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★第五話「にゃにゃにゃんにゃんにゃにゃんにゃあ〜」★



「急がないと、もうすぐ来ちゃうよ」
「分かってます……エース。食器が足りないのですが」
「えっ? 右下の奥にない?」
「それならもう出しといたわよ」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が慌ただしく準備をしていると、手伝いに来ているリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)顔を出してそう言った。
「そうだったんですか。ありがとうございます」
 リリアは返って来た礼に軽く手を振ってから受付へ向かった。受付の手順の確認をする。
(ちょっとまふまふしてもいいわよね?)
 ひっそりとしゃがんで猫と触れ合う。
「ふふ。おやつ食べる?」
「にゃー」
「タベルー」
「はい、どうぞ……って、え?」
 おやつをあげてから、今返事が聞こえたような、とリリアが目を見開く。返事をした、と思われる猫は先日ニルヴァーナにて保護されたものだが……じっと見つめても「にゃあ」と愛らしく鳴くだけ。
「気のせいね……あら? 二本足で歩くの上手ねー……って、ええっ?」
 たしかに二本で立っていた猫は、リリアが瞬きするともう普通に歩いていた。み、見間違い?
「ねぇ、エオリア。猫じゃないのまじってない?」
「え? ……普通の可愛い猫だと思いますけど」
 慌てて戻って聞いて見るが、そう言われるばかり。どういうことだろう。
 首をかしげるも、時間があまりない。カフェでくつろいでいるメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の元へ向かう。
 メシエも手伝いのために来ていたのだが、

『猫を連れて行く手伝いはしよう。しかしカフェでの対応は、エース、君の仕事だ』
『うん。メシエはカフェで寛いでいても良いよ(子猫達に気をつけててくれるし)』
 ということで、経済白書読んだり新聞読んだり、パソコンで情報収集などしてまったり過ごしていた。
 ……その膝や肩や頭に猫が乗っていなければ、とても優雅だったろう。
「どうして君たちはそこで寝そべるんだい?」
 静かに突っ込みを入れつつも、背を撫でて構ってコールにちゃんと答えるメシエであった。

「メシエ、手伝って、お願い」
「……仕方ないね」
「ありがとう」
 しかしながらそんなメシエも、リリアのお願いには抵抗できず、開店準備を手伝うことになったのだった。
「リリアー。そろそろ受付待機しといて。他のお客さんも来るかもしれないし」
「分かったわ」

 一台のバスが『にゃあカフェ』の前に止まった。
「お待ちしておりました」
 エースが綺麗に頭を下げて出迎える。無表情なまま、『にゃあカフェ』という名前の店に入る金 鋭峰(じん・るいふぉん)
 シュールな気がするのは気のせいか。
 中は……随分と猫が増えたらしい。まだ生後2か月ほどのぷくぷくした子猫から、看板犬ならぬ看板猫である三毛の『ちまき』、茶トラの『きなこ』、ハチワレの『おはぎ』とサバトラの『ごましお』、白猫金目銀目の『おもち』。他にも空京やニルヴァーナで保護した猫たちや、先日友人から託された三毛猫の『かぼ』の計33匹の猫でお出迎えだ。
「わあわあ、猫だよ猫猫、猫ー! ゼーさん、猫!」
 一番はしゃいでいるのはなななだ。アホ毛を振り乱しながら、シャウラの方を振り返る。
「宇宙生物だ!」
「普通の猫ですよ」
「この肉球には癒しの効果があるんだぞ……って別に良いだろ。宇宙生物とか好きなんだから」
 冷静にツッコミをいれる秀幸に、このー、と反撃のように抱えていた猫、ごましおをその頭に乗せる。
「何を」
「わぁっ小暮くん、似合ってるよー」
「そこが落ち着くってさ」
「そんなわけないでしょう」
 秀幸がごましおを降ろそうとすると、
「にゃー!」
「っうわ」
 見事に引っ掻かれ、再び頭の上に乗られる。
「大丈夫ですか?」
 慌ててエオリアが救急箱を持ってくる。傷はそう深くなかった。ごましおは治療中も頭から降りなかった。頭の上は気に入っているが、本人に触れられるのは嫌ということだろうか。
 しかし文句を言いつつ秀幸は楽しそうだった。意外と猫好きなのだろう……でも時折撫でようと伸ばした手は噛みつかれるか引っ掻かれるかで……うっ。不憫な。
 もちろん、その光景はちゃんとカメラに収まっている。あとで一枚ください。
「君は『えくす』って言うの? カッコイイ名前だねー!」
「な〜お」
「わははっくすぐったいよ」
 そしてこちらはななな。猫がどうか怪しいとリリアに思われている猫と話しあっている。シャウラは「さっきまではこっち見てくれたのに」と仲の良い2人? を見てぐぬぬ。
「あっ、お前ら、なななとそんなに仲良くしやがって」
「何を猫相手に本気になってるんですか」
「……くそう。俺も猫になりたい」
「ゼーさん猫になるの? じゃあここに住むの?」
 とにかくも楽しんでいるようだった。

