」
「じゃ、それお願い! あ、それと料理を運んでもらうメイドさんは、香菜とルシアがいいな♪」
 セラは快く了解して、飛び回る夏來 香菜(なつき・かな)ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)の元へ向かった。

「ブリヌイになります。お待たせ致しました」
 ルシアがトレーに乗せたお皿を美羽の前に置いた。
 薄いパンケーキに、ジャムのかかったアイスクリームと数種のフルーツが乗っている。
「ルシアのメイド服、似合ってるね♪」
「ありがとうございます!」
 美羽の言葉に、ルシアの隣で紅茶のポットとカップを出そうとしていた香菜が、むっとする。
「こちらセットの紅茶になります。お待たせ致しました!」
「ありがとう、二人とも♪」
 早速、美羽はポットから紅茶を注ぐ。辺りに美味しそうな匂いが漂い始めた。
「ね、今日はメイドデーだし、メイドさんらしいサービスをしてほしいな♪ 同時にしてもらって、どっちのほうがメイドさんらしいか評価するわ!」
 それが、香菜のライバル心に火をつけたらしい。かくして、香菜VSルシアのメイド対決が始まった。

「「お帰りなさいませ、ご主人様♪」」
 香菜とルシアの声が重なる。ルシアは純粋に楽しんでいるようだ。対して香菜は、表情が作ったように固くなっている。
「うん、ルシアは自然体でいい感じ。ほら、香菜はもっと笑顔で!」
「お、お帰りなさいませ、ご主人様♪」
 ルシアの評価を気にし過ぎたのか、香菜の笑顔は余計に作り物感が出てしまっている。
「香菜も、もっとルシアみたいに自然体で接客してみたらいいんじゃない?」
 そうアドバイスをして、美羽はパンケーキにアイスとフルーツを包む。
「誰に接客してるとか、誰と接客しているかを気にせず、目一杯メイドさんを楽しむのよ♪」


 そんなこんなで美羽が香菜とルシアを侍らせていると、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)
 そして二人の間に挟まれたキロスが来店した。
 昼間の騒動で、キロスがこってりと風紀委員に絞られているところをルカとアコが見つけ、三人は祭りを回ってからロシアンカフェに来たのだった。
「早速、練習した成果を発揮するチャンスだよ♪」
 美羽にぽんっと背中を押され、香菜は三人の前に立たされた。
「おっおかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様!」
 多少声は上擦っていたが、先ほどまでよりは柔らかい笑顔で香菜は応対をする。
「こちらのお席へどうぞ!」

「香菜、お疲れ様! おすすめのメニューは何?」
 ルカはメニューを開いて、水を運んできた香菜に問いかける。
「料理とお茶、どちらがいいですか?」
「お茶かな。お祭りでいろいろ食べてきたの!」
「何を食べたんですか?」
「「たこ焼き!」」
 綺麗にハモる、ルカとアコの声。
「ルカの故郷の定番露店フードなのよ!」
 嬉しそうに言うルカに、アコもにっこりと微笑む。指でOKマーク作って頬に当て、ぷくっとタコヤキを作ってみせた。
「ほっぺにたこ焼が」
「ほら、ぷくっと」
 ルカとアコは顔を見合わせる。
「「えへへ♪」」

 キロスとルカ、アコは何だかんだでゆっくりと寛いだようだ。
 会計を済ませ、三人はカフェの外で立ち話をしている。
「楽しかった?」
「まあな」
 心なしか、キロスの顔もすっきりとしたように思える。
 ルカたちと話して、だいぶ気も晴れたようだった。
「それならよかった!」
 ルカとアコは双子の様に、同時に顔を見合わせて微笑む。
「「キロス、また遊ぼうね♪」」
 二人の言葉に、キロスは満更でもない顔をして笑った。


 ほとんどルカたちと入れ替わりに カフェを訪れたのは、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)
 そして雪比良 せつな(ゆきひら・せつな)だった。
 三人は午前中に東地区の巡回警備を行っておりキロスを捕まえて尋問たりもしていた。
 昼時になった為、エヴァの提案でこのロシアンカフェに昼食を取りに来たのだった。
「午後はキロスと共謀した奴らの捜索を行いつつ、巡回するぞ」
 煉はそう言ってロシアンカフェに足を踏み入れた。
「「「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様♪」」」
 次の瞬間、店内の至るところからメイドたちの声が聞こえてきた。
「……何でメイドばかりなんだ?」
「今日はメイドデーだぜ!」
「はぁ、そういう日なのか」
 ぽかんとしながらも、煉たちは案内された席へと向かった。

「せつなは好きなもの頼んでいいぞ。せつなの風紀委員歓迎会だからな」
 煉はメニューをせつなの前に差し出す。
「じゃ、あたしはビーフストロガノフとボルシチのランチに、ブリヌイとロシアンティーで」
「おい、エヴァっち、お前は少しくらい遠慮しろ……」
「今日は煉の奢りだろ? せつなも高いもん頼めよ!」
「そういうわけにはいかないよ……」
 しばらくの間、せつなはうーんと唸ってメニューとにらめっこをしていたが、ようやくメニューから顔を上げた。
「せつなも頼むものは決まったか? それじゃあ早速注文を」

 三人に注文を取りに来たのは、あさにゃんだった。いつの間にやら、頭にはいつも通りネコ耳をつけている。
「……朝斗?」
 煉は同じ風紀委員として活動している朝斗とは関わりがあるが、あさにゃんとしての朝斗に直接出会うのは初めてだった。
「いやー偶然だなあさにゃん!」
 白々しく驚くエヴァ。エヴァは、事前にテレパシーでルシェンに連絡し、煉とせつなにばったり会わせる計画を練っていたのだった。
「今日も可愛いぜ〜。ほらほら、せつなもいじっていじって!」
「え? え、ええと……」
「あ、今日はせつなの歓迎会も兼ねてるからさ。色々サービスしてくれよ! もちろんあさにゃんならではの、な!」
 対するせつなは、さすがに少し狼狽えている。
「い、いやまぁ噂は色々聞いてたし、前に女装した姿を見てるから噂は本当だと思ってはいたが……、実際に目撃するのとは、な」
 同じく動揺する煉。それは、あさにゃんも同じだった。
「え、えーとその、これは」
「な、何、心配するな、人間趣味は人それぞれだ。似合ってると思うし、わ、悪くないと思うぞ、うん」
 あさにゃんが今着ているメイド服はミニスカートのため、ニーソとの間から絶対領域がちらりと見えていた。
 煉はちらちらと視線を彷徨わせ、どこに目をやるべきかと思案する。
「ま、待って、勘違いしないでよ!? そりゃネコ耳メイドしたのが一回や二回じゃないかもしれないけど、僕の趣味じゃないからね!?」
「そ、そうなのか?」
「れ、煉さんも着てみればいいんだよ!」
 あさにゃんの言葉を待っていたかのように、ルシェンが煉の背後にすっと回る。
「簡易更衣室なら、空いてるわよ……」
「なっ……! いや、俺は絶対に似合わないぞ? だから、おい! ちょっと俺の話も聞け!!」
 有無を言わさず複数のメイドたちに連れ去られた煉が、どうなったのか。
 言うまでもなく、ここにまた男の娘メイドが登場したのだった。