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【第四話】海と火砲と機動兵器

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【第四話】海と火砲と機動兵器

リアクション

『全機撃墜完了……っと。まだ見せたくはなかったけどよ、ま、仕方ね――』
 ゆっくりと踵を返し、“フリューゲル”が再び天御柱学院にプラズマライフルを向けようとした時――。
『……ッ! テメェ……確かに墜ちたハズじゃ……!』
 共通帯域に“鳥”の驚く声が響き渡る。
 天御柱学院にライフルを向けた瞬間、“フリューゲル”は背後から忍びよった機体が突き出した剣によって背部を斬りつけられたのだ。
 咄嗟に『瞬間移動』で身を逸らしたものの、全く予期しない完全な不意打ちだったこと、突っ込んできた機体がかなりの速度を出していたこと、そして、その機体が全身でぶつかってきたことが重なり、刃を受けてしまった。
 致命傷ではなかったものの、腰の部分を大きく削り取られた“フリューゲル”はライフルを懸架しているハードポイントが大破している。
 ライフルを手に持っていたのは不幸中の幸いだろうか。
 もっとも、ハードポイントだけでなく、装甲も削り取られるほどのダメージだったせいか、腰からは煙を吹いているが。
『言ったでしょう? マジでいかせてもらうと――』
 腰から煙を吹きながら向き直った“フリューゲル”に向けて、突っ込んできた機体――シュヴェルツェ シュヴェルトのメインパイロットである鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が“鳥”に言う。
『俺のシュヴェルツェ シュヴェルトは機体の出力がでない状態になる代わりに、その存在を探知されにくくすることもできるんですよ。だからさっき、カラスさんが何かしてくると思った瞬間にその状態にして、自分から噴射も止めたんですよ。で、カラスさんはまんまとそれに引っ掛かって、シュヴェルツェを斬り墜としたと勘違いした――というわけです。俺にもちっぽけながら、プライドは有りますからね。ぶつかって行ってやろうと思ったんですよ』
 あくまで貴仁の声音は静かだ。
 だが、その声には並々ならぬ闘志が感じられる。
 そして、その言葉通り、貴仁と彼の駆るシュヴェルツェ シュヴェルトは『ぶつかって行った』のだ。
 ステルス状態を解除すると同時に主兵装たる銃剣――『ブリッツェン』を腰だめに構え、全ての推進機構をフルブーストで速度を出し、それに速度と体重を乗せて体ごとぶつかる刺突。
 ――いわゆる、『タマぁとったらァ!』のスタイルである。
『やってくれるじゃねえか……シュヴェルツェなんたらァ……!』
 更にシュヴェルツェ シュヴェルトの攻撃は続く。
 相手の眼前から消えたと見えるほどの急降下の後、シュヴェルツェ シュヴェルトは急上昇してを真下から攻撃をしかける。
 言わば『逆タカ戦法』で『ブリッツェン』を振り抜こうとするが、“フリューゲル”の機体性能を前に追いつかれてしまう。
 追いすがりながら“フリューゲル”は『ブリュッツェン』の一撃を避ける。
 しかし、それこそが貴仁の本命は別にあった。
『アレックスさん……今です!』
『うむ!』
 シュヴェルツェ シュヴェルトは新式のダブルビームサーベルを仕込んだ爪先で蹴りを叩き込んだ。
「俺と……シュヴェルツェを……馬鹿にするなぁぁぁぁ!!」
 その攻撃も圧倒的な機動力に任せて避けようとする“フリューゲル”。
 だがしかし、今回ばかりはシュヴェルツェの攻撃が漆黒の機体を捉えた。
『クソッ……! 避けきれねえッ!』
 爪先に仕込まれた光刃は十分な深さでヒットし、“フリューゲル”の右脇腹を斬り裂いた。
『テメェのことは覚えとくぜ……えぇ、シュヴェルツェ シュヴェルトぉ!』
 ダメージを受けながらもカウンターで光刃を振るう“フリューゲル”。
 それを受け、シュヴェルツェ シュヴェルトは今度こそダメージを受けて落下していく。
 そして、“フリューゲル”が光刃を振るった隙をファスキナートルは逃がさなかった。
 ダメージで痛む機体をおして、残るエネルギーすべてをつぎ込んでエアブラスターを海面に向けて放つ。
 凄まじい量の水飛沫が起こり、それに紛れてファスキナートルは“フリューゲル”に襲いかかる。
『ジーナ! まさか仕損じたなんてなァッ!』
 気を吐いて光刃を振り抜く“フリューゲル”。
 だがそれよりも、ファスキナートルは急激に機首を上げてループする機動を二連発で繰り出すマニューバ――『クルビット』を繰り出す。
 しかしながら『クルビット』の影響で失速したファスキナートルは光刃を避けられず、斬り裂かれると思われた瞬間だった。
 ファスキナートルは失速したフリをした状態からもう一度『クルビット』を繰り出すと、光刃を避けきったのだ。
『ダブル・クルビットだと! 今回も随分と見事なもんを見せてくれるじゃねえか!』
 更にファスキナートルは回避直後に変型。
『ブラジリアンキックは、機体の膝関節や股関節に多大な負荷をかけますわ……勝負は、この一撃に!』
 サブパイロットのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)の合図とともに、ファスキナートルはビームサーベルを仕込んだ爪先での二段蹴り――ブラジリアンキックを繰り出した。
 一発目は避けたものの、続くもう一発は避けきれず、今度は左脇腹を切られる“フリューゲル”。
『……ッ! 避けきれねえ……! 腰のダメージがキてやがるせいか……!』
 またもダメージを負った“フリューゲル”だが、再度振るった光刃によってファスキナートルと相討ちを狙う。
 結果は双方ともに光刃をかすらせただけ。
 ただ、違いがあるとすれば、その光刃の威力だ。
 現行のものを凌駕する大出力を持つ“フリューゲル”の光刃は、かすっただけでも十分なダメージをファスキナートルに与えた。
 二発目の蹴りを叩き込んだ右足とそれが繋がる腰部分、更には右脇腹までもが光刃のエネルギーで破損し、ファスキナートルは海面に不時着していく。
『……はぁ……はぁ……腰に続いて腹まで……。随分とダメージがキてやがる……!』
 何とか滞空機能を維持する“フリューゲル”の前に和麻のアマテラスが立ち塞がるように滞空し、そのまま相対する。
『勝負だ――俺の背中にいる……守らなきゃいけない大切な人達の為にも、お前を……倒す!』
 和麻の静かなる叫びに呼応し、アマテラスは光刃を抜き放った。
『上等じゃねえか……こうなったら相手してやる、かかってきやがれ』
 先に仕掛けたのは“フリューゲル”だ。
 対するアマテラスは和麻が持ち前の反射神経で相手の先読みし、まったく同じマニューバでぴったりと接近する。
 相手と同じ動きをする事で、相手の調子に持ち込ませず苛立ちを覚えさせて、どんどん動きを単調にしていく和麻の作戦。
 その要となるのがパートナーであるエリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)の存在だ。
『カズ兄はもう負けません!! 背中に守らなくちゃいけないモノがある限り!!』
 エリスが、敵の攻撃をコンマ一秒たりとも見逃さず、アマテラスの姿勢制御の全てを請け負い、限りなく最小の動作で避けることに全力を尽くす。
 彼女が出来るのは姿勢制御や防御と回避の面だけ……。だからこそ、彼女は和麻の力となれるために回避だけに全ての意識を集中させるのだ。
『野郎……! ちょこまかとッ!』
 苛立ちに任せて“フリューゲル”は急上昇を開始した、光刃を納刀すると、ライフルを両手に持つ。
 このままプラズマライフルの最大出力によって敵を薙ぎ払うべく、“フリューゲル”はトリガーを引いた。
 次の瞬間、放たれる巨大にして長大な桁外れの光条。
 それによって薙ぎ払われた海面は大量の海水が蒸発し、凄まじい量の水蒸気であたり一面が白に染まる。
 そして、白一色に染まった視界の中から、アマテラスが“フリューゲル”の頭上へと飛び出す。
 桁外れの光条が海面を薙ぎ払うまさに一瞬前、アマテラスは最大加速で敵のさらに上空へと行っていたのだ。
『まさか、最初からこれを狙って……!』
 光刃を抜き放ったアマテラスは、一部の迷いもなく、そのまま“フリューゲル”へと斬りかかった。
『覚えておけ。人ってのは守りたい物がある限り、いくらでも強くなれるんだ!!』
 例によって咄嗟の『瞬間移動』で避けようとする“フリューゲル”、
 だが、度重なるダメージのせいか、先程よりもスピードが出なくなっているようだ。
 普段なら完全に避けきれるかもしれない斬撃が見事に命中し、ライフルを持つ腕を斬り落とされてしまう。
『くっ……!』
 思わず呻き声を上げる“鳥”。
 同時に機密保持装置が作動したのか、“フリューゲル”の腕は握ったライフルを巻き込んで木端微塵に爆散する。
 それでも半ば本能的な動きで反撃の一太刀を繰り出し、和麻の機体に斬り返したのだから大したものだ。
『俺は何度でもお前に挑む……今回は腕一本でも、次は両腕……その次は脚を――そしていつか、お前を倒す!』
 ダメージを受けた機体を必死に立て直し、不時着の体勢を整えながら和麻は叫ぶ。
 その叫びの残響が通信帯域から消えきらないうちに、今度は姿勢を立て直した禽竜がコンバットナイフを構えて“フリューゲル”に斬りかかった。
『物理的な云々は難しくてよく解らなねえけど、とにかくよぉ……まだ俺の身体は動いてるし、レバーも倒せりゃペダルも踏める……そんだけはっきりしてりゃあ十分だぜ!』
 相変わらずのフルブーストでの一撃。
 先程は軽々とかわしていたその攻撃も、今の“フリューゲル”では回避が難しいようだ。
『なんて無茶苦茶な女だッ……!』
 激突の瞬間、脚部を禽竜に叩きつけ、相手を海面へと蹴り落とす“フリューゲル”。
 だが、“フリューゲル”もナイフでの一撃を避けきれずに腹部を袈裟がけに斬り裂かれる。
 水没した禽竜が立てる巨大な水柱の左右。
 “フリューゲル”の腹部装甲が真っ二つになって海面に落下し、二つの水柱を立てた。
『あともう少しで最終装甲じゃねえか……!』
 さしもの“鳥”も焦った声を出す。
 その時、風切音を立てて新たな機体が“フリューゲル”の前に現れたのだった――。