「メルヴィア。楽しんでますか?」
 ルースの声に、メルヴィアは内心でまたかと眉を寄せた。
 それは嫌悪の感情ではなく、困惑の想いが強い。
 メルヴィアは父親を知らない。
 父のぬくもりも。優しさも。力強さも。
 だからルースの優しいまなざしや声に、どう接すればいいのか分からない。分からないから、ただ戸惑う。でも、と少し思う。
(もしかして、これが父親と言うものなのか?)
 そう、少しぼうっとしていた隙に、彼女の背後に回り込んだ人物がいた。
「まあそう硬くならず、楽しもうぜめるめる!」
「あ、わわっ。り、りぼん!」
 リボンを手にしている朝霧 垂(あさぎり・しづり)が笑う。常に酒を持ち歩いていた垂だが、さすがに猫がいるので今は持っていない。
 しかしいままでずっと飲み続けていたため、ほろ酔い状態で、はははと笑いながらリボンを手に走り回り、それを猫とめるめるが追いかけると言う妙な構図が出来上がった。
 ルースはそれを見て、目を細める。
「まってなの〜」
「にゃあ〜」
「違うの猫さん。遊びじゃないの」
「ほらほら、リボンはこっちだぜ」
 困った顔をしながらも、メルヴィアが楽しんでいる雰囲気を感じ取ったのだ。先ほどまでは妙な緊張感があったので、良かったと息を吐く。
 もちろんメルヴィアだけでなく、みんなに楽しんでほしいという気持ちがある。大事な仲間たちなのだ。
 その時一匹の猫がルースのズボンに噛みつく。
「どうかしましたか?」
 しゃがみこんで子猫に尋ねるが、ズボンを引っ張ろうとするばかり。どうしたのだろうかとルースは首をかしげ、猫が引っ張ろうとしている方角にメルヴィアたちがいるのを知って、苦笑した。子猫を抱き上げて、笑いかける。
「そうですね。楽しんでもらうためには、自身が楽しまないと」
 子猫は「その通り!」と言わんばかりに「にゃあ」と鳴いた。

「はい。クッキーです。他にも何かリクエストがあれば作らせていただきますので、言ってくださいね」
 あらかじめ用意していたお菓子をテーブルに置く。こおばしい香りに遊んでいた面々がテーブルに近寄って、一枚二枚と手を伸ばす。
「美味しい!」
「うん。とっても美味しいの」
「ありがとうございます。ゆっくり寛いで行ってくださいね」
 エオリアは笑顔で礼を言い、楽しんでいる様子に息を吐く。
「リリアの話では猫じゃ無いかも……って子がいるかもしれない? とのことでしたが……」
 改めて猫たちを見回すが、どこから見ても可愛い普通の猫たちだ。首をかしげていると、注文が入ったたため、思考を終わらせる。
 今はとにかく、目の前の仕事をこなすのみ。
「お待たせしました、お嬢さん」
 エースは慣れた手で紅茶を入れて配っていた。良い香りだ。
 猫たちが自由気ままにしているの眺めながら、紅茶を片手にゆったりとした時間が過ぎていく。なんと贅沢な時間の過ごし方だろう。
「この子たちはずっとここにいるの?」
「今日は基地にあるカフェから来てる子もいるよ。ときどき入れ替えていろんなところで寛げるように馴らしてるんだ……里親も募集中だから、ここからいなくなる子たちもいるしね」
 紅茶を入れながら、エースは猫たちについて語る。一瞬悲しげな顔をしたが、すぐに笑顔になる。
「みんなとてもいい子たちだから、幸せになってくれたらいいなって願ってるよ」

