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【第四話】海と火砲と機動兵器

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【第四話】海と火砲と機動兵器

リアクション

 同時刻 迅竜 カタパルト

『鷹村機より各機へ。周囲の味方と連携しながら撃破の優先順位を付けて各個撃破を心がけられたし――これより、天御柱学院の防衛部隊を援護する』
 鷹皇に乗る鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は迅竜のイコン部隊すべてに通信が入れた。
 鷹皇は迅竜の甲板へと着地すると、両手に抱えた高初速滑腔砲を構える。
 こちらに向かってくる“ヴルカーン”の一機に銃口を向けると、鷹皇は高初速滑腔砲を発射する。
『了解。特別な機体同士の戦いに邪魔が入らないように、それ以外の量産型の機体はこちらで何とかしよう』
 出撃した鷹皇に続き、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)ルドュテがカタパルトから飛び出す。
『わかったよっ! あたしたちは援護するねっ!』
 二機に続いてカタパルトから飛び出したのはネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)ラディーチェ・アコニート(らでぃーちぇ・あこにーと)が迅竜に乗艦後にシェイクダウンし、香港支社へと届けられた新型機――ホワイトスノゥ・オーキッド
 百合園第二世代機SHIZUKAをベースにフルカスタムを施した射撃戦向けの機体であり、機動力をオミットした分、射撃精度と装甲を重視した特性を持つ機体である。
 前回乗った機体と違い、装甲が厚めなので敏捷性は劣る。
 その点を補うべく、ネージュはロングレンジからの援護射撃を試みるようだ。
 ホワイトスノゥ・オーキッドは甲板に着地すると、ガトリングガンを構えた。
 一方、ルドュテは飛び出した勢いのままに高速で海上を飛行し、一気に“ヴルカーン”へと距離を詰める。
 狙うは鷹皇が高初速滑腔砲で撃った一機。
 高初速滑腔砲の一撃でダメージを受けた“ヴルカーン”はすぐに鷹皇へと振り返る。
 しかし、そのせいでルデュテの接近に対する反応が遅れた隙を北都は見逃さなかった。
 時間にしてたった数秒程度の遅れ、だが、それだけあればルデュテは一気に“ヴルカーン”へと近付けるのだ。
 少しでもルデュテを近付けまいと“ヴルカーン”は搭載されたミサイルを次々に発射する。
 ミサイルの数々がルデュテの接近を阻むと思われた瞬間、後方から放たれた機銃の掃射がミサイルを次々と撃ち落としていく。
『北都さん、ミサイルは私とネージュで何とかするから、今のうちにっ!』
 すかさずラディーチェからの通信も入る。
 ミサイルを撃墜したのは、迅竜の甲板に立ったホワイトスノゥ・オーキッドによる援護射撃だ。
 ホワイトスノゥ・オーキッドが手にしたガトリングガンを掃射し、ミサイルを撃ち落としてくれている間にルデュテは更に距離を詰めていく。
 近距離まで迫ったルデュテを撃ち落とすべく、“ヴルカーン”は胸部のガトリングガンとこめかみのバルカンを連射しにかかった。
『北都、敵機の上半身から危険な気配が……します』
 クナイからの警告を受け、北都は咄嗟に機体の高度を落とした。
 それと同時に機体の角度も平行にし、まるで寝そべるような体勢を取らせる。
 海面に触れる位置で水飛沫を上げながら平行に飛ぶルデュテは、あたかもスライディングで敵に肉迫するようだ。
 スライディングのような体勢ままルデュテはウィッチクラフトピストルを抜き放った。
 水飛沫を上げて滑りながら、ピストルを連射するルデュテ。
 至近距離から何発も放たれた魔力弾は、ちょうど“ヴルカーン”がガトリングガン掃射の為に胸部装甲を開いていたせいで、内部へと次々にクリーンヒットする。
 掃射の瞬間に魔力弾が直撃したことによりガトリングガンが暴発し、最終装甲が剥き出しになる“ヴルカーン”。
 遂に“ヴルカーン”の懐に飛び込んだルデュテはピストルを持つのとは逆の手でソウルブレードを抜き放つ。
