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リアクション
第六章 頭を元に戻そう!
ヴァイシャリー、街。
「……情報を手に入れるのも簡単ではありませんわね。次は近くのゴンドラ乗り場ですわ」
アデリーヌは少し疲れたように言った。移動は楽だが、普通の相手と違って聞き込みにも多少時間がかかる相手も少なくない。
「そうだね。もしかしたらそこにいるかもしれない。ゴンドラの中に忘れたとか」
さゆみは次の探し場所について言った。
近くの賑やかなゴンドラ乗り場に到着し、聞き込みと捜索を開始。
そして収穫は、
「……泊めてあるゴンドラにはいなかったですわね」
「……周辺にいたのはただのお喋りだったし」
芳しいものではなかった。ゴンドラの中を捜したアデリーヌは発見出来ず、近くでゴンドラを眺めていた幽霊へ聞き込みをしたさゆみは幽霊になっての楽しみを長々と聞かされたのだ。
「別の場所を捜索している人と合流してみようか。何か分かるかもしれない」
「そうですわね」
さゆみは他の捜索者から情報を得る事を考えた。賛成するアデリーヌを連れ、近くにいる捜索者、弾達の所へ向かった。
「……弾さん、捜せる所はほとんど捜しましたけど」
「うん、見つからないね」
弾とノエルは周囲を見渡しながら言った。幽霊達への聞き込み、呼びかけ、隅々の捜索、とにかく時間が掛かるばかり。
「どうしましょうか」
「……そうだね。捜しているのが頭で足が無いだけに足取りを追うのは難しいという事かな。あれは、ノエル、場所を変えよう」
これからの事を聞くノエルに弾はヴァルドーの頭を考えながら言葉をかけた。まさに弾の言葉通りの状況。
ふと弾が何かに気付き、ノエルに場所を変えるように指示をした。
弾達が人影の無い場所に移動した所で弾が姿を見せると共に何かが姿を現した。
「急にごめんね。この姿で通行人を驚かせる訳にはいかないから」
さゆみが青白い姿を見せた。アデリーヌも続いて姿を現した。
「……そういう事だったんですね。何か有力な情報がありましたか」
ノエルは弾が移動を促した訳に納得した。
「捜索はどう?」
「……こちらは収穫無しですわ。移動は簡単ですけど、聞き込みも簡単にいかない事ですし、時間ばかりが過ぎていく感じですわ」
さゆみが捜索状況を訊ね、アデリーヌは自分達の成果を伝えた。
「……そう、だね。僕も同じ。黙ったまま立っているだけの人とか」
弾は相手が年上の女性のためか少し緊張気味に答えた。
「生きている人で夫婦の姿が見えていた人もいましたけど、頭は無くて……あら」
ノエルの報告の最中、連絡が入った。
急いで確認をするノエル。相手はヒントを手にした舞花からだった。
「……はい。分かりました。私達もすぐに駆けつけます」
「何だったの?」
さゆみは話し終えたノエルに内容を訊ねた。
「……可能性がある場所が分かりました」
そう言ってノエルは舞花からの連絡内容を皆に話した。
「……水路、か。水路の中にあるかもしれないという事かな」
目的地を繰り返す弾。
「そうですわね。そうなると霊体の方が便利ですわね」
とアデリーヌ。霊体であれば、水中で困る事は何も無い。
「便利でも人手はいるはずだから急ごう」
さゆみはアデリーヌにうなずいて皆を促し、目的地へ。
人通りの少ない静かなゴンドラ乗り場。
エースとエオリアが真っ先に到着していた。
「……ここですね。ヒントも水路という事でしたら。聞き込みをしてみますね」
エオリアはベンチに体を置いてから霊体となり聞き込みを始めた。
「その間、体を見張ってるよ」
エースは残ってエオリアの肉体の見張りを始めた。
「おー、見たぞ。俺が見た時はよぉ、頭が付いてたぜ! まぁ、どこに落としたかは分からねぇよ。一度見かけた後、俺別の所をふらりとしてから戻って来たからよぉ」
陽気な青年。
「……はぁ、あたしが見た時は頭なんか無かったわよ。いいわよねぇ、あの夫婦。仲が良さそうで……恋人ともう一度乗りたかったなぁ、何であたしだけ……はぁ、結局……不幸せのままなんて……あぁ……どうなったかは知らない……あたしが見たのはそれだけ」
不幸せな女性。
「……ここを捜してみる価値はありますよ」
聞き込みを終えたエオリアは実体に戻ってから聞き込み内容をエースに話した。
「どこに落ちたから分からないなら人手を増やした方がいいかもしれないね」
エースは探しがいのある水路を見ながら言った。二人ではありまりにも時間がかかるのは明か。
「……ちょうど、人手が来ましたよ」
ふとその時、エオリアが少しの足音と多くの声を聞いた。
やって来た霊体達は次々と姿を現して挨拶。
まずはヒスミを連れた陽一と舞花が登場。
「ほら、真面目に手伝うんだ」
陽一は渋い顔をしているヒスミに言った。
「えー、広いじゃん。無理だろ」
ヒスミは広い水路を見るなり明らかに嫌そうな声を上げた。
「大丈夫です。これだけいればすぐに解決しますよ」
フレンディスはぐっと握り拳を作りながらヒスミに言った。
「……そりゃ、そうだけど……何か」
フレンディスの善良な言葉にヒスミは言葉を濁した。
「……協力出来ない、と」
濁した言葉の先を代わりに口にする孝高。悪戯小僧が考えている事はお見通しだ。
「い、いやそんな事言ってねぇじゃん。ただ、大変そうだって」
ヒスミは身の危険を感じて慌てて否定する。この慌てぶりから悪い事を考えていた事は確か。
「……それに乗じて逃亡しようなど考えるなよ。もしそんな事をすれば」
『威圧』でベルクがヒスミにとどめを刺した。再び脅しで『死龍魂杖』を見せる。
「……封印……サンドバック……」
ヒスミはベルクと孝高を虚ろな目で見てからぼそりとつぶやいた。
「これだけ広いと呼びかけと捜すを分担した方が効率が良いだろ」
又兵衛が今の状況を見て霊体、実体の役割を提案する。
「そうですね。人に聞かれたら人捜しをしていると言えばいいですね。間違いではありませんし」
実体の舞花は又兵衛の提案に賛成し、さっそく水面に向かって呼びかけを始めた。
「我も手伝うのだ」
と薫。舞花と同じように呼びかける。
「……人に怪しまれる前に早く見つけないとな」
孝高は呼びかける薫を見てから自分も開始した。人捜しと思う者もいれば、水路に向かって呼びかける変な人と思う人もいるはずだ。薫がそう思われる前にと孝高は急いだ。