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リアクション
モンスターにも、原始的な戦略能力はあるらしい。
巣から引き離された雑魚……兵隊は、敵、つまり討伐隊の中心を潰す為の攻勢に行動を切り替えていた。
それをエヴァルト率いるA班が止めた。
「女王」を倒すまで、あえて膠着状態を続ける、肉体的にも精神的にも過酷な役目だ。
「ふん、俺の筋肉をなめるなよ?」
「ほほう、わしの気合いと張り合うか?」
助っ人に来た夜刀神甚五郎が、不敵に笑ってエヴァルトを見た。
「おいおい、気合いたっぷりだぜ、俺の筋肉も!」
「それを言うなら、わしの気合いにも筋肉が……」
「……なんの話をしてるのでしょうか、あのお二人は」
妙に楽しそうに言い合いを始めた二人を背後で眺めて、ブリジット・コイルが草薙羽純に訊いた。
羽純は訳知り顔でふっと笑う。
「戦いの気分を盛り上げておるのじゃ。さて、ブリジット……今まで我慢した分、派手にやろうぞ!」
「……了解」
「はーい、援護しますよ?」
ホリイ・パワーズののんびりした返事とともに、戦端は開かれた。
この頃、本部キャンプでちょっとしたやりとりがあった。
つまり……くじらである。
「あのさ、彩羽」
ふよふよ浮いている彩羽のくじらは、アイシァのちょうどいいマスコットになったらしい。
まだ不安そうな顔で黙っているウィニカの横で、アイシァとアイ・シャハルは二頭のくじらをつついて遊んでいた。
「なにか?」
「……あれって、彩羽のギフト、だよね?」
「え、そうだけど……」
その辺りで、彩羽も気がついた。
イレイザー・スポーンを相手にするならギフトでの攻撃が有効、と持参したのだ。
流石に、この状況で【ホエールアヴァターラ・バズーカ】の凶悪な破壊力を発揮すれば、「巣」もろとも目的「機晶石」も失われかねない。
だが、陽動としてなら。
そして……。
つい、意識が、目の前の雑魚との戦いに目を奪われていたのだろう。
ギフトによる多段攻撃で「女王」を「巣」から強引に誘い出すことに成功したのは、それから一時間ほど後のことだ。
討伐隊の中でギフトを用意していたものは少なくなかった。きつい膠着戦を強いられていたチームも、ようやく力を出し切ることが可能になり。
そして、無防備になった「女王」を内勁を応用した内部破壊の技によって攻撃することで、とても破壊が不可能に見えた緋色の岩のような装甲に阻まれることなく、また、増殖の心配も無しにダメージを与えることが可能になった。
それは気の遠くなるような、地味な戦いだったが。
爆発もなく、粉砕もなく。
モンスターの悲鳴すらなく。
音もなく「女王」の巨体が地面に崩れ落ち、動かなくなったのは、辺りはすっかり夜の帳に包まれる頃だった。
◇ ◇ ◇
女王個体の撃破で、戦況は劇的に変化した。
統制を失ったモンスターの行動はバラバラになり、容易く各個撃破が可能となった。
女王を通して供給されていた石の力も断たれ、あれほど頑丈だった皮膚の装甲も、嘘のように脆い。
何より、厄介だった分裂による増殖が完全に止まっていた。
戦闘の中心が移動し、忘れられたように静まり返った「巣」に、技術者チームが入ったのは、それよりも少し前だ。
少しでも急ぐべきだというのは、ケヴィン、ファニ、飛都の一致した意見だった。
そして、ウィニカを一緒に連れて来たのは、ケヴィンの提案だ。
「貴様も技術者なら、自ら採取の場にも立ち会いたかろう」
目つきの悪い白衣の兄ちゃんに睨みつけられ、何を言われるかと身構えていたウィニカだったが、もちろんすぐに頷いた。
「……あ、それなら」
飛都がふいに言って、ポケットを探り出す。
そして、やけに場違いなものを引っ張り出した。
「……あの、これ?」
さすがにウィニカも戸惑って眉を顰めたが、飛都は真面目くさった顔で答えた。
「アル君人形ストラップだ」
ケヴィンは思わずまじまじと飛都の顔を見たが、気にも留めずに飛都は続けた。
「持ってろ。お宝を引き寄せるご利益付きだぜ」
「機晶石」の採取が完了した頃には、そこはもう「巣」と呼べる空間ではなくなっていた。
女王を失い、力の源だった石も、彼らによって大きく抉り取られた。
「サンプルは十分取れたし、引き上げましょうか」
「……あ、ちょっと」
ファニの言葉を、飛都が遮る。
見ると、サンプルを抉り取った部分に、調査用のニードルをいくつも打ち込んでいた。
「次、いつここまで来られるかわからんからな。鉱脈の追跡調査をしたいんだ」
ウィニカが、初めて気がついたように「そっか」と小さくつぶやく。飛都はそれを、どこか微笑ましく目の端で見た。
「さてと、帰ろーか」
セレンフィリティ・シャーレットがメタリックの水着を汚した埃を祓って言った。
戦闘も、ほとんどが沈静化していた。
全部を倒し尽くした訳ではないが、彼らを完全に殲滅することが作戦の目的ではない筈だ。
「いいの? まだ奥に少し残ってる筈だけど」
「弾と体力の無駄よ。どっちにせよ……巣を失った兵隊は、ほっといても長くは生きられないんだから」
セレアナにそう言って、セレンは大きく伸びをした。
「残酷なる自然の摂理、だわね」
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