 全速力でスライディングする勢いを乗せて、ルデュテは最終装甲が露出した穴に向けて切っ先を突き立てた。
 いかに“ヴルカーン”の装甲が頑丈とはいえ、ルデュテの全速力と体重が乗った刺突を、最終装甲一枚では受け止められなかったようだ。
 内部まで突き刺さったソウルブレードに貫かれ、“ヴルカーン”がまた一機爆散する。
 だが、敵部隊も負けてはいない。
『おゥ……やってくれるじゃねェかよ……予定変更だ。まずはそのデケえ戦艦とそのゴテゴテ竿野郎から吹っ飛ばしてやらァな!』
 パイロットの声が広域通信帯域へと流れ出すとともに、漆黒の“ヴルカーン”が前砲門を開く。
 搭載されたすべての火器を同時に撃発し、一斉射撃を行う漆黒の“ヴルカーン”。
『全機、ミサイルを撃墜! 迅竜に被弾させるな!』
 真一郎の声とともに鷹皇は高初速滑腔砲からガトリングガンに持ち替え、ミサイルを撃ち落としにかかる。
 鷹皇とともにホワイトスノウ・オーキッドも引き続きガトリングガンを掃射し続け、甲板に帰還してきたルデュテはナパームランチャーを構えて間髪入れずに発射する。
 二機によるガトリングガンの掃射、そしてナパームランチャーによる広範囲の爆破により無数のミサイルは空中で爆発していく。
 しかし、“ヴルカーン”の持つ圧倒的な火力を一斉に解き放ったものは伊達ではなく、爆炎の中から無事なミサイルがいくつも飛び出してくる。
 甲板に炸裂し、爆炎と爆風を撒き散らす数々のミサイル。
 幾つもの直撃を受けて、迅竜はその艦体を大きく揺らす。
 だが、恐るべきことに、それだけの攻撃を受けても迅竜は大事なく飛び続けていた。
『ルカ……っ! 大丈夫かっ!?』
 思わず叫ぶ真一郎。
 咄嗟に真一郎は艦長であるルカルカ・ルー(るかるか・るー)に通信を入れる。
『大丈夫。損傷は軽微。真一郎さんはそのまま任務を続行して』
 すぐに返ってきたルカルカの気丈な声を聞き、ひとまず安堵する真一郎。
 次いで真一郎は甲板の状況把握に努める。
『鷹村機より各機へ。今の攻撃で機体を損傷した者はいないか? 各機、損害状況を報告してくれ』
 真一郎が問いかけると、間髪入れずに友軍機からの返答が入った。
『ネージュだよ! こっちは大丈夫!』
『こちら北都、ルデュテも無事だよ』
 ひとまず二機が無事だったことに真一郎は胸を撫で下ろす。
 だが、ほどなくして盾竜からも通信が入る。
『こちら董機……敵機の攻撃により電源ケーブルを損傷……盾竜への電力供給率が低下しています』
 しかし、それにも冷静さを崩すことなく真一郎は言った。
『了解。盾竜の残弾状況は?』
『現在、ミサイル38パーセント、機銃45パーセントです。垂直ミサイル発射システム及びファランクスを使用すれば戦闘継続は可能』
 そう言う蓮華だが、真一郎はしばらく考えた後に答えた。
『いや、ここは一旦格納庫に戻って電源ケーブルの交換及び弾薬の補給を受けた後、戦線に復帰してくれ。ここは俺たち三機で受け持つ』
 それに合わせるようにしてスティンガーの声も響いた。
『そうさせてもらうぜ……弾薬だけじゃなく、薬物の残りも50パーセントを切ってるんでな……残量計で確認した』
『了解しました。感謝します――盾竜、一時的に戦線を離脱します』
 蓮華の声とともに複数のアンカーの鉤部分が一斉に動作し、甲板への固定が一気に解除される。
 小気味の良い巻き取り音をたてながらアンカーを巻き取りつつ、ケーブルをパージする盾竜。
 それらを終えた盾竜は、すぐさま艦内へと戻っていった。
『鷹村機より、フロウ機、清泉機へ――迅竜甲板にて射撃戦闘を行う。迅竜の搭載火器と協力してミサイルを叩き落としつつ、“ヴルカーン”を攻撃する。もうすぐこちらのウィザード級が天御柱学院の機体を解放するはず。それまで持ちこたえるんだ』
 鷹皇を挟む形で左にホワイトスノゥ・オーキッド、右にルデュテという布陣を敷く三機。
 そこに友軍から通信が入る。
『こちらArcem夏侯 淵(かこう・えん)。迅竜の護衛艦としてArcemも砲撃支援を行う。この夏侯淵がおる限り、迅竜はやらせはせぬ!』
 迅竜に並ぶように浮遊する本拠地――Arcemが位置を合わせてくる。
 三機プラス一基からなる防衛部隊は射撃兵装を準備すると、迫り来る敵部隊に向けて砲撃戦を開始した。