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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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第五章 古城の謎を見つけよう!

 イルミンスール町外れ、古城。

「うわぁ、本当に幽霊で来たんだ」
 甚五郎から連絡を受け分かってはいたが、実際に見るなり驚く魔女のオルナ。

「ふむ、以前ほどは酷くはないのぅ。いや、まだこれからかのぅ」
 羽純はまだ足の踏み場のある城内を見渡しながら言った。転がっている服や満杯のごみ袋は少なく、以前設置した大量の種類別ごみ箱は満杯の物があったり入れ間違いがあったりと汚部屋への第一歩を踏み出していた。

「それでこの古城の見取り図は見つかったか? 隠し部屋は分かったか?」
 甚五郎は連絡した時に頼んでいた事を聞いた。連絡した時は探したり調べてみるという答えだったので。
「あー、その、探したり調べたりしたんだけど……何というか」
 オルナは頭を掻きながら歯切れ悪くなかなか質問に答えない。
「もしかして分からないんですか?」
 ホリイはおどおどしたオルナの様子から答えを導き出した。
「……ごめんなさい」
 オルナは頭を深く下げて謝った。
「無いものは仕方ありませんね。幸い、私達は今霊体ですから捜査はスムーズに行くはずです」
 ブリジットはすぐに言葉を挟んだ。オルナが見取り図を用意出来ない事や隠し部屋が分からない事はすでに予想していたので何も困る事はない。
「そうだな。すまないが、何かあった時協力を頼んで構わないだろうか」
 甚五郎はブリジットにうなずいてからさらなる協力を頼んだ。実体で必要な時はオルナが必要だから。
「それは任せてよ!」
 先ほどの役立たずぶりを挽回しようと力強く引き受けた。
「では、行くぞ」
 甚五郎は皆を三人を引き連れ、ウルバス夫妻の知人捜しを始めた。

「きょろときょろとどうしたんじゃ?」
 羽純が忙しく周囲を見回しているホリイに訊ねた。
「……あの、ここにいる幽霊は人だけなんですね」
 ホリイは安心したように羽純に答えた。あの黒光りするあいつ、ゴキブリがいないか確認していたのだ。
「そのようじゃ、安心じゃな」
 羽純は知った笑みでうなずいた。ホリイが何を気にしているのかはお見通しだ。
「……はい」
 ホリイはこくりとうなずき、見知った城内を改めて見回した。真新しいのは青白く透明な人達ばかり。
「さて、聞き込みをするか」
「幽霊に聞き込みですか。上手く行くと良いのですが」
 甚五郎の言葉にブリジットはちらちらと自分達を見る前住人達の視線が気になっていた。新たな訪問者として珍しがられているのだろう。警戒されて何も聞き出せない可能性もある。

 そんな時、
「……ねぇ、お客さん? いっしょに遊ぼうよ」
 全く警戒をしていない可愛らしい声が甚五郎達一行に降りかかって来た。
 甚五郎達が振り向くと7歳ぐらいの少女が興味津々の顔でこちらを見ていた。

「ミエット! 知らない人に声をかけないの」
 少女を叱る30歳の女性の声が飛んできた。

「だってつまんないんだもん」
 名前を呼ばれた少女は口を尖らせつまらなさそうにやって来た女性の方に振り返った。
「つまらないじゃないの。あぁ、ごめんなさいね。ほら、行くよ」
 女性は慌ただしげに甚五郎達に謝り、少女の手を引いて退散しようとする。
 しかし、退散されて困るのは甚五郎達。
「もしやおぬし達はウルバス夫妻の知り合いじゃないか」
 甚五郎は女性に訊ねた。ここに来る前にハナエから知人達の名前と特徴を聞いて来たのだ。目の前の母娘がその特徴に一致するのだ。
「……そうですけど。あなた達は?」
 何も知らないクラーナ・ミシュは娘の手をしっかり握り締め不審そうに甚五郎達を見た。
「わらわ達はそなたの知り合いの代理としてそなた達が未だここにおるのか確認しに来たのじゃ。実はわらわ達はこう見えても生者でな。幽体離脱クッキーによってこのような姿をしておるのじゃ」
 羽純が事情を話した。

