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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

リアクション

「……何か違和感を感じるような白い小鳥を見かけませんでしたか?」
 『捜索』を持つ舞花は小鳥に偽装した契約書の情報得るため聞き込みをしていた。
「小鳥? そう言えばいつもより多く飛んでいる気がしますね」
 舞花に訊ねられた男性は空を見上げながら小首を傾げた。
「そうですか。ありがとうございます」
 舞花にとってそれだけで十分だ。住人がおかしいと感じるのなら異変は間違い無くある。
 舞花は礼を言って小型飛空挺に乗って男性が気にした方向へと飛んだ。

 街、上空。

 双眼鏡『NOZOKI』を使い、空を自由に飛ぶ小鳥達を確認していく。
「……おそらくあれですね。魔法の残滓が感じられます」
 『博識』と『秘宝の知識』で舞花は仲間達と仲良く飛んでいる一羽の小鳥から魔法の気配を感じ取った。
「……このままでは他の小鳥達を傷付けてしまいますね」
 舞花はそう言葉を洩らしながらも捕縛の手は止めない。
 まず吉兆の鷹で標的の小鳥だけを狙わせ、群れから引き離し、追い込んだところでサイコネットで鮮やかに捕縛した。
「……契約書を元に戻すだけですね。あれは」
 舞花は捕縛した小鳥をもう一度確認した後、消火活動をしている酒杜 陽一(さかもり・よういち)を発見した。
 舞花は消火の案配を確認しようと小鳥を抱えて地上へ降りた。
「消火活動はどうですか?」
「……順調だ。しばらくすればすぐに終了するだろう。そちらは?」
 舞花に訊ねられた陽一は答え、逆に聞き返した。
「今、捕縛して契約書に戻そうと考えているところです」
 舞花は抱えている小鳥を見せながら答えた。
「契約書に戻すのを手伝おうか」
「お願いします」
 舞花は陽一の申し出を受けた。陽一は『氷術』で小鳥の体温を奪い続け、紙片に戻した。舞花が紙片の内容を知らせてから陽一の『氷術』で凍らせ木っ端微塵に粉砕した。

「しかし、火事とは酷い事をする。人の生活を壊し、おそらくこの街のどこかで騒ぎを楽しんでいる」
 舞花を手伝った後、陽一は周囲を一瞥してから言った。
「私もそう思います。犯人の方はそうだと思いますが、少年の方は分かりませんね。もしかしたら」
 舞花も同じだった。気になるのはグィネヴィアに接触した少年の方。時々、住人に聞いて回るが、見知らぬ少年だと答える者がほとんど。つまりは他の国の住人でここを離れる者という事。
「逃げてこの街にはいない可能性もある、と」
 陽一は舞花が言おうとしている事を言葉にした。
「えぇ」
「しかし、この騒ぎだ。早々出る事は出来ないだろうし、捜索している者がいる。間に合うはずだ」
 陽一はうなずく舞花に逃げるには容易ではない人混みに頼りになる捜索者がいれば、必ず少年が街を出る前に出会えるはずだと踏んでいる。
「そうですね。それでは私は戻りますね」
 話を終えた舞花は仕事を思い出し、小鳥捜索へ戻った。
「あぁ」
 舞花を見送った陽一も自分の仕事に戻った。

 セリーナと別れて、契約書を追う木枯と稲穂。途中見失うも二人の『超感覚』ですぐに発見出来た。火事のため鼻はあまり利か無いため目と耳を頼りにして見つけ出したのだ。

 ようやく発見。小鳥は一休みとばかりに木の枝に止まっていた。
「木枯さん、あそこです」
「……一休みしているねぇ」
 稲穂が真っ先に発見し、木枯は小鳥の様子を観察。
 そして一休みを終えた小鳥は飛び立とうとする。
「……飛び立ちますね。狩りですので容赦はしませんよ」
 と稲穂は『先制攻撃』で小鳥が飛び立つ前に秘刀【バラン】を振るい仕留めて紙片に戻し、他の仲間達に文章を報告した後、木枯がぷちろだアヴァターラ・ライターをライター的なものに変形させ、消し炭にした。
「行きましょう、木枯さん。まだまだ飛んでいるはずです」
「そうだねぇ」
 稲穂と木枯は小鳥狩りを続けた。『捜索』を持つ稲穂のおかげで順調な狩りとなっていた。

