イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

リアクション公開中!

【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

リアクション

 地上。

「……あ、あの小鳥を紙に戻すのを手伝って欲しいと」
 弾は年上の女性達、さゆみ達に緊張しながら連絡内容をもう一度確認した。
「捕まえたんだけど、命を奪うのはあまりにも可哀想で。頭では契約書だと分かってるんだけど」
 さゆみは協力理由を話した。鳥かごには三羽の小鳥が可愛く鳴いている。
「……空で小鳥を紙に戻す様子を見かけたので」
 とアデリーヌ。小鳥と共に小鳥の命を奪わずに済む方法を探していた時にアデリーヌが空で作業をする弾達を見つけたのだ。
「任せて下さい」
 ノエルは『浄化の札』で小鳥達を三枚の紙片に戻した。
「ありがとう」
 さゆみは弾達に礼を言った。
「助かりましたわ。良かったですわね、さゆみ」
 アデリーヌは礼を言った。さゆみの思い悩む姿を見ずに済んだから。
「そうね。本当に良かった」
 さゆみは笑みを浮かべてアデリーヌに答えた。
「一緒に探しませんか。弾さん、いいですよね?」
 さゆみ達のやり取りを見ていたノエルは力になろうと協力を申し出た。きっと自分と同じ気持ちだと知りながらも弾に打診した。
「当然だよ」
 弾は力強くうなずき、快諾した。
「ありがとう」
「……お願いしますわ」
 さゆみとアデリーヌ達は弾達と一緒に活動する事にした。
「契約書の内容を知らせておきますね」
 ノエルはそう言って他の仲間達に四枚の紙片の内容を伝えた。
「破棄は私がするね。やっぱり書かれた文章は聞いた物と違っていたけど」
 さゆみは『雷術』で悪意溢れる紙片を発火させて灰にした。
「……また見つけましたよ」
 破棄を確認し終わったノエルは別の小鳥を発見した。
 そして、弾達とさゆみ達は契約書破棄のため奮闘した。

「しかし、林檎を食べて永き眠りに就く……何処かで聞いた様な御伽噺だな」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)はグィネヴィアの眠っている姿を思い出していた。
「それ……」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はグロリアーナに何か言おうとした時、リースから連絡を受けた。

 話を終えたローザマリアは
「……グィネヴィアの目が覚めたみたい。具合は悪いみたいだけど、みんなと買い物に行ってるみたいよ」
 少しだけ安心の顔でグロリアーナに話の内容を伝えた。
「そうか。買い物とは問題無いのか」
 グロリアーナが土気色のグィネヴィアを思い出し、訊ねた。見るからに動くのは辛いと思われる状態だったはず。
「症状の進行を遅らせたりいろいろと助けてるみたいだから心配無いみたい。本当はゆっくりして欲しいけど」
 ローザマリアは自分の意見も混ぜながら答えた。
「妾もそう思うが、それがグィネヴィアにとって大事な事なのだろう」
 とグロリアーナもローザマリアと同じ気持ちだった。辛くても買い物をするという事はグィネヴィアにとって大事な事であり、自分達を大切に思っているという事。
「きっと今も私達に迷惑を掛けて申し訳ないとか思ってるはず。思う必要の無い事を」
 ローザマリアはグィネヴィアの性格から彼女の気持ちを言葉にした。そんな気持ちと死に至るかもしれない今の状況を解決したい。

 話に一息入れた時、
「……あの小鳥、何か普通じゃない。魔法の気配を感じるわね……それなら」
 ローザマリアは妙な小鳥を発見。会話をしている間も注意は怠っていなかったのだ。
 ローザマリアは二本のホークアヴァターラ・ソードを二羽の鷹に変形させ、狩りをさせた。時間は少ない中で小鳥に構っている余裕は無い。大事なのは一秒でも早くグィネヴィアを救う事。小鳥だと思わなければ痛む事は無く狩猟を生業とする鷹の本能に訴える事で可愛い小鳥も単なる鷹の餌。
 魔力を感じ取り契約書たる小鳥を狩る二羽の鷹を見て
「ほう、狩りか。狩りならば妾も生前、よく嗜んだものだ」
 グロリアーナもフェニックスアヴァターラ・ブレイドを不死鳥形態にし、狩りに参加させた。
「これなら自ら手を下してはいないし、狩猟なら貴族の嗜み。ヴァイシャリーには貴族も少なくないし、違和感は無いはず」
 飛び回る二羽の鷹を見上げながらローザマリア。
 狩らせては近くの炎へ投げ込んで行った。炎に焼かれ、偽装が解け紙片は溶ける。紙片の最後まで燃え去るまで確認。書かれた文字を確認するため鷹匠である自分達の近くで処理をした。

