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リアクション
闇の味は、おいしい!?
葦原明倫館に、高く積み上がった枯葉の山。楽しそうに火をつけたハイナが、集まったメンバーに言った。
「さっそく食材を放り込むでありんす!」
「ちょっと待ってください」
燃え盛る焚き火の前で、房姫が制した。彼女の手にはアルミホイルが握られている。
「食材は、この中に包んでもらいましょう」
「なるほど! 開けるまでわからない。何が入っているのかお楽しみ、というやつでありんすな!」
「そういうわけではないんですが」
苦笑いを浮かべながら、房姫は参加者へアルミホイルを配っていく。
「皆さん。すでにお伝えしているとおり、食材はなにを入れても構いません。ですが、自分で入れたものが当たる場合もございます。下手物を入れたければ、リスクを背負ってくださいね」
「印とかつけるのも、禁止でありんすよ!」
彼女の後ろで、ハイナが念を押していた。
全員の仕込みが終わり、ほどよい時間が過ぎた頃。
「一番手は、俺がもらおうか」
冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が焚き火のなかを探りはじめた。
「食えるものに当たれば良いが……。大好きなアイスが出てきたら嬉しいけどな」
「それでは、溶けてて味気ないであろう」
パートナーのつぶやきに突っ込んだのはメルキオテ・サイクス(めるきおて・さいくす)である。
メルキオテは舌なめずりをしながらつづけた。
「我の狙い目は、やはり高級食材だな! まさに当たったと感じられる一品! めったに食せぬ美味に、舌鼓を打つ事であろう」
そんなやりとりをしながら、永夜は包みをひとつ取り出した。アルミホイルをゆっくり開くと、出てきたのは、脂のたっぷり乗った肉。
高級肉パラミタ牛だった。
「よっしゃー! 肉だぜ!」
司狼・ラザワール(しろう・らざわーる)が雄叫びを上げ、肉にかぶりついた。
「うめー!」
パラミタ牛にがっついていく司狼。その隣では、猫舌のため氷術で冷まして食べる永夜が、肩をすくめながら言う。
「嬉しいのはわかるが。野菜も食べたらどうだ」
「お呼びじゃねーぜ!」
「なにやら、ナスらしきものもあった気がしたぞ」
永夜の言った“ナス”という単語に、司狼の表情が険しくなる。
「紫の悪魔なんざ、火の中に戻してやる! キャンプファイヤーの種にするからな!」
立ち上がって焚き火を指さす司狼のもとへ、朝霧 垂(あさぎり・しづり)が酒を片手に近づいて言った。
「どうだ、俺のパラミタ牛は。旨いだろう」
「ほう。おぬしが肉の持ち主か。なかなか良いセンスをしておる」
メルキオテに褒められ、垂もまんざらではないようだ。
「はっはっは。そうだろう。ヒレ、ロース、サーロイン、タン、ホルモン……何でも有りだ。思う存分みんなで楽しもうぜ!!」
「なら、わっちも呼ばれるでありんす」
そう言って割り込んできたのはハイナである。彼女はパラミタ牛を頬張りながら笑顔で言った。
「ふむ。これは美味でありんすね」
「ハイナよ。これで満足してもらっては困るぞ。我も良いものを持ってきたのでな」
にやりと笑うメルキオテに、ハイナは上機嫌で応えた。
「それは楽しみでありんす!」
「次は私の番ね」
二番手の仁科 姫月(にしな・ひめき)が焚き火の中を漁った。
「まったく。こんな行事に参加するなんて、何考えてるんだ」
彼女の背後では、成田 樹彦(なりた・たつひこ)がため息をついている。
「何を食わされるのか。わかったもんじゃないぞ」
「心配しないで。とっておきのご馳走、引き当てるんだから!」
ぼやく彼を尻目に、姫月は獲物を探りつづけた。
「あれ……地面に埋まってる……?」
ふいに、姫月の目つきが鋭くなった。埋められた食材。ここまで厳重ならば、お宝の可能性が高いのでは。
「これに決めたわ!」
姫月が勢い良く引っぱり、掘り出したものは――。
小麦粉にまみれた女の子だった。
「……なにこれ?」
アルミホイルを全身に巻きつけた女の子の正体は、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)。にやけた表情のまま、彼女は姫月に襲いかかった。
「私を食べてー!」
「きゃあ!」
姫月が腰を抜かす。どちらかと言うと、レオーナのほうが捕食者に見えた。