「皆に感謝なんてグィネヴィアは本当に優しくて愛らしい人だよね。またみんなに迷惑を掛けたとか思ってしまうかも」
 ルカルカはグィネヴィアの気持ちが嬉しかったが、気掛かりでもあった。この騒ぎがグィネヴィアの心を暗くしてしまうのではと。
「……急ぐぞ。迷惑を掛けたと思う事さえが出来ない状態になるかもしれない。普通の契約書ではなく魔法だからな」
 とダリルの冷静な言葉で話は小鳥に偽装した契約書に移った。
「そうだね。それで捕まえた小鳥は、偽装を解かずに焼却処分しない方がいいんだよね」
「一度契約書に戻してから処分をする。確実に破棄された事と枚数確認のためだ。契約書は魔法の上、相手は悪趣味だ。何か仕込まれていてもおかしくない」
「そうだよね。小鳥に偽装するなんてまともな人がやる事じゃない」
 ルカルカは見えぬ犯人に怒っていた。
「そして確認だけではなく、破棄する際に溢れると思われる魔力光を追う。呪いは術者に戻る」
「破棄をすると言う事は打ち破る事、破呪だね。犯人か犯人の本拠地の特定が出来るね」
 ダリルとルカルカは契約書破棄から犯人追跡についても話していた。
「あぁ。しかし、情報収集を担当する者がいる。万が一にだ」
 とダリル。自分達はあくまで契約書破棄が仕事だとする。それ以外はあくまで万が一の場合だ。
「そうだね。じゃ、早く始めよう」
 ルカルカは空飛ぶ箒にまたがり『ホークアイ』と双眼鏡『NOZOKI』を使って上空から小鳥探しをする。『行動予測』があるため逃す事は無かった。
 ダリルはスバロウアヴァターラ・ガンをスズメにスワロウアヴァターラ・ガンをツバメに変形させ小鳥を追わせ、嵐と雷光のフラワシで包み気絶させていく。
 小鳥は捕獲次第ルカルカの眠りの針で眠らせダリルの持つリュックサックに入れていった。

「……こんな事をして犯人はどういうつもりなのかな」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はイングリットから聞いた事情と土気色をしたグィネヴィアの姿を思い出していた。彼女の純粋な心を利用し、貶めた事。怒らずにはいられない。
「……さゆみ」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はそんなさゆみの横顔を見つめていた。グィネヴィアの事だけでなく最愛の人にそんな顔をさせる犯人が許せない。
「……確か、小鳥の状態で焼却はせず、確実に紙に戻してから破棄だったよね。枚数と仕掛けられている罠を警戒して。でも……」
 さゆみは話を小鳥に偽装した契約書に移した。少し思い悩んだ顔で。
「紙に戻すには小鳥の命を奪うしかありませんわね。その際に偽装の魔法が解けるそうですから」
 アデリーヌはさゆみが思い悩む理由を言葉にした。アデリーヌにとって小鳥の扱いよりもそれによって心痛めるさゆみの事の方が何よりも重要なのだ。
「私は命を奪う前に紙の姿に戻したいよ。本当の小鳥じゃないと言っても小鳥は小鳥だし」
「……そうですわね。さゆみ、あの小鳥怪しいですわ」
 さゆみにうなずいた後、アデリーヌは木で休んでいる小鳥から魔法の気配を感じ取った。アデリーヌは『幸せの歌』で小鳥の警戒心を解き、自分の指に止まらせ、近くの店で調達した鳥かごに入れた。
「……無事に捕まえる事が出来たね。後は誰かに相談してみようか。もしかしたら命を奪わずに済む方法が何かあるかもしれない」
 さゆみは鳥かごの中の小鳥を見ながらアデリーヌに次の行動を相談した。
「そうですわ。時間は少ないですけど他の方がいますから何とかなるはずですわ。さゆみ、急ぎましょう」
「えぇ」
 アデリーヌの言葉に励まされ、さゆみは他の小鳥捕獲者を捜す事にした。捜すついでに小鳥を捕まえるのも忘れない。

「林檎も元に戻ったし、グィネヴィアさんも目を覚ましたから良かったね。でも騙される方も悪いとか不用意に人を信じるのは良くないとか言うけど、騙した人が一番悪いよね。グィネヴィアさんは疑う事を知らないところは少し危ないけど素敵だよね。騙すより信じて裏切られる方がいい」
「私もそう思います。誰にでも心を開けるグィネヴィアさんは私も素敵に思います。でもイングリットさんの話だと騙した男の子は悪い子のようには見えなかったと」
 ノエルは弾の言葉にとても共感していた。
 今、弾とノエルは林檎を解毒し、グィネヴィアの目覚めを確認してから小鳥捕獲のため通りを歩いていた。
「そうだね。そこはきっとみんなが何とかしてくれるよ。僕達は僕達に出来る事をしよう」
「そうですね」
 本格的な捜索のため弾は小型飛空挺、ノエルは空飛ぶ箒で空からの捜索を開始した。

 空。

「……火事だ。酷いね」
 弾は眼下に広がる火事に蝕まれている街に心を痛めていた。
「怪我人もきっと多いですよね」
 ノエルも弾と同じように心を痛めていた。
「そうだね。ノエル、小鳥だ」
 『捜索』を持つ弾は目の端に他の小鳥達と飛ぶ契約書を発見した。
「小鳥さんから魔法を感じますね。まずは逃げないように……」
 ノエルも小鳥に視線を向け、ただならぬ気配を感じた。間違い無く魔法。
 ノエルは『白鳩の群れ』で他の小鳥や標的を不用意に傷付けないように標的である小鳥の周囲を取り囲んでから静かに近付き『浄化の札』を貼った。
 途端、紙片に戻りひらりと舞い落ちる。
「成功だ。ん?」
 弾がすかさずキャッチした時、携帯電話が鳴り始めた。
 急いで出ながら地上に視線を向けた。
 ノエルは弾の視線の先を追った。
「あれは……」
 視線の先にいたのは弾の話し相手のさゆみと鳥かごを持ったアデリーヌだった。

 さゆみとの話が終わった弾は
「ノエル、地上に降りるよ」
 と隣にいたノエルに言った。
「はい」
 ノエルはうなずき、弾と共に地上に降りた。