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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

リアクション

 古城、入り口奥の通路。

「……あの子が見ていた悪夢は、彼女が遭遇した事件じゃないかしら」
 コルセアが少女が見ている悪夢について推測を始めた。
「……かもしれぬ」
 羽純はうなずいた。
「あの魔術師の話は後回しにしてまずはあの少女の事だな」
 甚五郎は、一度魔術師の話を置いた。
「他の住人達とは違って自分の死を覚えているようであったのぅ。彼女より後の犠牲者達は皆忘れておるというのに。こだわる必要は無いのかもしれぬが少々気になるのじゃ」
 と羽純。聞き込みをしたところ自身が死んだ事は自覚しているが、それに関わる記憶を覚えていないのだ。それに比べ少女は覚えているのだ。最初の犠牲者というだけではないような気がしてならない。
「そうですよね。気になりますよね、変死の伝説がありますから。その事を話しても驚くばかりで実感していませんでしたよね。これもこだわる事ではないのかもしれませんが」
 とホリイ。他の捜索者から得た犠牲者の情報を本人達に伝えても驚くばかりで何も得られなかったのだ。
「……変死の様子に共通があるんじゃなくてそこに至る何かが同じなのかも。もしかしたらそこに変死伝説の原因があるんじゃないかしら」
 とコルセア。変死の様子や命日は皆ばらばらなのだ。その中で一番の鍵となるのはあの少女。
「犯人はあの少女でありますか!」
 吹雪が大きな声を上げる。
「……その可能性はあるな。この地下の事を聞いても知ってはいるが行かないと話すしな。そこから考えると原因の一端があそこにあるはずだ」
 と甚五郎。犯人というのは犠牲者が持っていないものを持っているものだ。地下に駆けつける前に元住人達とオルナに地下について訊ね、知らないという答えを得ていた。
「少し入っただけで嫌な気分になるらしいからのぅ。わらわ達はこことは無関係じゃから大丈夫のようじゃが」
 羽純は曇り顔で離す元住人達を思い出していた。
「時間をかければ、記憶を思い出す事は出来るかもしれませんが、私達にそれまで待っている時間はありません」
 とブリジット。何もかも時間が無い事が問題だ。
「そうね。しかも変死が起き始めたのは最初の事件が起きてから数年後。あの魔術師が関われる隙は十分にあるはず」
 コルセアは頭を巡らす。どこぞの魔術師が関わった二件の騒ぎには全ていたので少しは見当がつくはず。
「ワタシ、もう一度あの子の所に行ってきます」
 コルセアの言葉で心配になったホリイが再び地下に行く事を希望した。
「気を付けろ」
 甚五郎は注意を促しながらも見送った。
「あの者は、未だに明確な姿を見せぬ。もし、ここに関与していたしても見つけるのは事後かもしれぬ。姿をくらますのが上手いからのぅ。関わる隙としてはあの少女じゃな」
 羽純はもし自分が悪さをする事を考え、つけいる隙を考えるとやはりあの少女になる。
「あの子の悪夢を何とかすればいいのかしら。でも相手は幽霊。普通、心残りを解決して上げれば成仏でしょうけど。話じゃ他の住人達も離れる様子も無いようだし、下手をしたらオルナにも被害が出るかもしれない」
 コルセアは最悪の未来を予想する。
「……引っ越しを促してはどうでしょうか」
 ブリジットが部屋の有様から実現可能は無理だと思いながらも口にした。普通に考えれば十分に有効なので。

 すると
「それは無理だよ」
 植物の世話を終えたエースが話に入って来た。
「無理とは?」
 イングラハムが問う。
「彼女は曰く付きだと知っているから何が起きても問題無いと、何より引っ越しに時間が掛かって大変だから嫌だそうだ」
 とエース。オルナに植物の世話をさせながらさりげなく引っ越しを勧めたのだが、上手く行かなかった。
「……そりゃ、そう言うか」
 甚五郎は苦笑しながら言った。汚くなりつつある部屋を見れば答えは自ずと分かる。
「とりあえず、オルナとミシュ一家達に地下室には地下には近付かないようにしろと、何かあったらすぐに助けを呼べと言っておくか」
 甚五郎は、仕方が無いので救済措置を置く事にした。
「……オルナの親友にも伝えるよう言っておかねばのぅ。オルナは物忘れが激しいからのぅ」
 羽純はオルナよりも彼女の親友であるしっかり者のササカを頼りにした。
「……時間も時間だな」
 ここに来て聞き込みやら少女についてやら話して随分時間が過ぎた事に気付いた甚五郎。

