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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

リアクション

 グリーンパーク前、白竜が指揮する「臨時作戦本部」裏に救出された人質が運ばれてくる。
 子供から大人まで集まってるため、混乱と鳴き声などで騒がしい状態となっていた。
「ごめんなさい、その子お願い!!」
「は、はいっ!」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は、救出された人たちを誘導しては、怪我などが無いか確認して白竜に報告する手伝いをしていた。
「ぶぇえええっ怖かったよ〜っ」
「よしよし……あ、膝すりむいてる」
 イコナは泣きじゃくる女の子の膝元にすりむいた後を見つけると、慌てて完全回復をかける。
 たちまち、女の子の膝元は傷の跡すらなくなっていた。
「ぶえっ……わあああっすごいっ!!」
 さっきまで目に涙を浮かべていたのが嘘かのように飛び跳ねて女の子は喜んだ。
「これで大丈夫ですわ。よく我慢したわね〜」
「ありがとーお姉ちゃん!」
 ひまわりのような明るい笑顔でイコナは女の子を励ますと、女の子もつられて笑い始めた。
「イコナさんありがとうね」
 様子を見に来た救急班のリーダーがお礼を言う。実は、手当などに当たってくれる人が不足していたのだった。
 そこにイコナが立候補してくれたおかげでどうにか回っていた。
「ふうっ……みんなうまくやってるかしら」
 イコナは震える手の緊張をほどくと、ため息をついた。

 一方、先陣を切っていたマリア達は進みも、戻りもせずただ、説得を続けていた。。
「危害は加えたくありません、今なら間に合います! 投降してください!」
「無理です。ここまできて下がるわけにも行きません。マリア様のほうこそ、お下がりください」
「グランツ教の意思ですよ!?」
「無理――」
 入園口から少し離れた、アスレチック広場。
 マリアと他数人の契約者は向き合うようにして、20人ほどのテロリスト達と対峙していた。
 その代表らしき人物、女テロリストと交渉を試みているところだった。
「話がまとまらないな……」
 ため息交じりに彼方はつぶやいた。
 マリアとテロリストの話は堂々巡りをしていた。
「せめて、人質だけ……そうだな、年寄り、子供を俺たちと交換しないか?」
「……どういうこと?」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)はマリアの横に立ち、人質を少しでも安全に避難させる方法を考えていた。
 軍人らと人質を交換してもらうことができれば、もし人質に危害が加えられそうになっても迅速に行動ができるのではないかと思ったのだった。
 テロリストに人質の交換を提案するも、そう簡単に受けてくれるはずもなく。
 それどころか、テロリストの女は怪訝そうな表情を浮かべた。
「誰が人質だろうと私たちはやれる……ずべこべ言わずに女王アイシャを連れてこい!」
「やはり……無理矢理でも止めるしかないの?」
「……アイシャ様が国家神を辞めることが出来るならそのほうが良いんじゃ無いかって私は思います……でも……」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)が、鉄心の横でテロリストの男に言う。
「こんな悲しい方法でしか国を治められない神様なんて、絶対にお任せできないって思いますよ」
「……」
 女は黙り込むとしばし、何かを考え込んでしまった。

「なあ、彼方〜。あれからテティスと進展あったのか?」
「へ? 何の話だよ」
 離れたところから彼方はマリア達を遠目に眺めていると、オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)に話しかけられた。
 しかしその内容は突拍子も無く、彼方には何のことなのかわからなかった。
「あれだろ、キスとかくらいは――」
「ちょっと待てよ!? 何の話だ!」
「え、だから、どこまでやったかって話だよ!」
「何もやってねえぜ?」
「おまえは聖人か! そんな弱腰でどうするんだよ!!」
「余計なお世話だ!」
 彼方は慌てて答えながらも、手の甲であっちに行けとジェスチャーして促す。
「何やってるのあの子」
 セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)が、首を傾げながらマリア達を指出した。
「見ての通り。説得してみせるとか言って、ずーっとあの調子だぜ」
「ふ〜ん……これじゃ拉致あかないわね」
 セフィーは彼方に話を聞いた後、頭をかきながらオルフィナへと向かい、そして2人はテロリストの女へと近づいたのだった。
「ねえ、はやくリーダーなり連れてきてくれないかしら_」
「誰がおまえ達の……ぐぁあああっ――」
 女は苦しみながら地面に倒れ込んだ。
 その地面には絵の具のように真っ赤な血が流れ始める。よく見れば女の太ももからは次々と血があふれ出していた。
「あら、さっきまでの勢いはどうしたのかな。急に黙り込んだみたいだけど?」
「こんどは、その大きな胸をねらってあげましょうか」
 セフィーは悪魔のようなほほえみを見せながら、銃口を再びテロリストに向けた。
「なんてことを……どうしてこんなことを!!」
「自分達の教えで過ちを犯した者を裁けない者に文句を言う権利はないわ」
 鋭い目つきと激しい口調で問い詰めてくるマリアにセフィーは冷たく淡々と答えた。
 その答えにマリアは「そんな……」とつぶやき深く落胆した。

