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リアクション
そして、
「……な、何なんだよ! マジな幽霊か。ふぎゃっ」
目の前に立つブリジットに驚く暇も無く口の中が甘さで満たされた。
「さっき、イリアをびっくりさせた罰だよ」
膝に両手を当てながら怒り顔のイリア。死ぬほど甘いケーキをキスミの口にぶち込んだ。
「……ブリジット、気が済んだかのぅ」
羽純がブリジットを呼びに登場。
「……むぅ」
羽純の登場に青くなるも口が塞がるわあまりの甘さに気分が悪くなるわでちょっとした惨事状態。
「ふむ、髪型を変えてカラコンをしておるが、すぐに分かるか」
「記憶の奥底に染みついているようですね」
キスミの反応から羽純は何を言おうとしているのか悟り、ブリジットも一言。
「行くぞ。キスミか、皆が幸せになれるように頑張れ」
二人を呼びに来た甚五郎はキスミに気付き、軽く励ましてから待っているホリイの所に戻った。長いオルナの話で時間をかなり費やした甚五郎達は、霊体化を移動してからではなくここでしてからにする事になった。何もかも物忘れの激しいオルナのせいだった。
「……大人しく料理をするんじゃな」
ルファンが水の入ったコップを手に助けにやって来た。お仕置きは他の皆がしたので少しぐらいは助けてあげようと登場。
キスミは水で口の中を掃除した後、
「……ごめんなさい」
きちんとイリアに謝った。
「んもう」
イリアは口を尖らせながらもキスミを許した。
イリアに謝り終えたキスミは、
「……何かすげぇ事に。でも意外にいいかも」
改めて鏡で自分の顔を確認し、何気に気に入る様子を見せた。
「また悪さをしないよう見張っているからな」
「霊体になってもすぐに分かりますからね」
イグナと近遠が悪さをしないよう厳しい調子で警告する。
「りょーかい。でも面白くない料理作るのつまんねぇんだけど」
キスミは鏡から顔を上げ返事をするが、どうにもやる気が見られない。
「作るのは美味しい料理だ。大人しくひたすら作り続けろ。もしさぼろうものならどうなるか分かっているだろう。その前に顔を洗え」
イグナは厳しい口調で先ほど痛い目に遭わせた記憶を甦らせる。ぶるっと肩を震わせるもキスミは自己主張をする。
「……またこっそりクッキーを食べてやる」
「今から一切、ここから出る事も何かを食べる事も禁止する」
イグナはキスミの小さな声も聞き洩らず、取り締まりの手はゆるめない。
「……ちぇっ」
イグナの言葉にキスミは小さく舌打ちした。
「何か聞こえたが」
イグナはすっと厳しい目でキスミをにらむ。
「分かりました」
また痛い目に遭わされた事を思い出し、こくりとうなずいた。
「よし、料理に戻れ」
イグナはそう言って顔を洗わせてからキスミを作業に戻らせ、監視の目を光らせた。
「ボクは戻りますね」
近遠はまた先ほどまで座っていた席に戻った。
会場は、騒ぎから賑やかな料理風景に戻った。
「……ところでこのカップケーキのトッピングだけど」
チョコチップクッキーやサンドイッチなどの軽食やふわふわシフォンケーキやモンブランなどを作っていた涼介はキスミの作業に悪戯の匂いをかぎつけ、ツッコミを入れた。ちなみに『調理』を持つ涼介の腕前は最高級。
「あぁ、それまだ未完成だぞ! これを入れて完成だ!」
キスミはシロップが入った器を涼介に見せながら楽しそうに言う。
「それは何かな。おかしな効果が出るような物じゃないよね。少しいいかな」
何となく嫌な予感がした涼介は器を奪い取り、中身を確認。
「何すんだよ!」
奪い取られたキスミは不満顔。
「また何かしたのか。あれほど食べ物で遊ぶなと言っただろ。料理勝負を忘れるな」
近くで料理をしていたシンが涼介達のやり取りに加わる。
「またって。ただの隠し味だって。それに忘れてないって」
キスミは何とか悪戯したいがために必死に器を取り返そうとする。先ほど酷い目に遭ったというのに懲りない。
「……魔法薬みたいだけど。どうなるのかな」
『薬学』を持つ涼介は匂いを嗅ぎ、魔法薬の存在を見つけ出した。
「……味覚が反転するみたいな」
キスミは小さく答えた。
「これは没収だよ。ただでさえ君たち兄弟は魔法薬などで前科があるんだからね」
ため息をつきながら涼介はシロップを丁寧に処分してしまった。少しでも目を離そうものならこうやって悪戯をする。全く気が抜けない。
「……やっぱり普通に美味しいってつまんねぇと思うけどな」
キスミは、口を尖らせ文句を垂れ流す。迷惑をかけている事をものともしないというか慣れている。
「……今日はグィネヴィアの親睦会だ。実験は他でやるんだな。料理の具合はどうだ」
ダリルが再び登場。ルカルカの大量消費のため料理をしに来たのだ。
「大量に作っているけど食べる方がすげぇから」
「監視はいるけど目を光らせない訳にはいかないからね」
シンはバタバタしている料理人達を見渡し、涼介はキスミの顔をちらり。
「……実験ってひでぇよ」
キスミが小さい声でダリルに反論。声が小さいのは、恐怖に遭わされた事があるからだろう。
「……ほぅ」
ダリルはこの一言と気迫でキスミを黙らせた。
「……いや、真面目にやりますって」
キスミは真面目にカップケーキにトッピングを施した。
キスミを黙らせたダリルは料理を始めた。
「……どれだけ作ればいいんだ」
そう言いつつ高速で料理を完成させ、ルカルカの元へ行った。
「……よし」