 皆が呼びに行く前に
「……戻りました」
 ホリイが戻って来た。

「何か分かったでありますか?」
 吹雪が真っ先に訊ねた。
「……寝言を言っていました」
 ホリイが新たな情報を口にした。ずっと側で声をかけ続けた結果得た情報。

 ホリイが詳細を話そうとした時、
「大変な事になっていますわね」
 グィネヴィアを連れた麗が登場。
「おぬし達も来たのか」
 甚五郎が真っ先に声を上げ、二人を迎えた。
「グィネヴィア様を危険な料理から守るためですわ」
「……とてもすごい古城で驚きましたわ」
 麗はここに来た理由を話し、グィネヴィアはぐるりと周囲を珍しげに汚部屋寸前の城内を見回していた。
「いろんな意味で凄いから」
 コルセアが呆れと皮肉を込めて答えた。凄まじきごみ山を知っているだけに深い。
「不思議な花を咲かせているお花を見ましたわ。どこか泣いているように見えて可哀想で」
 グィネヴィアは花の事を思って少し悲しそうな顔をした。
「……君は彼女達の気持ちが理解出来る優しい女性だね。心配は無用さ。少しすれば元気を取り戻すから」
 エースは花のために悲しそうにするグィネヴィアの心に嬉しくなった。
「そうですか。それなら安心ですわ」
 グィネヴィアはエースの励ましに表情を明るくした。

「……それで寝言というのは?」
 コルセアが話を戻した。
「……魔法使いさんと」
 ホリイはゆっくりと答えた。この場にいる皆にしっかりと伝わるように。
「……魔法使い? まさかあの魔術師かもしれないという事?」
 コルセアが思わず聞き返した。
「もし、そうであるなら厄介な事ですわね。石の次は幽霊とは節操がありませんわ」
 麗は呆れと怒りの含んだ様子で言った。どこぞの魔術師についてはグィネヴィア誘拐事件で知っている。
「ワタシ、気になって声を掛けたり起こそうとしたんですが、無理でした。だから本当にあの魔術師さんなのかは分かりません」
 ホリイは困ったように言った。悪い事が起きているのは確かなのに詳細が分からないのは何とも不気味でたまらない。
「もし、そうだとしたら。何をしたいのじゃろうか」
 羽純は“魔法使い=どこぞの魔術師”で話を展開させる。
「他の住人達と違うのは悪夢と思われる記憶を覚えている事です。記憶を覚えていると言う事は悲しみや恨みや憎しみを抱いているという事になりますね」
 ブリジットも羽純と同じ考えで話を進める。二人だけではない、この場にいる皆が同じように考えている。
「火種になりそうでありますな!」
 吹雪が嫌な顔をしながら声を上げた。以前、魔術師のおかげで石で痛い目に遭ったので。
「そうだとしてもあの子が起きない限り詳しい事情は聞けないし、時間も無い」
 コルセアは困った状況を皆に思い出させた。
「……火種、もしかしたらそこなのかもしれぬな。記憶を忘れていない、それが関係しておるのかも。推測にしか過ぎぬが」
 羽純はこれまでの情報をまとめ、今の状況でしっくり来る答えを導き出した。
「では、どうすればいいのでしょう。今はとても穏やかに眠っています」
 ホリイは、離れる前に見た少女の安らかな寝顔を思い出してた。とても悪い事をするよには思えなかった。
「やはり、警告をするしかないだろう。出て行けでここに住む者達が出て行く様子は無いからな」
 と甚五郎。やはり先に出した対策に戻ってしまった。
「しっかり者の親友に世話を頼むしかないね。俺も植物の世話を頼んだよ。負担を掛けてしまうけど」
 エースが一言。本当に大変なのはオルナではなく彼女の親友である。もはや親友ではなく保護者となってしまっているが。

 一段落した所で
「話し合いも終わりましたし、するべき事を済ませて楽しい親睦会に戻りましょう」
 麗が現実に引き戻した。
 麗の言葉で皆、やる事を済ませ、親睦会へ急いだ。