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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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「……グィネヴィアはどうだ?」
 シリウスはグィネヴィアに話を向けた。
「……ティル・ナ・ノーグでも皆様のように良くしてくれる方達がいらしゃって。わたくしいつも迷惑を掛けてしまって、でも皆様に出会う事が出来て毎日が楽しくて本当に来て良かったですわ」
 グィネヴィアは少しだけ故郷を思い出しながら自分の事を話した。
「……目に浮かぶな。しっかし、グィネヴィア、ウルバス夫妻といいあの石の兄ちゃんのフォルトーナといい珍しい出会いに遭遇するのがうまいな。何かコツでもあるのか? ちょっと教えてくれよ!」
 シリウスは笑いながら言った。今回の幽霊夫婦、前回の執念の石職人が作り出した石青年といいシリウスがそう思うのも当然である。しかもグィネヴィアの性格から故郷でも自分達と同じような苦労をしている人達がいる事は容易に想像出来る。
「……コツは分かりませんけれど、きっと百合園に入学したおかげですわ」
 と、にっこり。そのグィネヴィアの誰に対しても疑いを抱いていない笑顔を向ける事こそがコツだと思うのだが、本人は全く気付いていない。気付いてるのは周囲の人だけ。
「そうだな。よし、次はオレだな。実はティル・ナ・ノーグに縁があるんだ。マグ・メルってとこで『超国家神』って呼ばれる神になったことがあるんだぜ!」
 自身に原因がある事を知らないグィネヴィアに笑うしかないシリウスは自分の事を話し始めた。
「まぁ、神様に。シリウス様、凄いですわ」
 グィネヴィアは素直に感心し、パチパチと手を叩いた。
「……いや、そこまで感心されてもな」
 天然だけに直球に気持ちを表現するグィネヴィアに少しだけ困るシリウス。

 その時、
「こんにちは、グィネヴィアさん」
「よぉ」
 北都と白銀が挨拶にやって来た。
「まぁ」
 グィネヴィアは嬉しそうに声を上げた。
「改めてよろしくだ」
「はい」
 白銀は手というか前足を出してグィネヴィアと握手。端から見れば、お手にしか見えない。
 その事に気付いた白銀は、
「……って、これじゃ犬じゃねぇか」
 思わず声を上げ、獣人化した。
「まぁ、凄いですわ」
 グィネヴィアは手を叩きながら呑気に感心している。
「……凄いって言われてもなぁ」
「……天然だねぇ」
 天然グィネヴィアの反応に白銀は苦笑し、北都は双子の良い標的だろうなと思っていた。
「楽しいわね」
「ですねぇ〜」
 ハナエとヴァーナーはにこにこと白銀とグィネヴィアのやり取りを眺めていた。
「ところでそこにあるのが幻覚茶だねぇ。名前からして怪しいけど」
「はい。とても美味しいお茶ですわ。皆様もどうですか」
 幻覚茶に気付いた北都にグィネヴィアはにっこりとみんなに勧める。
 当然、みんなは困った顔をするしかない。
「ちょっと、いいか」
 白銀がポットのふたを開け、『超感覚』で中身を確認。
「どうかされましたか?」
 白銀の様子にグィネヴィアは首を傾げるばかり。

 そこに
「こんにちはでふ」
 リイムが登場し、丁寧に頭を下げて挨拶。
「まぁ、可愛らしいですわ」
 愛らしいリイムの姿に声が高くなるグィネヴィア。
「ありがとうでふ。リーダー、はっきり言ってはどうでふか?」
 リイムは褒められて嬉しそうに礼を言ってから後ろにいる『ティータイム』で用意したお茶とお菓子を持っている宵一を促した。
「……はっきりって」
 促されても本人を目の前にしてはどうにも言い出せない宵一。
「また会えて嬉しいですわ」
 グィネヴィアはにこにこと笑っている。宵一は困ったようにグィネヴィアの笑顔を見ているばかり。
「えとえと、僕のリーダーはグィネヴィアさんの事が気になっているみたいでふ。こんなリーダーでふが、もしよろしければ仲良くしてあげて下さいまふ」
 リイムが宵一の手助けを一生懸命する。
「ありがとうございます。わたくし、皆様に迷惑をかける事が多いのに仲良くして下さるなんて嬉しいですわ」
 グィネヴィアは申し訳なそうに言った。どんなに天然であっても自分が迷惑を掛けている事は分かっているのだ。
「それはこちらもだ。改めて仲良くしてくれると嬉しい。良かったら食べてみてくれ」
 宵一は改めて自分の言葉で伝え、自作のお菓子をグィネヴィアのテーブルの前に置いた。
「ありがとうございます」
 グィネヴィアは美味しそうに食べ始めた。

 その間、宵一は
「ん、それが幻覚茶か」
 幻覚茶の処分について思案している北都達の所へ。
「おう。何か普通の紅茶の匂いがするぜ」
 中身確認中の白銀が宵一に答え、ポットのふたを閉めてから調査結果を報告。

