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【ぷりかる】蘇るシボラ英雄伝説

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【ぷりかる】蘇るシボラ英雄伝説

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第二章 大英雄の墓

「さて、時間との勝負になりそうですね。だったら道を切り開きますよ」

 御凪 真人(みなぎ・まこと)のサンダーブラストが、通路いっぱいに広がったスケルトンをなぎ倒していく。
 此処はドニアザードの部族の村の地下……大英雄の墓と呼ばれる場所である。
 かなりの勢いで飛ばしている真人だが、それには当然理由があった。

「最終目的は「新たなる大英雄」ドニアザードを倒す事です。それなら、その前の戦闘で力を使い果たすのは下策ですよ」

 それが、真人が大英雄の墓に突入する前に言った言葉だった。
 それは当然だ。
 上空で舞うフェイターンを倒したような者と同じか、それに準じた力を持っているかもしれない相手と戦うのだ。
 消耗は少なければ少ないほど良い。
 だが、それが許されるほど過少な敵の戦力でもない。
 ならば、誰かが全力で戦うしかない。

「それに、長の手前なんかは相手も防御を固めていると考えるべきです。なら俺は最終戦までの道程で力を使うように計算して動きます。保険は残しますが、後の事は他の人に任せましょう」
「まあ、そうね。私もここは先生として、生徒に後を託して全力でいくわよ! でりゃー!」

 アーシア・レイフェル(あーしあ・れいふぇる)もまた、ウルクの剣を振りかざして突っ込んでいく。

「雑魚に用はありません。今回は呪界の慣らしと探索がメインですので、ね」

 古代呪術・七式【呪界】を展開した東 朱鷺(あずま・とき)は、スケルトンを無効化すべく行動を開始する。

「危険を感じたら私達の後ろにね!」
「後ろにと言われても、他人を盾にしないアーシアなのは知ってるだろ?」
「気持ち気持ち♪」
「その気持ちは受け取っておくわ! ありがと!」

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に、アーシアのそんな声が飛ぶ。

「アーシア、ルカも手伝う!」
「だぁめ、ここは温存しときなさい!」

 そんな会話をかわすルカルカとアーシアを眺めながら、シェヘラザードは笑う。
 これから死地に向かうというのに、どこまでもいつも通りな光景。
 それは、用意された絶望には負けないという意思故なのか。
 思えば、こんな強さが欲しくて留学を決意したのかもしれなかった。

「そろそろこんなバカげたことを終わらせなきゃ……」
「そうね。終わらせなきゃ、いけないわ」

 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の言葉に、シェヘラザードも頷く。
 終わらせなければいけない。
 そして、始めなければいけない。
 新しいシボラを。
 その為には、まず此処からなのだ。

「おまえ達も力を貸してくれるかしら、さゆみ……それと、アデリーヌ」

 その言葉を受けて、さゆみとアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は首を縦に振る。
「勿論よ」
「わたくし、あまり荒事は得意ではありませんが……已むを得ませんわね」

 シェヘラザードを護衛するように動くさゆみとアデリーヌは、そんなシェヘラザードの心の内を察したのだろうか。
 そっと、シェヘラザードの肩に手を置く。

「ここまできたのなら、あとは突っ走るだけ。そうするしかないんだから」

 肩に置かれたさゆみの手にそっと触れると、シェヘラザードは柔らかい笑みを浮かべる。

「……そうね。もう後戻りなんて出来ない。やるしか、ないわよね」
「今までの事を考えると、この件を解決するには、ドニアザードにシェヘラザード……二つの部族の力が必要だと思うんだ」

 そんなシェヘラザードの顔を覗き込むように、先行していた清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)が振り返る。

「今度は、僕達が守るから。平和を手に入れよう」
「無駄に命を奪わず……今度こそ」

 北都とクナイの瞳を見つめ、シェヘラザードも力強く頷き返す。

「そうね。おまえ達の言う通りよ。必ず……平和を」

 その瞬間。クナイと北都は、素早く前方へと振り返る。
 いや、正確には前方の左から繋がっている通路。
 そこに、何かの気配を感じたのだ。

「敵……なの?」
「……分かりません。殺気はありませんが……」
「下がってて。万が一ってこともあるから」

 クナイと北都はシェヘラザードを後ろに庇うように。
 さゆみはフロンティアソードをいつでも抜ける体勢に移行し、アデリーヌも迎撃態勢を整える。
 ゆっくりとした動きで、通路から現れる2つの影。

「ん、罠と待ち伏せは出来るだけ排除したであります」

 それは、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)の姿だった。
 一気に脱力する北都達の前で、吹雪は戦利品を広げ始める。

「そして! 今回は大戦果であります!」

 サムズアップしながら、1つずつ戦利品の紹介をしていく吹雪。

「なんか高そうな杯に、とりあえず高価そうな兜に宝石に、超リアルなシェヘラザード人形……」
「待ちなさいよコラ」

 吹雪の顔に、シェヘラザード(ドニアザードの身体)の蹴りが入る。

「あたしの身体じゃないの! どっから見つけてきたのよそれ!」
「罠が死ぬほど仕掛けられた中に安置してあったでありますが……」
「ベテランかっ!」

 理不尽な突っ込みの蹴りが、再び吹雪に叩き込まれる。

 葛城 吹雪。今回のメンバーの中で一番おちゃらけていながら、トップレベルの実力者の一人でもある。

「ま、いいじゃない。ちょっとお姫様っぽくない助けられ方だけど。このくらいの方が合ってるんじゃないの?」
「多少緊張感にはかけますけどね。ハハ」

 周囲の敵を殲滅して戻ってきたアーシアと真人が、そう言って笑う。

「いいけどさあ、別にいいわよ。でもあたしだって、プリンセスカルテットとか言われてるうちの一角なのよ。もうちょっとさあ、なんかあるでしょ……」

 脱力したシェヘラザード(ドニアザード)から、何かのオーラのようなものが抜けていき、倒れたままのシェヘラザードの身体に入っていく。
 やがて眼を開けたシェヘラザードの身体は、ガバッと起き上がって辺りをキョロキョロと見回す。

「よっし……取り戻したわ、あたしの身体!」
「おお、戻ったようじゃな!」

 そこにかけられたのは、ミアの声。

「こっちも上手くいったよ……!」

 聞こえてくるのは、地上班の面々の声。
 即座にドニアに回復の技が施され、ドニアは薄く眼を開ける。

「う……」
「ドニア、無理しないで。削られた魂はまだ戻ってないのよ」
「シェヘラ……大丈夫、よ。私だって、やれる、わ」

 よろよろと立ち上がるドニアは、真人に支えられるようにして立つ。

「水晶短剣を、手に入れた……のね」

 涼介の手の中の煌き。これが、新たなる大英雄に対抗できる唯一の力。

「これで揃った……ってことね」
「じゃあ、行こう」

 さゆみの言葉に北都は頷き、目の前の扉に手をかける。
 大きく、立派な扉。
 重たいそれを開き、北都達は奥へと進んでいく。
 その先に響いたのは……堂々とした、高笑いだった。