「おい、オルフィナ、それにセフィーもやり過ぎだ! 何も殺したりする必要はなか――」
「傭兵に慈悲なんてない。いや、いらねぇ」
 彼方は、オルフィナ達を攻めるように言う。
 それに対して答えるオルフィナの瞳には光が無く、まるで意思などないかのようにぽつりと答えた。
「おまえ……くっ、俺は先の人質を助けてくるぜ」
 彼方は一時視線を地面に伏せると、再び前を見据えて別の方向へと歩いて行ってしまった。

「悪を討ち滅ぼせ!!」
 テロリスト達はその状況に悲しむどころか怒り、仕返しすることに熱くなっていた。
 持っていた銃やバールなどを構えると、テロリスト達は一斉に契約者達へと襲いかかってくる。

「人質を全員解放しろ!」
 向かってくるテロリスト達の方へと、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が銃を片手に突っ込んでいく。
「世界を救うために人質をとって、女王の身柄を引き渡せなど笑い話だっ」
 エヴァルトは吠えるようにしながら、テロリスト達を銃で一層していく。

「ちっ……こうなったら人質は皆殺し――ぐわあああああああああああああああっ!!」
 人質達の居ると思われる木造倉庫に続く道へと行こうとするテロリスト達を、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は逃さなかった。
 煉は重そうな大剣を、軽く振り回し、人質へと向かってくるとテロリスト達を切り捨てて行く。
 同時に飛び散る血、劈くような悲鳴が響く。

 エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)がそれに続くように剣を構え、「ランスバレスト」でテロリスト達に突撃する。
 テロリスト達は、胸元にランスバレストを受け噴水のように血が飛び出すと、次々と倒れていった。
「く、くるなっ」
 人質の女性を1人、自分の前に押し出しながらテロリストの男が叫ぶ。それを見て、エリスは目を伏せた。
「あなた達の主張が正しいか置いておいても、何の罪の無い人たちを巻き込むやり方は絶対に認められない……」
 次にエリスが目を開けた途端、ソードプレイによる一閃が男に走った。男の片腕は地面に血と共に落ちる。
 人質は無傷だった。

「ひぃいいいっっ」
「重犯です、判決は死刑以外あり得ません。串刺し火あぶりにによって浄化してやりましょう」
 エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)が奥地へ逃げようとするテロリストの前に立ちはだかる。
 その手にもだれた槍の先は、男ののど元へ狙いを定められていた。
「勘弁してくれぇええええっ、俺はただ世界統一国家神様のために」
「統一神のためだあ? 女王陛下の身柄引き渡しやらせねば世界を救えない者が国家神とか、笑い話にもならん」
 男は救いを乞うように弁解するが、エヴァルトは馬鹿にするように笑った。
 そして次に向けられたのは銃口。
「そんなものに惑わされたこと自体、たしかに大罪だ。エリザベータの手を煩わせるまでもない。俺が一発で浄化してやるよ」
 乾いた銃声があたりに鳴り響いた。

 一方で人質達の方では煉は人質を使って逃げだそうとし、転んでしまったテロリストに最後の一振りを与えようとしていた。
「……おまえ達は悪魔だ……こんなに人を殺して」
「おまえ達の方が悪魔だろ? 人質をとって、しかも女王の身まで狙って。俺たちはむしろ正義のために悪魔を殲滅してる」
「……」
 まるで何かを言いたげな表情でテロリストは煉の顔を見上げた。
「自分たちがもともとは一般人だから、殺されるとは思わなかったか……甘ったれるなよ。人の命を危険にさらした時点でおまえ達の末路は決まってたんだよ」
「……」
「これが末路だ」
 煉は静かに大剣を振り上げると、風を切る音と共に男の首元を断った。
 最後まで男は煉を見上げたまま、口を開かなかった。