 淡々とした作業の途中、
「……凄い。小鳥を次々と」
 近くで小鳥を狩っていた弓使いのオデットが地上に降りて来た。
「鷹狩りをしているだけよ。あのコ達は、鳥が大好物だから。魔力の香りがする小鳥が、ね」
「そうだ。妾達の目の前に在るは狩りの獲物のみ」
 涼しい顔をするローザマリアとグロリアーナ。
「……目が覚めたと連絡が入って少しだけ安心したね」
 とオデットはリースからの連絡について話した。
「そうね。あとはグィネヴィアの元気を取り戻すだけ」
「妾達が役目を全うするだけだ」
 ローザマリアとグロリアーナは口々に言った。こうやって話している間も狩りは続いている。
「そうだね。それが今の私達が出来る事だよね。でもグィネヴィアだけじゃなくて騙した少年も何とかしたいね。きっと騙さなきゃいけない事情があったと思うから」
 オデットはグィネヴィアを騙した少年について話した。今頃、情報収集の最中だろう。
「そうね。早くその事情が知りたいところね」
「……どう考えてもただ事ではなそうだがな」
 ローザマリアはうなずき、グロリアーナは別の事件の予感を感じていた。
「……えぇ。あ、あれは……小鳥」
 オデットはローザマリア達に答えた後、頭上を行く小鳥達。いくつもの魔法の気配。

「契約書が偽装したものね」
「狩りに心血を注ぐとしよう」
 ローザマリアとグロリアーナはオデットに答えるなり狩りを再開。
「えぇ」
 オデットも弓使いに戻った。

 小鳥捕獲が順調に進んでいた時、
「……あれはヨッシュだ。しかも小鳥を持ってる」
 ルカルカは空から見知った顔を発見。何度か交流した事がある幼稚園の園児だ。動物変身騒ぎで熊になってチャンバラごっこをしていた少年だ。
「ヨッシュ!」
 ルカルカは近付きながら名前を呼んだ。ヨッシュは顔を上げてルカルカを迎えた。
「あ、姉ちゃん。どうしてこんな所にいるんだ」
 ヨッシュは地上に着地したルカルカに訊ねた。
「ちょっとお仕事で。ヨッシュは?」
 ルカルカはそう言ってヨッシュに聞き返した。子供に本当の事を言う必要は無い。何せ気持ちの良い話ではないので。
「父さんと妹と遊びに来たんだ。でも妹ばっかりで嫌になって」
 ヨッシュは口を尖らせながら事情を話した。遊びに来たのはいいが、父親が小さな妹ばかりを構うのが面白くなくて飛び出して来たのだ。
「それで一人飛び出して来たんだ。その小鳥……」
 ルカルカはヨッシュの話に付き合いながら魔法の気配をまとう小鳥へ話題を変えた。
「さっき、捕まえたんだ。こんなに真っ白で可愛いから見せたら喜ぶかなって」
 ヨッシュはルカルカが小鳥に興味を持った事を知って捕まえた経緯を話した。喜ぶのが誰なのかは言わずに。それでもルカルカには分かっていた。
「妹が?」
 ルカルカは優しく聞き返した。
「……うん」
 こくりとうなずいた。何かと言いながらも妹思いなお兄ちゃんらしい。
「ヨッシュ、その小鳥、ルカに譲ってくれないかな?」
 ルカルカは契約書が偽装した小鳥を手に入れるためヨッシュと交渉を始める。
「やだ」
 交渉決裂。ここで引き下がるわけにはいかない。代わりになるとっておきがルカルカにはある。
「じゃ、このチョコバーと交換。このチョコバー最高に美味しくてほっぺたが落ちちゃうよ。妹もきっと喜ぶよ♪」
 ルカルカはチョコバーを出してもう一度交渉を始める。
 ヨッシュはじっとチョコバーを見つめ、考え込む。
 そして、
「…………いいよ」
 交渉成立。
「ありがとう」
「じゃぁ」
 小鳥とチョコバーを交換。
 ヨッシュは家族の所へ急ごうとする。
「待って、ヨッシュ。火事が起きていて危ないからルカが送るよ」
「いらないって。もう赤ちゃんじゃないんだからな」
 街の状況を知るルカルカはヨッシュが一人で行くのを止めようとするが、振り切って行ってしまった。
「……一応、みんなに知らせておこう」
 放っておけないルカルカは他の仲間にヨッシュの事を伝えた。
 伝え終えたところでダリルが姿を見せた。
「あ、ダリル。はい」
 ルカルカは抱き抱えている小鳥を眠りの針で動きを止めてからダリルに渡した。
「あぁ。上手く交渉したな」
 ダリルは小鳥を受け取り、リュックサックの中へ。
「隠れて見てたんだ」
「……このリュックの中身に興味を持たれると面倒だからな」
 ダリルはルカルカの言葉にリュックサックを見せる事で答えた。子供は何でも興味を持ち、それに対しての行動力は凄いもの。もしリュックサックの中身に興味を持たれたらダリルの言葉通り面倒な事になるのは間違い無い。
「確かに。どうしてこんなに小鳥があるのって聞かれて悪い魔法がかかっているんだって言っても難しいよね」
 ルカルカはダリルの言葉を肯定した。いくら悪者と言っても通じるのは容易くないだろうと。そして、そんな説明をしている時間など無いと。
「姿が悪い。これが犯人の狙いだろう。犯人は俺達が小鳥に偽装しているとは思わないだろう、知っても可愛い姿に良心が痛んでなかなか手を出せないだろうと考えている。だが、俺は良心などとは無縁だ。どんな姿をしていようと何の意味も無い」
 ダリルは犯人の嫌らしい魂胆を見抜き、どこまでも冷静だった。
「適役だね」
 ルカルカは頼りになると明るい調子で言った。
 この後も小鳥捕獲を続けた。