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A NewYear Comes!

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A NewYear Comes!

リアクション

 
 
「ふっふっふ! 今回も素晴らしいものばっかり!」

 ここぞとばかりにイベントに全力で参加した遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)のブースではアイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)の姿がある。その後ろでは同人誌を手に休憩から戻ってきた寿子の姿があった。その手には肌の露出が高い表紙の本が数冊握られており、いずれも少年や青年が描かれているものであった。そんな寿子をよそに笑顔で接客を手伝っているアイリとルシアたちの左隣に、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)のブースがあった。

「ありがとうございましたー!」

 笑顔で同人誌を手渡した長谷川のもとに海松が訪れていた。

「長谷川さん、お疲れ様です。よかったらこれどうぞ」

 可愛くラッピングされた袋に詰められたクッキーを手渡して海松はにこりと笑った。

「ありがとうございます。今回はどうですか?」
「皆さんのおかげで無事に完売ですわ! 目的の本も入手できましたし。あとは皆さんと交流をより深めるだけですの」

 配布用のペーパーと差し入れのクッキーを手にサークルを回っているとのことだった。

「しかし長谷川さん、素敵な衣装ですわね!」
「ありがとうございます。今回はイコン少女の本なので、それの衣装にしてみたんです」

 指差した表紙の少女はとあるイコンを擬人化したものであり、それをさらにデフォルメして可愛らしくなっている。『ガールズ&イコンズ』と書いてある長谷川の本の内容はその少女たちがそれぞれのベースとなった機体の説明をする萌えと燃えを両立した同人誌となっているのだ。テーブルに置かれたPOPや見本本にも『機体解説の内容は現役整備教官のお墨付き!』と銘打ってあるぐらいには説明がマニアックに書いてある。
 登場人物の一人と同じ衣装で長谷川はブースで接客をしていたので、イコン好きの男性客がブースに訪れることが多かった。その度にお客とイコンの話で盛り上がってはああでもないこうでもないと議論を交わしていたのを目撃されている。
 長谷川の、女性らしいラインが特徴的に見える白の衣装は『ブルースロート』を基にしたもので、所々に入る青がとても綺麗だ。足元のブーツも機体と同じ黒で羽があしらわれている。

「イコン……なんて素晴らしいものなんでしょう……!」

 音もなく現れて寿子がうんうんと頷く。

「寿子さん、お疲れ様です。イコンはいいものですよね。この本に出てくるこの機体も、ここの駆動部分が上手くできているし、整備次第で性能が高くなりますし。まだまだパイロットが性能を引き出せて上げられないというのがもどかしいですが」
「そうですわ! やはりパイロットよりイコン! 私、以前寿子さんが描かれた擬人化イコン本を見てハマってしまいまして……それまではパイロットありきだったんですが、そこからすっかり変わってしまいましたわ」
「わぁ、嬉しいなぁ〜」

 イコン擬人化でわいわい盛り上がる三人。

「……ところで、実は今回こんな新しいジャンルに挑戦してみましたの」

 眼鏡をきらりと光らせて海松はカバンからすっと一冊の本を取り出した。

「こ、これは――っ!」

 寿子と長谷川が釘付けになった先、そこには『R18』の文字がついた擬人化なしのイコン本だった。とはいっても、機体同士があれこれしてるというようなものではなく、整備士がイコンを整備しているところや、パイロットのイコン稼動訓練時に非常に卑猥なアテレコを追加していたりしているような内容なので、そこまで直接的なものではないのだが。強いて例をあげるなら、服を着ているのにエロい。そんな感じだろうか。
 そんな分かる人には分かる、腐女子大歓喜な新しい燃料が投下されて、盛り上がらない方がどうかしているというレベルに達してしまった寿子と長谷川。

「やだ……このF.R.A.G.たまらないですね……!」
「はうぅ〜! 玉霞さんイケメンだよぉ〜!」
「うふふふ、そうでしょうそうでしょう!」

 設定資料を差し出してより詳しく説明し出す海松。

「こんな感じで。私はこっちよりもこのカップリングのほうが好きですわ」
「なるほど……今までありそうでなかったですね……『整備士×イコン』!」
「整備のために拘束とかデフォルトすぎてマニアック! これなら半擬人化のパワードスーツ風にしても萌えてくるよぅ〜!」
「『イコン×イコン』ならこっちを……」
「コームラントとジェファルコンが受けなんて……解ってますね……!」

 一般人にしたら何でもないようなことでさえ、萌えの力の前では無力なのだ。
 腐女子の想像力は誰も止めることなどできない。
 そうしてガールズトークはどんどん盛り上がっていき、ここに新たな萌え同盟が誕生したのだった。




 柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)はダンボールをブースに運び込むと溜息を一つついた。

「早くコスプレ会場に行って可愛い女の子の写真を撮りたいのに……まだ荷物来るのかよぅ……」

 ダンボールを開けて中身を確認しながらぶつぶつと文句を言えば、後ろからアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が不機嫌そうに声をかけてくる。

「まだ休憩時間じゃないんですから、しっかりお手伝いしてください」
「どうせ荷物待ちの時間のほうが多いんだしさぁ、まぁそんなかたいこと言わずに、ほら息抜きって大事――」

 くるりと振り向けばシャキンと銃を構えだしたアルマを見て、判りましたと慌ててブースを飛び出した。

「アルマのやつすぐ怒るんだからなぁ……」

 急いでブースを飛び出したはいいが、次に荷物が届くまでまだ時間がある。とはいえ、コスプレ広場まで行ってのんびり撮影に没頭していられるほどの時間はない。
 ポケットに忍ばせたカメラを取り出して、せめて近場の可愛いコスプレイヤーを収めようと歩いていた時だった。

「教官、何やってるんですか!?」
「ゆ……柚木さん?!」

 最近はイコプラのブースやコスプレも増えてきていて嬉しいな、などと考えながら前方にブルースロート風のコスプレをしている女子を発見! さっそく写真を一枚お願いしようと近付いてみれば、そこには柚木が通っている天御柱学院で整備科を教えている長谷川教官の見たことのない一面があった。
 教え子にコスプレ姿を見られたこともあってか恥ずかしそうにしている長谷川だが、その姿がまた可愛らしい。

「教官〜、何枚か写真撮ってもいいですか?」
「えっ?!」

 普段教官と生徒として接している時とはまるで雰囲気も違っていて、これはぜひとも写真に撮らなければとデジカメを静止画撮影モードに切り替えながら柚木は長谷川に声をかける。
 少し悩んだ後に、他の生徒に撮った写真を見せないことを条件に撮影許可が出た。
 こんな可愛らしい姿を他に見せられないというのは残念だが、柚木はシャッターを切った。気持ちを切り替えてしっかりとコスプレイヤーとして写真に写る長谷川。写真栄えのする長谷川とレンズ越しに目が合って一瞬ドキッとする。
 その時、何か気配を感じて後ろを振り向けば、殺気を放ちながら黙って柚木の後ろで銃を構えるアルマの姿があった。

「あ、アルマさんいつからそこに……え〜とこれはですね、ちょっとした出来心というか――」

 チュンッという低く鈍い音がして、柚木の頬スレスレで銃弾が後ろの壁にめり込んだ。

「ごめんなさい! すいません! サボってたのは謝るからっ、頼むから、撃つのはやめてくださあああい!」

 アルマの銃弾を器用に交わしながら、他の人に当たらないように急いで外へと飛び出していった。もちろん、カメラは死守で。