「終わったわね」
「ここはだな。まだ先に人質がいる」
「とりあえず、ここに居る人質を避難させないといけないわ」
 煉とセフィーが助けた人質達をどうするか段取りを話し始めていた。
 その後ろには数十人の人質。何が原因なのかはわからないがおびえている人、泣き出す人まで居た。

「あ……」
 そしてマリアは、視線を再び目の前に戻した。
 茶色い堅い土に覆われた地面は一面と言っていいほど赤く染まっていた。
 その向こうにはかつて、同じようにグランツ教を志していたはずのテロリストの体が倒れている。
 その光景は地獄絵図さえ想像させられるほどだ。
「ううっ……」
 鉄のような臭いに襲われ、マリアは吐き気に襲われる。
 自分は何をすれば良いのか、この人達に任せてしまって大丈夫なのか。
 その不安感、責任の重大さに押しつぶされそうになった。

「こうなってしまったらもう……とまりませんね」
 突然、鉄心は語りかけるように声をかけてきた。
「マリアさん言いましたよね。グランツ教の1人として、みんなを助けるって」
「……」
 マリアに聞いた「グランツ教として、彼らはどうするのか」の答えを鉄心は復唱するように言うと、その場を離れていった。
 ただ、マリアはだまり混み、赤く染まる地面を眺めていたのだった。

「先輩、どうします?」
「う〜ん……援軍が来るまでどうにかして、人質の安全だけは確保したいな」
 匿名 某(とくな・なにがし)と彼方は次の人質を助けるべく、茂みに隠れていた。
 茂みの向こう側には、客席に囲まれたステージが大きく構えられていた。
 ステージの上に集められている人質のなかには某のパートナーである結崎 綾耶(ゆうざき・あや)の姿も確認できた。
 ここまでまっすぐこれたのは綾耶によるテレパシーでの誘導によるものだった。
「ステージ裏、異常なし!」
「表も異常なし! よし、引き続き警戒を続けろ!」
「はっ!」
 その周りにはテロリスト達がまばらに配置されており、人質に被害を出さないようにするには厳しいものとなっていた。
 まだ、某以外の応援が来るには少し時間がかかるらしかった。
(人質を助けるための方法……)
 某はよくステージの周りを見回し、イノベーションを駆使して方法を模索する。
 すると、一カ所だけ突破できる場所を見つけたのだった。
「裏手の搬入口なら見張りをとっぱできるかもしれない」
「え?」
「あそこにある荷物を使って、紛れ込めばばれないと……」
 つまり、荷物が散乱している中に紛れ込み、隠れながら移動するという事だった。
 その案に彼方はすぐに賛成し、実行することとなった。

「先輩、そこ機雷が埋まってます」
「うおっ、あぶな」
「あと、声もっと小さく……」
 慌てて下がる彼方に、某はトラップを警戒し注意する。
 そんなやりとりを続けてるうちにすぐに人質の元へとたどり着くことが出来た。
「某さん!」
 思わず人質になっていた綾耶は某に抱きつこうとするが、某は口元に人差し指をさして静かにと合図を送った。
 彼方は周りを見回した。幸いなことに誰にも気づかれては居ないようだった。
「さて……あとは援軍じゃなくて、応援がくるのを待つだけだな」
「来てるみたいですよ」
 綾耶が茂みの一カ所を指さす。そこには数人が集まっていた。

