|
|
リアクション
「さて、探しに行こうか」
陽一はヒスミを伴って水の中を探し始めた。水路のため体が沈むほどの水位は無いので少し顔を突っ込むぐらいで水中確認は出来る。
「ぴきゅうぴきゅ(捜すのだ)」
ピカは勇んで水中捜索を開始。
「マスター、捜して来ます!」
「ご主人様、この僕が見つけるので見ていて下さい。あの下等毛玉には負けません」
『捜索』を持つポチの助とフレンディスは水の中を確認し、一切の見落としが無い。当然、ポチの助はフレンディスの先頭で捜索している。
「フレイ、気を付けろよ」
ベルクははらはらと心配していた。
「大丈夫ですよ!」
フレンディスはベルクの心配も何のその元気に捜索をする。
捜索を開始した者達は、完全に姿を消した。静かと言えども時々人が来てはゴンドラの乗り降りをするので。
「……この子にも手伝って貰おうか」
エースはネコにも協力を頼む事にした。ネコには人には見えないものが見えたり気配を感じたりする事が出来るというので何か役に立つのではないかと。実体のエースとエオリアはネコと共に捜索開始。
「ヴァルドーさん! ヴァルドーさん!」
呼びかける実体組。
捜索する霊体組。
「見つからないのだ」
「……心細い思いをしているはずだと思うんだけど」
「呼ばれて恥ずかしいとか警戒とかしているんじゃないのか」
さゆみに答えながら又兵衛は前方で陽一の監視付きでドッペルゴーストと一緒に捜索しているヒスミを見ていた。
「……こんな所に本当にいるのかー? 水ポチャって有り得ないだろ」
捜すのが嫌になって立ち尽くすヒスミは文句を垂れる。
「怖い思いをしたくなかったら文句を言わずさっさと捜すんだよ」
陽一が諭すように言うが、ヒスミはきょろりと周囲を見渡し、
「……だってなぁ」
捜索によって自分への監視は陽一だけとなっている状態を確認する。今なら逃亡出来るかなと。四体のドッペルゴーストもヒスミの近くで捜索に行っているのだ。
「……図太いな」
又兵衛は懲りないヒスミに怖い思いをさせ驚かせてやろうと思い始めた。先ほどの恐怖効果が薄れているようなのでここで継ぎ足しをと。
そして、
「……」
又兵衛はヒスミの見張りをする陽一に目で合図をした。
「……」
陽一は静かにうなずきつつ少しヒスミから離れた。ドッペルゴースト達も側を離れるが、ヒスミは全く気付いていない。
ヒスミの突然の悲鳴。
「ひゃぁっ、何かここにいるぞ!? 悪い霊か!! 溺れる!!」
いきなり足を引っ張られ、水に引き込まれ大慌て。自分が一瞬霊体である事を忘れている。
「溺れるって、おまえ、今霊体だろう」
そう言いつつ又兵衛が下からにゅっと出て来た。
「おわっ!! な、何すんだよ!!」
ヒスミは又兵衛の登場に驚き、後ろに飛び去った。
「……さぼり防止だ」
又兵衛はさらりと言った。ついでに驚かす悪戯もしたかったのだ。
「……さぼるつもりなんかないぞ!」
ヒスミは必死に否定する。すればするほど焦っているのが分かる。
「一休みをしたところで捜索に戻るんだよ」
陽一がやんわりと仕事に戻るよう促す。
「……分かったよ」
ヒスミは再び捜索に戻った。
捜索開始してしばらく後。
「……なかなか見つからないね」
「そうですね」
ネコを先頭に捜索中のエースとエオリアはなかなか足を止めないネコにため息をついていた。
しかし、その後すぐにネコは二人の希望通り足を止め、水面に向かって鳴き始めた。
「ようやく見つけたかもしれないよ」
エースはネコが鳴いた水面を確認していた。霊体ではないので見えはしないが、いるような気はする。
「エースはここにいて下さい。知らせて来ます」
エオリアは急いで他の捜索者に知らせに行った。
その後、
「僕はヴァルドーさんの体を連れて来ますね」
エオリアはクッキーを少量食べ、霊体化して会場へと飛んで行った。
しばらくしてヴァルドーを連れたエオリアが戻って来た。ハナエも一緒に連れて来ようかと思ったが、お喋りを楽しんでいたため諦めたのだ。
エオリアが会場へ行っている間、ネコが鳴いた周辺を捜索。
そして、
「見つけたよ」
「ご主人様!」
「ぴきゅう(見つけたのだ)」
さゆみとポチの助とピカが同時に声を上げた。
「……あの、大丈夫でしょうか」
駆けつけたフレンディスが心配そうに頭だけのヴァルドーに無事を聞く。
「……これが大丈夫に見えるか」
ヴァルドーは素っ気なくフレンディスに答えた。
「……確かに頭だけだしな」
ベルクがフレンディスのやり取りを見てぽつり。
「連れて来ましたよ」
タイミング良くヴァルドーの体を連れたエオリアが登場。
ここで寂しいゴンドラ乗り場に皆、姿を現す。
「確かに大丈夫ではありませんわね。少し失礼しますわ」
アデリーヌはそっと頭を持ち、細心の注意を払って元の位置へ。
「……大丈夫ですか? 体との不都合はありませんか?」