「……普通の紅茶」
「害は無さそうだな」
 『博識』を持つ北都と宵一は、無害である事と作成者が人に疑い無いく飲ませるために普通の紅茶に必死に似せた事が分かった。

「そうだねぇ。試行錯誤した事は分かるけど、このまま置いておくわけにはいかないよねぇ。被害が出る前に飲み干して処分をしようかなぁ」
 と北都。グィネヴィアの目の前で処分を避けたい上に少しばかり幻覚茶に興味を持っていたからだ。
「悪くはないが、少し危険じゃないか?」
 宵一は飲み干す事は悪いとは思っていない。ただ、グィネヴィアが被害を受ける心配をしているのだ。北都が飲むのを見て飲みたくなるのではないかと。

 そこに食べ物を大事にする木枯が
「……それなら、幻覚中和作用のお菓子を作ったらどうかなぁ。そうしたら見たい時に幻覚を見られるし、捨てなくても大丈夫だよ」
 何とか出来ないかと口を挟んだ。

「それはいいかもしれないねぇ」
「早速、キスミに作らせるか」
 木枯の意見を採用した北都と白銀はポットを持って調理スペースへ行った。ついでに他のテーブルのポットも回収して。

「木枯さん、良かったですね」
「本当だねぇ」
 木枯と稲穂は幻覚茶の処遇にほっとしていた。

 幻覚茶を北都達に任せ、宵一はグィネヴィアとお喋り。
「とても美味しいですわ」
 嬉しそうに宵一のお菓子の感想を口にするグィネヴィア。
「僕も食べるまふ」
 リイムも宵一のお菓子を食べようとした時、
「どうぞ」
 動物好きの稲穂がお菓子を取ってリイムに差し出した。
「ありがとうでふ」
 リイムは礼を言ってもしゃりと食べた。
「もふもふだねぇ」
 木枯はリイムの愛らしさともふもふな毛並みが気になる様子。それは稲穂も同じ。
「そうでふよ。僕、最高の抱き枕まふ」
 緑の瞳に真剣な光を宿しながら答えるリイム。その姿はとても可愛く動物好きにはキュンとくるものだ。
「確実に熟睡できるねぇ」
 そう言いつつ木枯は飲み物をリイムに渡した。
「ありがとうでふ」
 リイムはこくんと宵一が用意したお茶を飲み、みんなと楽しく食べて飲んでお喋りをした。

「おーい、姫さん」
 パンケーキを手にキスミが登場。北都達と完全に入れ違いとなっているので戻った時に笑顔が消えているだろう。
「まぁ、美味しそうですわ。キスミ様のサイン入りですのね」
 グィネヴィアはのんびりとサイン以上の意味がある事を察する様子が無い。
「こりゃ、警告だな」
 シリウスが面白そうに笑った。まさにその通り。この場にいるみんなが思っている事だ。
「……警告ってひでぇなぁ。味は最高だぞ」
 キスミは不満顔でシリウスに言いながらグィネヴィアの前に皿を置いた。
「グィネヴィアのお嬢さん、そのパンケーキ俺に譲ってくれないか」
 ナディムは皿を指さしながら言うが、
「はい。取り分けますわね」
 明らかに勘違いしているグィネヴィアはナディムの分を別の皿に取り分けようとする。
「いや、そうじゃなくてその皿に載ってる全部を食いたんだけど……?」
 ナディムは自分の言葉が正しく通じていない事に気付き、分かりやすく言い直した。
「全部ですか? 分かりましたわ。どうぞ」
 ナディムがとても空腹なのだろうと勘違いしたグィネヴィアは大人しく皿ごと渡した。
「……よし」
 ナディムは手を休める事無くパンケーキをお腹に詰め、水を飲んで一息入れるが、表情がおかしい。
「どうだ?」
 キスミが楽しそうに聞く。
「何だこれ、水が甘いぞ」
 ナディムは顔をしかめ、キスミをにらむ。
「楽しいだろ。何でもスイーツな甘い味に感じるだ。親睦会にぴったりだろ」
 キスミはナディムの反応に満足そうに親指を立てる。
「……甘すぎて逆に気持ち悪いぞ」
 とナディム。
「そーかぁ?」
 キスミは肩をすくめつつナディムの文句をさらりと流す。
「ナディム様、大丈夫ですか?」
 グィネヴィアが心配そうに言葉をかけた。
「あー、こんなのすぐに戻るから心配無いぜ」
 ナディムは笑顔で答え、心配無い事を知らせた。