諦めきれないキスミは周囲を見回し、自分に注目がいっていない事を確認してから別の妙な薬を取り出し、カップケーキに垂れ流そうとする。
しかし、その企みは
「何してるのかなぁ?」
アクセルギアを使ったローザマリアに薬を持った腕を掴まれ、阻止された。
「ちょっ、いてぇよ〜」
阻止だけでなくこめかみに拳をあてがいぐりぐり攻撃。キスミはほんのり涙目。
「そんな余計な事をしないの。クッキー二種類と普通のお菓子を作らなきゃ。これ以上、おかしな物増やしたら仕切り直しのパーティーも台無しになるでしょう。グィネヴィアのために開いたのなら良い思い出になるようなものにしなきゃ。このままだとろくなものにならないでしょ。OK?」
ローザマリアはぐりぐり攻撃をし続けながら言い聞かせる。ローザマリアは、アップルパイやミートパイの調理中に生まれるオーブン入れの待ち時間を利用して『行動予測』を使ってキスミを監視していたのだ。
「……りょーかい」
「はい、これは没収!」
キスミは元気の無い声で答える。攻撃から解放されるが当然薬は没収。
「……ったく」
キスミはぶつぶつ言いながら料理に戻った。幾度となく悪戯を邪魔され多少観念した様子だった。
「持って来たでございますよ」
シルヴィアのリクエスト料理を手にアルティアが来た。
「美味しそうネ! 食べるアル!」
シルヴィアはテーブルに並べられるなり、端からどんどん食べていく。ちなみにキスミ以外の料理人の物。
「美味しそうネ」
シルヴィアは近くで魔料理やダリルの料理を食べているルカルカに声をかけた。
「美味しいよ! それ、キスミの作ったもの?」
近くの席でキスミの魔料理の美味しさを存分に楽しんでいたルカルカはリースの席を見ていた。取り皿にこんもりと載ったキスミの料理。リースはじっと料理を見つめ覚悟を決めていた。
「……そ、そうです。何とか処分しようと思っているんですけど」
リースはいきなり声をかけられ、慌てた。
「ルカにも少しちょうだい! グィネヴィアがいない間にキスミの料理を食べ尽くすつもりだから。少しだけ他の料理も食べながら」
ルカルカは自分の取り皿を手にリースの席へ。
「ワタシも欲しいアル! 味も最高で面白い料理ネ」
シルヴィアも明るく言い、自分の取り皿を手にやって来た。流れていた涙もすっかり大丈夫のようだ。
「あ、ありがとうございます」
リースの取り皿の山はルカルカとシルヴィアによって小さくなっていた。
「……本当に賑やかですね」
近遠はまともなお菓子と飲み物でほっこりしながらリースの席を眺めていた。
取り皿の山を消した後、
「次はダリルの料理をお願い!」
ルカルカは執事らしく側に控えているダリルに料理を注文する。
「……どれだけ食べるんだ」
ダリルが止まる事のないルカルカの手に口を挟む。
「だってダリルの料理もキスミの料理も美味しいんだもん」
そう言ってルカルカはキスミの魔料理をほおばる。
「ほどほどにしとけよ」
「だーいじょーぶ、まーかせてっ!」
ダリルの制止にもルカルカは明るく言って魔料理処分とまとも料理に励む。
「……」
ダリルは何度目かの料理を始めるために調理スペースに向かった。
「……にぎやかね〜」
セリーナは楽しそうに眺めていた。
「そ、そうですね。お菓子を食べて一休みしましょう」
取り皿の料理を終わらせた後、リースはまとも料理で休憩する。
リースは少しおどおどしながら適当なお菓子を手に取り、セリーナにも勧めた。
「ありがとうね〜。ほら、レラちゃんもどうぞ。美味しいそうよ」
まともなお菓子を受け取ったセリーナは側にいる賢狼・レラにもあげていた。
「……これだけ食べる奴がいればすぐに片付くな」
ナディムは自分以外の魔料理処分員を見ながら希望を見いだしていた。
「これは忙しいでございますね。でも楽しそうで何よりでございます」
忙しい給仕のアルティアは楽しんでいる近遠を見て嬉しそうだった。
「おー、頑張ってるな」
「今度は何だよ」
様子を見に来た白銀に嫌な顔をするキスミ。先ほど綺麗な目に遭わされたためか警戒している。
「幻覚中和作用クッキーの調子はどうだ?」
キスミの警戒を笑いながら幻覚中和作用クッキーの様子を確認する。
「作ってるさ。恐ろしい奴いるし」
キスミは答えるなり背後に佇む見張り役のイグナの方をちらり。
「……大変だな」
「……大人しく作業をしてくれれば我も楽なのだが」
白銀の労いにイグナは呆れながら答えた。
「リクエスト、いいか?」
キスミの料理をだいたいお腹に詰め終わった後、まともな料理を食べたく給仕のアルティアを呼び止めた。
「何でございますか?」
「お菓子と肉と魚ととにかく美味しい物ネ!」
やって来たアルティアにシルヴィアは美味しい物をリクエスト。凄腕の料理人達が集合しているのでどれを食べても大当たりなのでシルヴィアは選べなかったのだ。
「はい。少し待つでございますよ」
アルティアはシルヴィアが綺麗にした皿を一緒に回収し、調理スペースへ戻った。
「美味しい物をリクエストでございます。洗い物お任せしてよろしいでしょうか」
アルティアは片付けをしているルファンに訊ねた。
「大丈夫じゃ」
片付けをしながらルファンは答えた。
使用済みの皿を片付けて行かなければ、使える皿が無くなってしまうのだ。何せ生産と消費速度が速いので。
「ありがとうございます」
片付けを任せ、アルティアは次の料理を運んで行った。
この後、シルヴィアの元にたくさんの料理が並び、消えていった。
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