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もちもちぺったん!

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もちもちぺったん!

リアクション

 庭の片隅で何が行われているか誰も気づかないまま、餅つき大会は粛々と進められていた。
「いくわよ、セレアナっ」
「いいわ、セレン」
 ぺったん。
 ぺったん。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の餅つきは、息もぴったり安定の迫力。
 セレンフィリティの杵は可憐かつダイナミック。
 しかしその中にはより美味しい餅になるようにという思いの込められた繊細さも見え隠れする。
 返すセレアナの方からも、餅とセレンフィリティへの真摯な思いが感じられて。
 餅つきは次第に、まるで音楽でも奏でているように見えてくるから不思議だ。
 餅をつくリズムに乗って、二人は踊る。
 二人の間に、餅という形を取って存在しているもの。
 それは、愛情というかけがえのない物だった。
「すばらしかったですね。お餅つきというものの、真髄を見たような気がしました」
「パフォーマンスとしては、色々な技を使った組に比べて多少見劣りするような……」
「いやいやあれが本当の餅つきですよ。パフォーマンスは飾りです」
 審査員の反応も上々だ。
「な、なんだかあんなに好評な餅つきのすぐ後って、やりづらいね」
「そんなことないよ。私たちは、おいしいお餅を作って皆に喜んでもらうだけ!」
 セレンフィリティのすぐ後に登場したのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)
 不安そうなコハクを余所に、美羽は元気いっぱいだ。
「それに、私たちのメインはお餅つきじゃない、よね」
「う、うん。そうだね」
 美羽の笑顔にコハクの不安もあっとゆう間に薄れていく。
 深呼吸ひとつ、杵を持った。

「さあ、私たちの勝負はこれから。待っててね!」
 審査員たちにウインクひとつ。
 餅つきが終わると、つきたての餅を持って厨房へと走っていく美羽。
「そうか、美羽ちゃんたちは餅料理で勝負なのね」
「楽しみですネー」
 頷き合うサニーとサリー。
 その間にも、次の高峰 結和(たかみね・ゆうわ)エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)の準備が終わり、餅つきが始まる。
「じゃあ、いくわよ。せー、のっ」
 ぺったん。
「あら」
 ぺったん。
「あれれ」
 ぺったん。
「あらラー」
 ひとつき、ひと返しごとに、審査員席から驚嘆の声が漏れる。
 エメリヤンがつき、結和が返す。
 ただそれだけのはずなのに。
 真っ白な餅が、結和の手に触れるだけでみるみるうちに謎色へと変貌を遂げていく。
「ううううう……これも、これもお料理だと認識されてしまうんでしょうか」
 そう、呪われた料理人? 結和の手にかかればこねただけで餅も謎料理へと変貌してしまうのだ。
 ちなみにアレなのは見た目だけなので、食べても大丈夫。
「こうなるのは分かってたのに……いやどうしてこんなになっちゃうのかは分からないんですけども……」
 滂沱に沈む結和。
 反面、エメリヤンはとても楽しそうに杵を上下させていた。
 勢いよくつき、上に上げた時杵についた餅をぐにゃーっと伸ばす。
 かと思えば杵に全て餅をくっつけ、その謎色を見せびらかすかのように高々と上げる。
 そのままくるりと杵を回して見せる様子は、まるで異国のアイス屋のパフォーマンスのようで。
「……った、たたたのし、いねっ」
「面白イですネー」
「ほんと、すごいパフォーマンスよねえ」
「うん。あの変色なんか、どうやってるんだろうね」
 審査員にも好評なようだ。

「うぅう、せめて、なんとか食べられる形に仕上げてきますっ!」
 つきあがった餅を抱え、これまた厨房へと走る結和。
 その途中、曲がり角から出てきた影と衝突しそうになる。
「わっ」
「あ、きゃあっ、すみません……あ」
 それは、先日結和が怒りを買ってしまった相手、ムシミスだった。
「……」
「あ、ま、待ってください!」
 無言でその場を去ろうとするムシミスに、結和は慌てて呼びとめる。
「せ、先日は御名前間違えてしまってごめんなさい!」
「別にそれくらい構いませんよ。僕が怒っていたのは、余計な口出しをされたからで」
「ああやっぱり怒っていたんですね。その、お詫びにこれを……あ」
 手に持った餅を差し出そうとして、その謎色にはっと手を止める。
「こ、これじゃあお詫びにならないですねっ。ええとその……」
 焦る結和に、ムシミスは黙ったまま手を伸ばすとその餅をちぎり、口に入れる。
「……ふつー、ですね」
 味の感想らしい。
 仲直りの切っ掛け、なのだろうか。
 それだけ言うと去ろうとするムシミスの背中に、結和は最後に声をかける。
「……ま、またご一緒しても、よろしいですか?」
「好きにすればいいと思いますよ」
 振り向きもせず声が返ってきた。