「さて……この状況、簡単に制圧しようものなら人質の命が危険だ」
 木陰から顔を出し、前方の状態を伺いながらレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)は言った。
「ステージの裏に6人、左右にそれぞれ4人……前方には8人……だそうです」
 カルディナル・ロート(かるでぃなる・ろーと)が淡々と情報を伝える。
 「だそうです」というのは、カルディナル自身が調べたわけでは無く、草の心で植物たちの情報を共有したということだった。
「で、どうする?」
 レリウスの横でのぞき込んでいた城 紅月(じょう・こうげつ)が後ろを振り返り、マリアに聞いた。
 マリアは入園口の時の気力はもはや無いに等しく、意気消沈しているという感じだった。
「……おまかせします」
「むう……何十人の命がかかってるっていうのに、無責任すぎるのですわ!」
 腰に手を当て前屈みになり、マリアを上目遣いに御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は言った。
 下をうつむき何も答えようとしないマリアに、エリシアはさらにむっとなる。
 が、それをシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、まあまあと仲裁した。
「さっき、ズタボロにいわれたもんな、そりゃあ落ち込むってもんだ。ただ……」
 シリウスは一度マリアから視線をそらすと、すぐに戻した。
 その顔は何かを見極めようとする真剣な表情へと変わっていた。
「この事件が教団の事件自演じゃない。教団の名声のためじゃないと誓えるか?」
「教団に速やかに鎮圧するように言われていますが、決して自演なんかじゃありません……」
「あんた自身どうなんだ。あんたは実はこの事態はグランツ教にとってうまくいったとか思ってるだろ?」
 シリウスは強い口調で問いただした。
「私は……こんな事間違っていると思って!」
 シリウスの言葉に、マリアは顔を上げた。
 その表情は、戸惑いと少しばかりの闘志がみえ隠れしていた。
 シリウスはとっさに後ろに居るサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の顔を見た。
 サビクは首を素早く横に振った。
 つまりは、サビクの嘘感知によれば嘘はついていないと言うことだった。
「グランツ教自体とはみんなは対立してるけど、マリアはなんだか信用しても良い気がするの」
 マリアの前に立ち、ふわりとした声で小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が言った。
 その言葉にシリウスは軽く鼻で笑った。
「まあな、宗教なんて法治国家であるシャンバラだ、何を信じようが自由。大事なのはマリア自身だぜ」
「ありがとうございます、私……自分の、自分ができることをやってみようとおもいます」
「……シリウスは自分がプロテスタントてことを完全にそっちのけだね」
 誰にも聞こえないようにサビクはぼそりとつぶやいた。

「それはとても良い方法です……が、うまくは行きませんよ?」
 カルディナルの言葉にマリアはゆっくり、深く頷いた。
「もちろん人質の方々の命が最優先です」
「そうか、では数人が人質達へ潜入、紛れ込み。その後人質を守りながらテロリストを倒すというのはどうだ?」
「しかし、裏は機雷だらけと本部から聞いて居る。それこそ厳しいかもしれないぜ」 
 マリアの意思が固まったと思ったレリウスはすかさず自分の中で考えていた作戦を告げる。
 だが、その作戦にハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)は鋭く指摘した。
「そうか……なら――」
「あっ!! 紅月が居る!」
「ん?」
 突然、美羽が何かを見つけたように声を上げた。
 その場に居た全員がその声に、身をかがめステージをのぞき込んだ。
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は半目で彼方を眺めながらつぶやいた。
「どこに言ったとおもったら、彼方まであんなところに」

「それで、どうするのかしら?」
「彼方君達と連携をとって人質を先に救出し追い詰めることで、信者達を降伏させます!」
 エリシアの問いにマリアは決意を決めたかのようにはっきりと答える。
 その場の全員がその答えに頷き返した。
「時間はかけられない、作戦は先ほど言ったように分かれる! 3分以内で片付けるぞ!」
 レリウスのかけ声と共に、マリア達は茂みから飛び出した。

「敵だああああっ!!」
「前後ろ左右から来てるぞ、警戒しろっ!」
 先ほどまで静かなステージ周辺は突如として叫び声が飛び交った。
「動き出したみたいだぜ」
「今ですね!」
 彼方と某、そして綾耶は立ち上がった。
「みんな今のうちに脱出するんだ」
「で、でもどこから!?」
 人質の中にいた16歳くらいの少女が戸惑いの声を上げた。
 某は回りを見渡し安全そうな道を探す。結果、自分たちの入ってきた搬入口を指さした。
「あそこなら隠れられる場所もたくさんある。各自ばらばらに別れ――」
「おい、おまえ達何をしている!」
 それに気がついたステージ上の男が、銃を構えると彼方達に向ける。
 彼方と某に緊張感が走った。某が真空波を放とうとしたときだった。
「させないわよ〜っ!」
 突然空から響くエリシアの声に、男だけではなく彼方達まで上空を見上げた。
 と同時に、箒に乗っかったエリシアの蹴りがテロリストの顔面へとクリーンヒットする。
 男は物を言う暇も無く倒れた。
 すかさずエリシアは逮捕術で男の動きを完全に封じた。
「ありがとうございます!」
「怪我はなさそうですわね……さっ、脱出しますわよ」
 綾耶のお礼に、エリシアは全体を眺めながら答えた。
 脱出のルートはすでに他の人たちによって確保されつつあった。