「えへへー。ネットで調べたら、お女子み焼きというのがあったの! 名前からして、女の子を使った素敵な料理よね!」
「えっ……。それって、「お好み焼き」なんじゃ……」
姫月の訂正は、レオーナに届かない。小麦粉にまみれた指を、姫月の口のなかへ押し込んでいる。
「遠慮なく食べて! これが真の『“手”料理』よ!」
「や……やめ……」
指を押し込まれ、あえぐ姫月。そんなパートナーを見つめながら、樹彦が小さく笑った。
「これがヤミ焼きか。なかなか面白いサプライズだな」
「ちょっと、樹彦! 何笑ってるのよ!」
彼女たちのやりとりを見ながら、ハイナもご満悦のようすだ。
「ふむ! 自ら食材になるとは、わっちも驚いた。あっぱれでありんす!」
「楽しそうだけど、ルカはもう少しまともな食べ物がいいなー」
三番手のルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、包みを選びながらつぶやいた。
「俺はあれでもいい。自ら“食べて”と言っているわけだしな」
パートナーのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、ゴクリと喉を鳴らす。彼の目つきは100%食欲で満たされていた。
「うーん。彼女のいう“食べて”は、ちょっと意味が違うかなぁ」
そう言いながらルカが取り出した包みには、ほくほくのアップルパイ。
「やったー。お菓子だ。おいしそう!」
たくさんのアップルパイを、幸せそうに食べるルカルカ。
「どれ、わっちも頂こう」
「そんなに食べたら太りますよ」
またしてもつまみ食いしようとするハイナを、房姫が止めた。だがハイナはルカルカを見ながら、けろりとした表情で応える。
「大丈夫でありんすよ。わっち達の場合、栄養がすべて胸にいくでありんす」
「まあ、大きくなりすぎるのも問題だけどね」
笑い合うハイナとルカルカ。ふたりの胸元を見ながら、房姫はしぼりだすように言った。
「……それは羨ましいことで」
彼女のため息を“許可”と受けとったハイナは、アップルパイにかぶりついていく。
「いやぁ。おいしいでありんすな、ルカ」
「うん。房姫も遠慮しないで食べなよ!」
ルカルカに笑顔で勧められ、房姫も思わず微笑みがこぼれる。
楽しそうな彼女たちとは反対に、カルキノスは不満そうだ。
「アップルパイじゃ物足りない。やはり、これを用意しといて正解だったな」
なにやらゴソゴソと動き出すカルキノス。不審な動きをしているが、アップルパイに夢中のルカルカたちは気づかずにいた。
「うふふ〜。どうですか〜。ワタシの特製アップルパイは〜」
と、そこへ現れたのは穏やかな口調の少女。ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)だった。
「あっ、ホリイ。すごくおいしいよ!」
「ルカさんに喜んでもらえて、光栄です〜」
「サクッとしたパイの生地に、リンゴの香り。ほんのりとした甘さが……甘……? ほえ?」
味のリポートをしていたルカルカだが、急に固まってしまう。
「か……辛ぁぁい!」
口元をおさえ、ルカルカはその場に倒れこんだ。仰向けになり足をバタバタさせている。
イタズラっぽい笑顔で、ホリイが言った。
「じつはひとつだけ、辛いものを混ぜておいたのです〜。からし、わさび、トウガラシなどのペーストにつけこんだんですよ〜」
「うぅ。ひどいよぉ……」
あまりの辛さに涙目になったルカルカだが。
徐々に、彼女の表情が晴れていく。
「あれ……。でもこれ、意外とおいしいかも……!」
ゆっくりと吟味するルカルカ。
「辛さと甘さが混ざり合って、すごくカオスな味だけど……。くせになりそう!」
特製激辛アップルパイの意外な高評価に、こんどはホリイが驚いた。しかし、料理を褒められいることに違いはない。
ホリイが嬉しそうに言う。
「実は、お口直しにプリンも用意したんです〜」
「わあ! これもおいしい! ホリイはお菓子作りが上手だね。ルカにも作り方教えてよ」
「それは、企業秘密です〜」
人差し指を立てて、にっこりと微笑むホリイ。
「……といいたいところですが〜。ルカルカさんには教えてあげます〜」
「やったー!」
そしてホリイによる、にぎやかな料理講座がはじまった。
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