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死んではいけない温泉旅館一泊二日

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死んではいけない温泉旅館一泊二日

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1、温泉タイム 〜ツルツル・あつあつな仕掛け〜

「おおっ!」
 真っ白な湯煙に包まれる大浴場に、全員が声を上げた。
 あまりの温泉の広さに、全員ここまで警戒していたことをすっかり忘れてしまうほどだった。

「よーっし、一番風呂は俺だっ!」
 水着姿で、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は目の前に広がる檜風呂へと飛び込んだ。
 ざぶーんという音と共に、恭也の身体はお湯に包まれる。はずだった……。
「うっ……うわあああああああああああああっ!?」
 まるで犬かきをする犬のように、身体をじたばたさせてお風呂から勢いよく恭也はあがってきた。

「ど、どうしたの?」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、小刻みに肩をふるわせる恭也に声をかける。
 とたん、「ぱんっ!」という大きな音が鳴り響く。
 全員が恭也の頭上へ注目すると風船が一つ、割れていることがわかった。
「みずだ……」
「え?」
 恭也はようやく震えながらも声を出した。その身体は完全に冷え切っていた。
「これ、お湯ではなくお水ですわ」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が手を湯船につけながら、単調に告げた。
 いつの間にかお湯がお水に換えられたお風呂に、一度がざわめき始めた。

「お湯!!」
 恭也は子鹿のように足をふるわせながら、滝のように流れる打たせ湯へたどり着く。
 途端に恭也の青ざめた顔は、次第に赤みを取り戻していった。
「は〜極楽だ……ん?」
 その暖かさにリラックスしていた恭也だったが、次第に打たせ湯強さが変わっていることに気がついた。
「おかしいな、こんなに強……うわああああああああああっ!?」
 恭也の身体は打たせ湯の滝に包まれたと思えば、地面にねじ伏せられていた。
 同時に風船がまた一つ割れてしまった。

 全員が身の危険を感じ、もう暖まったなどと言いだし温泉を出ようとするが、ちょうどその頃に馬場 正子(ばんば・しょうこ)が入ってきた。
「なるほど、試練は既に始まっているというわけだ」
 じっくりと噛み締めるように言う。
 そう真面目に言い切った馬場校長に入り口をふさがれた(ような形)になった以上、生徒達は温泉につかるしかなくなった。

「や〜、おもったよりはまってくれたわね」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、思いのほか綺麗にすべて罠にはまってくれた恭也に感動すら覚えていた。
 もちろん、これらすべての罠は祥子によるものだった。

         §

「ここならお湯のようですわ?」
 アデリーヌが警戒しながらも、手を大きな檜風呂につけたりして水ではなことを確認していた。
「大丈夫そうならほら、入った、入った!」
 さゆみがアデリーヌの背中を押しながら、大きな檜風呂へと入る。
 温度はすこし高めなくらいの、心地よさが二人を襲う。どうやら、普通のお風呂のようだった。
「来たね」
 離れたところで、アデリーヌ達を確認した笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は、バケツを浴槽にひっくり返す。
 中からはどろどろとした液体が音を立てて入っていった。
 どろどろした液体、つまりスライムはお湯の中をゆっくりと進んでいく。
「良いお湯ですわ――ひゃっ!?」
「どうしたの?」
「な、何かがお尻を触ったのですわ!」
 お尻を触るような感触に思わずアデリーヌが、高い声を上げる。
 そして、ぱんっという大きな音を立てて、アデリーヌの風船が割れてしまった。
 さゆみは驚き、アデリーヌを見ると肌が露わになっており、着ていたはずの水着が無くなっていた。
「!?」
 それを言いかけたとき、胸のあたりをぬめぬめとしたものが触ってきているこそばゆい感覚におそわれる。
「なっ、なに!? やめ――」
 こそばゆさにアデリーヌとさゆみが、水の中をもがく。
 しかし、得体の知れないスライムはつかみ所が無いため、なおも二人の体中をスライムが這う。

         §

「うーん、あかすりをしてくれそうなおねえさんも、おばさんも居ないかあ」
 タオル一枚、腰に巻いた堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)が周囲を見渡しながら言った。
 そこに、一人の女性が近づいてきた。
「わしが、おぬしのあかすりをやってやろう」
「えっ? いえ、大丈夫――どわっ!?」
 タオルを片手に立つ、馬場校長から逃げるように後ろに下がった一寿だったが、それがまずかった。
 足を何かに滑らし、一寿の視線は馬場校長から外れ天井へと写る。
 そして、強い音と共に一寿は身体を地面に打ち付け、気絶してしまった。
「かかったですぅ」
 その様子を、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)が達成感ある笑顔でのぞき込んでいた。
 もちろん、一寿の足を滑らせ転けさせたのはルーシェリアの仕業だった。
 その仕組みも簡単な物で、床中に石けんを塗りたくったものだった。
「さ、つぎですぅ〜!」
 ルーシェリアは本当に楽しそうな顔を浮かべながら、次の仕掛けへと取りかかった。

         §

「なんだか、騒がしいですね」
「たまたま、ほかのご一行さんが着てるそうですよ?」
「見知ってる顔も結構みえてるのう」
 小さな露天風呂。
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)そして、奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)が仲良く入っていた。
 三人は、だから安いのですね。などと事情も知らずに温泉を満喫していた。
「ところで……アルテミスちゃん、ちょっと成長した?」
 咲耶がジト目でアルテミスと神奈の胸を比べ見ながら言う。
 アルテミスはそんなことはないですよっ! と顔を真っ赤にしながらも手を振って否定する。
「それに比べて神奈さんは……相変わらずみたいですね!」
「なっ、なんじゃと!?」
 笑いながら言う咲耶を、神奈は立ち上がり襲いかかろうとする。
 それをしばし、アルテミスがまあまあと押さえていた。
「あれ……」
 最初にその異変に気がついたのは、アルテミスだった。
 温泉の温度が急激に上がっているのだ。
「あ、熱くないですか?」
「え?」
「そういえばそう――む、熱いってものじゃないぞこれは!!」
 慌てて神奈達は温泉を飛び出した。
 と、同時にルーシェリアのつるつる石けん床に三人は次々と前のめりに転けていった。
「ったたた……えっ、わわわわっ!?」
 アルテミスが床に打ち付けた頭を押さえながらゆっくり立ち上がろうとする。
 が、床に手を乗せた瞬間、緑色の液体に身体が包まれていった。
「わーい、上手くいったです〜」
「そのスライムは、美容に良いから楽しんで!」
 ひょっこりと、ルーシェリアと紅鵡がのぞき込む。
 機械的に管理していた温泉の温度を、たったワンプッシュで灼熱地獄へと変えたのはルーシェリアの仕業。
 スライムは言わずとも、紅鵡の仕業だった。
 しばらく3人はスライムに、体中の老廃物をなめ取られた。