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第6章 ヤドリギ除去・その2

 テラスのはまだ2つのヤドリギが残っている。
 下に立つ者を狂乱させるヤドリギの下は、踊るやら絶叫するやらで一際カオス状態だ。たまに、彼らのその行動の何かに反応するのか、たまに彼らにもヤドリギは種子マシンガンを発射する。その結果、花を咲かせて踊り狂って倒れる者まで出ている。
 北都とクナイが、ヤドリギの範囲外からスキルを使って彼らを引っ張り出し、押し出しして何とか救出作業を続けている。ここに駆けつけたルカルカとダリルは驚いた。
「コード!? どうしてここにいるの!?」
 強い向上心ゆえにコードが自分たちには内緒でイルミンスールの図書館で学習に勤しんでいたとは知らなかったため、思わぬ形での再会に吃驚である。それに対してコードは、ルカルカらに何も釈明できないでいた。内緒の努力を口にしたくない意地もあったし、何より、思いがけないヤドリギの反撃が予想以上に強くて、己の身を守りながら攻撃を続けるのが困難になり、下手に至近距離まで近づいてしまったのが却って仇になって退くこともできずにいた。ヤドリギの上空とテラスの上とに離れているルカルカらに、その詳細を伝える余裕がない。
 だが、ルカルカはぐずぐずはしない。状況を見て悟るやすぐに、連携体制を取るべく動き出す。【空飛ぶ魔法↑↑】でダリルと共に上空に舞い上がった。



 キカミの居室。
「大変な目に遭ってしまったんですね」
「はい……でも、皆さんが本当に親切にしてくださって……、? !?」
 鷹勢と話していたキカミが突然、何かに打たれたように奇妙な表情になった。それを見て、周りで見守っていた契約者や魔道書達が近寄ってきてキカミを取り囲む。
「どうかしたの、キカミ?」
 鷹勢が尋ねると、キカミは、遠くのものを見るような目をして、
「ヤドリギの毬が一つ……切り落とされたみたい。つーたんがそう感じたわ」
「……そうか。テラスで契約者たちが、ヤドリギを排除するためにいろいろやってるみたいだからな」
 和輝が腕組みをして頷くながら呟く。ネーブルが身を乗り出し、キカミに尋ねた。
「じゃあ、少しは…魔力を吸われるの、減って…楽に、なった……?」
 だが、キカミは神妙な表情で首を横に振る。
「それが……残った二つが、消えた一つの方に向かうはずだった養分を取るから、その分二つが強力化しているみたいで……」
 一瞬二の句が継げない全員を前に、キカミもしゅんとなる。が、
「でも、今少しだけつーたんの感覚が甦った……」
 思い出したようにぽつんと付け加えた。
「つーたんが、元気になれば……ヤドリギに魔力を…吸い取られなくなるように…できない…かな……?」
 ネーブルに訊かれ、キカミは真剣な表情で首を捻る。
「……。つーたんが自律的意識を保てるくらい回復すれば、ヤドリギに養分が回らないようにセーブできるかもしれない……
 完全にシャットアウト、は無理かもしれないけど……いくらかは」
「例えいくらかでも、ヤドリギの勢いを削げて、結果としてキカミ自身も体力を温存できる策があるなら、試してみるべきだろうな」
 和輝が言う。
「肝心なのは、どうしたらそれができるか、だな」

 契約者とキカミの話を横で聞いていた鷹勢だが、ふと、何かを察知して後ろを振り返る。
「……、……? 白颯!?」
 すぐ後ろにいると思っていた白颯の姿がない。体を伸ばして部屋の奥を見ると、そこにある扉――さっきから魔道書達がそこから室内に出入りしているようだった――の僅かに空いた隙間から、出ていく白颯の白い尻尾が見えた。
「白颯っ、だめだよそっちはっ」
 鷹勢は慌てて、皆の輪から出て白颯を追った。魔道書も契約者たちも、キカミが取るべきこれからの策を論議し始めていて、白颯と鷹勢の動きにはほとんど誰も気付いていない。