 基本、そのように和やかな『にゃあカフェ』だったが、一部の空間では緊張感が漂っていた。金 鋭峰(じん・るいふぉん)と子猫の一匹が見つめ(睨み?)あっている。
 鋭峰は相変わらずの無表情で、エースから渡された猫じゃらしを片手に持っていた。これほど似合わない組み合わせもそうそうないだろう。
 ぴっと鋭峰が猫じゃらしを振る。子猫が反応し、ぱっと伏せた。そして再び猫じゃらしが動くと、今度はお座り……なんということだ。猫じゃらしという玩具で、猫を操っている、だとっ!
 さすが!
 と言えばいいのか。無駄な! と言えばいいのか悩む。非常に。
 意外なようで意外じゃない鋭峰の特技を発見した『にゃあカフェ』体験だった。



「にゃあカフェってところがあるみたいなんだ。そこに行かない?」
 永井 託(ながい・たく)は恋人である南條 琴乃(なんじょう・ことの)へそう声をかけ、2人でにゃあカフェへとやってきた。
「いっぱいいるなぁ〜、かわいいねぇ」
「うん! わぁっこの子たちまだ小さい……どのくらいなんですか?」
「たぶんまだ生後2か月くらいかな。この前保護したばかりなんだ」
 説明を受けながら、2人は寄って来た猫を踏まぬように歩き、2人並んで座る。途端に託たちの膝に乗ってきた。
(猫とか、動物は結構好きなんだよねぇ〜)
 自然な微笑みを浮かべて託が猫の背を撫でる。隣では琴乃も嬉しそうに笑って撫でている。
「あいたっ」
 穏やかな時間、と思ったら頭に走る軽い痛み。琴乃が声に驚いて託を見て、ころころと笑う。
「僕の頭は乗るところじゃないんだけどねぇ」
「ふふっでもとても居心地よさそうだよ」
「琴乃。人ごとだと思って」
 口をとがらせつつも、託も本気で怒っているわけじゃなかった。むしろ楽しんでいた。猫を抱き上げたり撫でたり、存分に堪能する。
 連れの存在を忘れるほどに。

 ふいに腕を引かれ、託がそちらを見る。
「にゃ、にゃあ」
 頬を膨らませた琴乃だった。猫の真似をして託を見上げている。あまりの可愛さに、思わず抱きしめる。
「た、託っ?」
「……ごめんね、琴乃。寂しい思いさせて」
 反省し、残った時間めいいっぱい使って2人で猫との交流を満喫する。
「楽しかったね、琴乃。そろそろ帰ろっか」
「そうだね」
「……結局この子はずっとここにいたね」
 頭に乗っていた猫を抱き抱えて託が言う。猫の目がどこか寂しそうに見える。もしかして気に入られたのだろうか。
 初めて正面から見たその猫は、ペルシャ猫に似ていた。
「うちに来るかい?」
 猫は、まるで返事をするように鳴いた。
 引き取る際に聞いたところ、その猫にはまだ名前がないと言うことだったので、琴乃と2人で何が良いかなと考えながらと街を歩いた。



「かぼちゃん、元気にしてた?」
「な〜お」
 託たちが去った後、カフェへとやってきた理沙セレスティア。実は三毛のかぼは理沙が拾ってエースに預けたのだ。
「皆、動物の面倒はちゃんと死ぬまで見なきゃダメだぞっ!」
 カメラに向かってそう言う理沙。

 後ろにいた猫が
「そうだぞ〜」
 と言った気がするが、きっと気のせいだ。