 そして、
「おい、キスミ。ちゃんとまともなもん作ってるか」
 シリウスはからかい気味にキスミに声をかけた。
「何だよ。作ってるって。みんな、うるせぇし」
 キスミは調理スペースの方を振り返りながら文句を垂れた。
「仕方無いさ。自業自得だろ」
 シリウスが少しだけ厳しく言う。
「そんな事ねぇよ。でもつまんねぇ。みんなオレの事を見張ってるんだぜ」
 キスミは、散々と言わんばかりに肩をすくめながら答えた。
「それはキスミ様が危ない目に遭わないためですわ」
 リーブラはキスミの身を案じながら優しく言う。
「……それは」
 さすがのキスミも気を遣われてはどうにも次の言葉が出ない。
「よし、キスミ。幽霊と頭がない奴でも食べられる料理、何か作ってくれ!」
 名案が思いついたとばかりにキスミに無茶な注文をするシリウス。
「なっ、無茶じゃねーか? でも、面白そうだな。よーし、任せろ!」
 キスミはウルバス夫妻をちらりと見た後、眉を寄せたかと思ったら目に悪戯小僧の光が輝き始め、楽しそうに調理スペースに戻って行った。
「……シリウス、あんな事を言っては本気になりますわよ。そして怒られますわ」
 確信犯的な無茶ぶりにリーブラが一言。本当に出来れば良いが、予測できるのは皆に迷惑をかける代物だ。それ以前に作らせて貰えないだろう。
「怒られるぐらいが丁度いいんだ。出来たら出来たで面白いぞ」
 と確信犯のシリウス。本当に出来るとは思ってはいない。ただ、キスミの要望に応えただけだ。

「……戻る前に」
 パンケーキを運んだ後、キスミは素直に戻ると思いきや足を止め、頭捜索者の方を見るなり、怪しげなペンを取り出す。
「へへへ」
 皆が驚く顔を想像する事を考えていた時、静かに危機が訪れていた。

「……何をしようとしておるのだ?」
 キスミの監視を担当すべく調理スペースに向かっていたイグナが背後に登場。
「……いやぁ、何も」
 キスミは、危機を感じ取りとっさにペンを後ろ手に隠す。
「その手に持っている物は何だ?」
 目聡いイグナは見落としなどせず、問い詰める。
「ちょっと親睦会を賑やかにしようかと」
 目を泳がせながら答える。
「……つまり、これ以上の迷惑を掛けようという事だな」
「迷惑じゃないさ」
 イグナの容赦の無い言葉にキスミは声を大きくする。
「言い訳は無用だ」
 イグナはウイングソードの切っ先をキスミに向けた。悪戯小僧に容赦はいらない。
「ひゃっ!? オレ、言い訳なんかしてねぇよ。面白い方がいいかなぁと。ていうか何で抜くんだよ!! さっきもハリセンで……」
 ビビって手に持っていたペンを落とすキスミ。
「つまり痛い目に遭いたいと、そういう事だな」
 そう言ってイグナは剣で斬ると思いきやみねで全力で頭にこぶを作った。
「いてぇ」
 キスミは頭を押さえ、涙目で訴える。すっかり悪さをする事を忘れている。
「ほら、素直に戻るのだ。しっかり見張りをする必要があるな」
 イグナはキスミを引きずって調理スペースへ向かった。

「また何か悪さをしたのかのぅ」
 イリアを手伝っていたルファンは現れたイグナとキスミを見つけ、訊ねた。
「人の顔に落書きをしようとしておったのだ」
 イグナがキスミに代わってまだしていない悪さを話す。
「皆が忙しくしている時に何をしておるかと思えば」
 イグナの報告にすっかり呆れるルファン。
「……もっと賑やかにしようと思ったら」
 そう言ってちらりと後ろに立つイグナを見た。
「賑やかにするなら皆が喜ぶ料理を作るんじゃ。せっかく良い腕前を持っておるのにもったいなかろう」
 ルファンは注意と共に少しだけ優しい言葉を含める。
「そーかぁ?」
 褒められて少しだけ調子に乗るキスミ。
「そうだぜ。オレも負けらんねぇぜ。勝負だ!」
 シンが良いタイミングを見つけ、料理勝負を申し込む。
「おもしれぇ。受けて立つぜ。幽霊でも食べられる料理で!」
 キスミは受けて立つも悪戯の匂いを漂わせている。
「その幽霊でも食べられる料理とは何じゃ?」
 ルファンが不穏なものを感じ、問いただした。
「……作ってみたらって言われて、面白そうだなぁと思ってさ」
 キスミはあっさり答える。全く悪びれる様子は無い。
「普通の料理で勝負だ! 判定は参加者だ。いいな?」
 シンはしっかりと念を押す。
「……分かったよ。絶対面白いと思うのによぉ」
 不満を残しつつキスミは料理を始めた。判定が下されるのはキスミの魔料理が全て処分され、捜索が終わった後のやり直しされた親睦会でだ。

「ダーリン、大丈夫かな? すぐに悪さをすると思うけど」
 イリアは心配そうにルファンに聞いた。今は真面目にしているが、飽きて悪さをするのではないかと心配。
「そうじゃな。しかし、今日は親睦会じゃ。次は何をすれば良かろうか」
 ルファンは少しだけ甘い目でキスミを見てからイリアの手伝いに戻った。