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第5章 赤いアレを探して

「にわにわに、うらにはにわに、もももちがいたの!」
「庭にワニ? 裏庭にハニー?」
「ちーがーうっ。にわには2個、うらにわには2個」
「にわ二羽にわとり?」
「だからー」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の説明に、サニーは首をかしげるばかり。
「もう少し順序立てて話したらどうだ」
 二人の間に割って入ったのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
「と、言うかルカ。わざとやってないか?」
「実はちょっと楽しくなってきてた」
「私もー」
 てへ、と舌を出すルカルカとサニー。
「で、もももちよもももち。何処にいっちゃったか、知らない?」
「桃色の餅? 青い餅の実行犯なら、さっき捕まったばかりなんだけど……」
 サニーはちらりとハデスの方を見る。
 ベルクによって簀巻きにされていた。
「うーん、ダリル、あのお餅ってもしかして」
「ああ。クリスマスの時のナノマシンかもしれないな」
「よーし、何とかして会わないと。そうだ、囮作戦だ!」
「何?」
 ルカルカは無表情なままのダリルを見て微笑んだ。

「わーい、ピンクのお餅さんだー」
 ルカルカが必死になって探していたもももちは、ラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)があっさり発見していた。
「リースに見せに行こーっと」
 あまつさえ抱っこで捕獲されようとしていた。
 しかしピンクのお餅さんはそんなに甘くはなかった!
「あれー?」
 ぐにゃり。
 ラグエルに抱きしめられたままその形を変えた餅は、ラグエルを逆に抱きしめるように包み込む。
 そしてくすぐりターイム。
「きゃー」
 まだ幼い体にその刺激はただただくすぐったく、笑い転げるラグエル。
 笑っているうちに、次第に楽しくなってくる。
「きゃー」
「きゃー! ら、ラグエルちゃんが!」
 そして響き渡るリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の声。
 ラグエルの姿が見えないので探しまわった結果、ラグエルと餅の密会現場に遭遇してしまったのだ。
「どどど、どうしましょう。そうだ、きっとこんな時こそお師匠様が……」
 しゅーんっ。
 つつつつつつつんっ!
 リースが願う間もないほど早く。
 アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)は餅に攻撃を仕掛けていた。
「蠢くピンク色のそのぬるりとした触感! 貴公、鳥の宿敵“鳥餅”じゃな!」
「えええと違いますお師匠様っ!」
 アガレスは、(彼的にとても)大切なもち米を盗むような不心得者がいないか会場上空をパトロールしていた。
 そこで見つけたのがこのピンク色の餅だった。
「ええいにっくき鳥餅め!」
 アガレスに躊躇はない。
 その攻撃により、ピンク色の餅は無残にも四散してしまう。
「きゃっ」
 飛び散った餅の一片が、リースの顔につく。
 リースはその餅を手に取ると、しげしげと眺めた。
「これは、もしかして……」
 そこここに散らばったピンク色の餅は、ゆっくりと一か所に集まると、またひとつの餅の形をとった。
 そして、逃げるようにその場から離れていく。
「あっ、待ってくださいー」
 リースは慌てて追いかけた。

「ふふ。皆喜んでくれて良かった☆」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は空になったタッパーを持って上機嫌。
 彼女の作ったあずきと黒蜜きなこ餅は大好評で、あっとゆう間に全員のお腹に納まってしまった。
 ジャウ家でお世話になったお礼にとムティルに持っていった分も喜んで食べてもらった。
 ムシミスはその場にいなかったが、後で渡すからと包みを持ち帰ってくれた。
「もっと作っても良かったかしら。あれ? あのピンク色のお餅は……」
 特製のお餅?
 不思議に思って伸ばした歌菜の手に、ピンク色の餅はぴょいっと飛び乗った。
 ぴょい、ぴょいと腕を跳ねた餅は、歌菜の胸へ、ダイブ!
「きゃぁあああ!?」
 胸を基点に、歌菜の体に広がる餅。
 そしてくすぐる餅。
「や、た、助けて……」
 歌菜は唐突に訪れた刺激に混乱しながら、しかしこの感覚は何かに似ていると記憶を探る。
「そう、あれはたしかクリスマスの……」
「歌菜ーっ!」
 歌菜の悲鳴を聞いて飛んできたのは月崎 羽純(つきざき・はすみ)
 彼女の様子を見て、急ぎ餅を取り去ろうとする。
「はすみくん……」
「歌菜、今助けるからっ」
「あのね、この子はね……」
 絡まれながらも、歌菜はピンク色の餅の正体を話す。
 そう、この餅に混ざっている存在は、ナノマシン。
 『人を笑顔にする』という命令をひたすら守っている。
「あのね」
 歌菜は話しかけた。
 届いているかどうかも分からない相手に。
「私の名前は、遠野歌菜。 貴女とお話がしたいの」
 ぴくんと、一瞬餅が揺らいだような気がした。
 しかしそのまま餅は逃げていく。
「あ、待って。せめてお名前だけでもー」
 その後を、歌菜は慌てて追いかけた。