「二人共、こんな所にいたのか。その人達は」
 大慌てでクラーナと同い年と思われる男性が飛んで来た。
「オランド、この人達はハナエさんとヴァルドーさんの知り合いよ」
 そう言ってクラーナは夫であるオランド・ミシュに事情を話した。
「あの二人の!? という事は二人は成仏してなかったって事?」
 思わぬ訪問者達にオランドは驚きの顔で甚五郎達を見た。
「成仏されていないのは生前出来なかった旅行を楽しむためだそうです。その途中でこの古城の事を知って心配になったそうです。それで会いに行こうと、ただヴァルドーさんの頭が紛失するという事故が起きて今探している所なんです。ここには辿り着いていませんか?」
 ホリイが現在の事情を話した。
「……頭が、いや見なかったよ。あぁ、ヴァルドーさん、他の会社の視察に行っている時に事故に巻き込まれたと聞いたけど、何とかハナエさんと会えたんだな」
 オランドは訃報に家族と共に悲しんだ事を思い出すと共に妻と一緒という事に良かったと思っていた。
「それでおぬし達の事情を詳しく話して貰えないか」
「……事情と言ってもこっちに引っ越して来てしばらくは楽しく過ごしたかな。曰く付きと言っても霊感とか無かったから迷わず住む事にして、そしたらいつの間にか自分達も幽霊になっていたという笑えない事になってしまって。ミエットまで」
 オランドは話ながら娘の手を握った。
「そうなの。気付いたらあたしもオバケになってた」
 ミエットは普通の女の子と変わりない無邪気さを見せていた。
「……つまり、なぜ幽霊になったのかその周辺の記憶は無いという事か」
 甚五郎は一家の話をまとめた。ウルバス夫妻といいミシュ一家といい最近は陽気な幽霊が流行しているのだろうか。
「……そうなるのかな」
 オランドは少し考え込みながらうなずいた。
「どうしたらここを離れる事が出来きますか?」
 ブリジットが成仏について聞いた。
「私達はもう少し家族と一緒に過ごしてからにしようと思って」
 クラーナが娘と夫を見比べながらにっこり答えた。
「……二人が再会したと聞いて良かった。ヴァルドーさん、ハナエさんが死んでからずっと落ち込んでいる感じだったから。手伝いに来ても追い返される事が多かったし。心配してたけど、本当に良かった」
 クラーナは生前のヴァルドーを思い出し、ほっとしていた。ヴァルドーは妻の死後、寂しさのあまり心配して来たクラーナを追い返したりしていたのだが、クラーナの方は気にする事なくこまめに様子を見に来たのだ。
「ハナエさんらしいな。死んでからも見守っていたなんて。何やかんやで仲が良いから」
 オランドもウルバス夫妻を思い出していた。
「おばあちゃんとおじいちゃん来るの?」
 ウルバス夫妻に孫のように可愛がられていたミエットは両親を見上げながら訊ねていた。
「来るよ」
 クラーナがにこにこと答えた。
 知人の所在確認は出来た。残る仕事はここの変死伝説について住人から情報を集めるだけ。
「それで他の者達にも事情を聞きたいのだが」
 甚五郎が仕事を切り出す。出来れば手伝ってくれないかと。自分達に向ける周囲の目は未だに警戒色が強いので。
「……それなら」
 クラーナはこくりとうなずき、周囲の仲間に甚五郎達は信用できる人だと言って呼び集めた。
「これはすぐに終わりそうじゃな」
「良かったですね」
 羽純とホリイは予想以上に楽な仕事に満足そうだった。
 甚五郎達はせっせと情報を集めた。