「コード! 少しだけ離れて!」
 飛んできたルカルカの声に、余裕のなくなっていたコードは反射的に、何も考えずに従った。ルカルカはすぐに『氷桜鉄扇』と『芭蕉扇』を使ってヤドリギの攻撃目標をコードから自分に逸らしつつ、【常闇の帳】でそれらの攻撃を吸収し、盾役になる。
「ルカ」
「だいじょーぶよっ、コードは続けて!」
「え?」
「考えがあって挑んでるんでしょ? それを続けて!」
「ヤドリギの根の特定は、俺に任せてもらおう」
 ルカルカの魔法で中空に立つダリルが冷静に、しかし力を含んだ声で言い放つ。
「どんなに入り組んだ立体でも、それが枝が繋がってた塊なら――俺に解けない筈はない」
「うっわ凄い自信」
 ルカルカが呆気に取られたように呟く。ダリルはルカルカの言葉には構わず、コードをちらりと見やる。言葉はない。代わりにルカルカが言う。
「自分の自信がある分野でちょっとだけ出しゃばれば、いいんじゃない?」
 コードは答えなかった。答える代わりに――ロングハンドでヤドリギを再び掴む。
 ダリルは攻撃範囲外からそのヤドリギの枝の繁茂を観察し、伸びている状態を伸びる動きと仮定して、そこから根を特定するための計算を始める。



「これをもう一度使うか。スキルを封じ、ヤドリギへの栄養補給路を閉鎖している間に……充分な魔力を補給して」
「その魔力をつーたんに流して自律意識を回復させ、封じの効果が切れた後もその意志でヤドリギの吸収力に抗させるようにし、補給を妨げて敵の力の減退を図る……ってことか」
 蒼き水晶の杖を再び取り上げて言ったアルツールの言葉に、その意図を掴んだ恭也がさらに言葉を継いだ。
「……それができれば、テラスでの騒ぎの収束にもつながる……んだよね……」
「キカミ、慣れぬことではあろうが、貴様が挑むというのなら我らは出来うる限り手を貸すぞ」
 『ダンタリオンの書』が傍で囁くように言う。
「私たちもついています。キカミ、」
 リピカが呼びかけ、隣りにいたお嬢やリシも頷く。
「……。上手くいくか分からないけど……やってみる」



「断つべき根は――此処だ」
 言うなり、ダリルは己の胸部から光条銃を二丁抜き出し、【スナイプ】で狙いを定めて光条弾を撃ち放った。
 体の中から銃を取り出すため、軽い衝撃で息がわずかに乱れたにも関わらず、光条弾は正確に、ヤドリギとつーたんの幹との境目に弾痕を刻んだ。
 弾を追って、コードとルカルカの【真空波】が、そこだけを狙う斬る指定をなされて、ヤドリギの根を斬り、落とす。


 かくして、2つ目のヤドリギも落ちた。





 キカミのいた部屋の奥の扉からは、薄暗い、細い通路が続いていた。まるで何かに引き寄せられるように、その通路を白颯は駆けていく。
「待って白颯、どこへ……!」
 追いかける鷹勢が言いかけた時、出し抜けに部屋が出現し、気が付いた時にはその入り口を超えて鷹勢はその部屋の中にいた。
 部屋の一方の壁には、巨大なガラスが嵌めこまれている。
 ガラスの向こうは、広い部屋だった。――鷹勢は目を瞠る。その部屋には何もない。積もりに積もった灰の山以外には。
 その灰の中で、灰の塊がもそもそと動いている――
 ガラスの端に凭れかかるように立って、中の様子を見ている少年が一人いる。
 白颯はその足元に小走りに駆け寄ると、座り込んで尻尾をゆらゆら振ってふんふんと鼻を鳴らす。
「……ん? あれ、お前……どうしたの。こんなとこで、また会うなんて」
 少年は白颯に気付いて、どこか疲れような顔に笑みを浮かべ、背を丸めて手を伸ばそうとし……立ち尽くしている鷹勢に気付いた。
「あんたは……あの時の……?」
 少年は魔道書『パレット』であった。