改めてアデリーヌが無事を確認する。
ヴァルドーは頭を上下左右に動かした後、
「……問題無い」
簡潔に答えた。
「私達が呼びかけていたのは聞こえていたと思うのですが」
舞花が訊ねた。頭一つでも話せたと言う事は耳は聞こえるはず。これだけ大勢で呼んでいたのに返事一つ無かった事が舞花は気になっていた。
「……聞こえていたが、見知らぬ声だったので返事をしなかった」
ヴァルドーは随分警戒をしていたようだ。頭だけになった事で心細くなり、救いの手も恐怖に思えたのだろう。
「僕達はハナエさんに頼まれて捜していたんですよ」
エオリアが簡単に事情を説明した。
「……あいつが」
ヴァルドーはハナエの名前を聞くなり言葉を濁らせる。妻に心配させた事を知ったからだ。
「とても心配していたよ。頭も戻ってこれで安心させられるし、また見つめ合えるね」
エースがハナエの様子をヴァルドーに伝えた。
「……どうせ私の愚痴を言っていたんだろ」
ヴァルドーが素直でない事を言い出した。
「生きてる時は傘とか忘れて自分がいないと何も出来ないとか言ってたな」
空気を読まないヒスミはあっさりハナエの発言そのままヴァルドーに伝える。
「……確かに愚痴は言ってはいましたけど、仲が良い事が感じられてとても幸せそうでしたわ」
アデリーヌが余計な事を口走るヒスミのフォローをする。
「……頭部の事はやはり事故の最中で」
次いで陽一が緩い頭部について聞いた。ヒスミが余計な事を口走らないように。
「……かもしれぬ……これを忘れてしばらく後に少しだけだが思い出した」
ヴァルドーは間を置きながら陽一に答えた。頭部が落ちてしばらく後に忘れていた自身の死について思い出したのだ。似た状況に陥ったからかもしれない。
「……火事か爆発か何かに巻き込まれ、身動きが取れない状態になって意識を失う前に上から物が落ちて来るのが見えた。その中に重量のあるものか刃物があったんだろう。記憶があるのはそこまでだ。それからは気絶をしてたからな。その間にこちら側に行ったんだろう」
ヴァルドーは高低差の無い声で思い出した内容を語った。ただ気絶のため完全な記憶とは言えないが。
「……冷静だな。落とすのはいつもの事なのか?」
ベルクが気になった事を訊ねた。ヴァルドーの話を聞く限り、これまでにも忘れた事があってもおかしくないと思ったのだ。
「初めてだ」
ヴァルドーは即答した。
「それでハナエさんに会ったのはその後すぐですか」
さゆみがハナエとの再会について聞く。
「…………すぐ側にいて今度は体を忘れたのかとうるさかったな」
かなりの間を置いてヴァルドーは答えた。間はその時の事を思い出しての事。
「すぐ側にですか。とても悲しんだのでは……」
アデリーヌがハナエの胸中を想像してか少し悲しそうな顔をした。自分の目の前で大切な人が命尽きようとしているのに何も出来ない、どれほど苦しかっただろうか、アデリーヌは自身とさゆみに置き換えて余計に悲しくなった。
「……アデリーヌ」
さゆみはアデリーヌの胸中を察し、心配で優しく声をかけた。
「……さゆみ、大丈夫ですわ。どうですか?」
アデリーヌはさゆみに平気だと笑顔で答えてから、ヴァルドーに問いかけた。
「……」
ヴァルドーは答えるのが気恥ずかしいのか黙っている。ハナエだけでなく妻に対する自分の気持ちも口にしてしまいそうだったから。
「……今は一緒に旅行をしているんですね」
「……あいつが行きたいと年甲斐もなく駄々をこねたからだ」
旅行について弾が訊ねると不器用なヴァルドーの返事が返って来た。弾は思わず笑んだ。文句を言いつつもハナエを大事に思っている事が分かる。でなければ旅行に付き合ったりはしないから。
「……話はもういいだろう。早く案内してくれ」
話すのが嫌になったヴァルドーが妻の待つ会場への案内を要求した。
それだけではなく、
「……世話を掛けた、感謝する」
ヴァルドーは軽く頭を下げ、彼なりに丁寧に礼を言った。
ヴァルドーが頭を上げてから
「はい、行きましょう」
弾は案内のため、先頭へ。
「ハナエさんが待っています」
ノエルがハナエの事を口にするとヴァルドーは照れ隠しか沈黙。その事はノエルには分かっていた。
とにもかくにも捜索者達はヴァルドーを連れてハナエが待つ会場へ向かった。
ヴァルドーと捜索者達が去った後、エース達はまだ現場に残っていた。
「……これでヴァルドーさんの探し物は終わったから、少し古城の様子でも見て来ようかな」
エースはもう一つの心配事の方に目を向けた。
「会場には戻らないんですか?」
「その時間も惜しいから後は頼むよ。世話を忘れていなればいいんだけど」
答えを知りながら訊ねるエオリアにエースは即答して植物の様子見のため大量にクッキーを食べて古城に向かった。
「……長くなりそうですね」
エオリアはベンチに座って隣にいるエースの肉体を見てため息をついていた。