「おまえ達何をしている!!」
 搬入口まで人質を喜連彼方とエリシア達がたどり着いたとき、3人のテロリストがこちらに向かって歩いてきていた。
「面倒ですわ」
「3人か……!」
 エリシアがポケットから魔道銃を構える。
 彼方達もそれぞれ構えて、攻撃に備える。
 しかし、テロリスト達は同時にその場に倒れ込んでしまった。
「何が……?」
「あら、遅いのですわ」
「人質達は無事か!」
 搬入口から差し込んでくる逆行から現れたのはレリウス、ハイラル、カルディナルだった。
 テロリスト達は目を回して倒れ込んでいるようだった。
「見ての通り――あぶないのですわ!」
「ぐっ!?」
 何が起きたのかとレリウス達が背後を振り返る。
 そこにはレリウスの魔道銃を受け気絶した、テロリストの姿があった。
「これで、裏に居るのはあと一人だな」
「0人だぜ」
 別の声が昇降口に響いた。そこに居たのはコハクだった。
 右手には槍。左手には目を回したテロリストが捕まれていた。
「コハクか!!」
「まったく、僕たちと一緒に居たと思ったら。なんでこんなところに居るんだよ」
 驚いたように声を上げる彼方に、コハクはため息をついた。
「よし、これで安全に脱出できるな」
「もしも、何かあっても僕がこの槍でなんとかするよ」
 レリウスにコハクは杖を突き出しながら言った。
「ところで、私へのお礼はないのかしら?」
 エリシアが目をつり上げ、口元をぷっくりと膨らませてレリウス達をにらんだ。
 どうやら、先の魔道銃でレリウス達を助けたことでお礼を言ってもらえず、コハクに良いところを持って行かれたことに少しすねているらしかった。
 レリウスが慌てて、「あ、ああ。ありがとう」とお礼を言うと、エリシアはすぐに笑顔に戻った。
「いえいえ。さ、逃げましょう。敵の応援が来ては面倒ですわ」
「そうだな、よし全員脱出するぞ!」
 レリウス達はそのまま、ステージ裏へと脱出を目指す。


「まったく……キミは本当に良い性格をしてるよ。国家神と世界統一国家神と四文字ハゲが同時に存在することに何にも否定しないなんて」
「宗教なんてなんでもあり、自由だろ?」
 おそってくるテロリストを相手しながら、サビクはため息交じりに言った。
 シリウスはそれにたいしあっけらかんに言う物だから、サビクは思わず頭に手を当てた。
「世界中、キミみたいにいい加減な人ばかりなら、きっとこんな事は起きなかっただろうさ」
「でも、グランツ教にも良い人は居るみたいだね!」
 美羽はサンダーショットガンでテロリスト達に向けて放ちながら、うれしそうに言った。
「まっ、良い人かは置いておき信用しても大丈夫そうだっ!」
「ぐああああっ」
 シリウスのファイナルレジェンドにがテロリストに直撃すると、男は倒れてしまった。
「これでステージ前は全員片付いたのかな?」
 構えていたサンダーショットガンを、下ろして美羽は周りを見渡す。
 ステージ前に居たテロリストのうち数人がそこら辺に気絶し、倒れていた。
「動くなっ! こいつがどうなっても良いのか!!」
 唐突にステージの脇から、男の声が響いた。
 そちらを見ると、一人のテロリストの男と縄で体を縛られた城 紅月(じょう・こうげつ)レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)が居た。
「あれ、全員脱出したんじゃなかったのかよ?」
「あー」
 驚くシリウスの横で美羽は怪訝そうな表情を浮かべた。
「ちょっと油断してたら……こんな事になってしまってたよ」
「まさか、指揮棒ですら危険だからと没収されるなんて思いませんでした」
 がっくりと前のめりにうなだれながら紅月は言った。
 その横ではやはり同じようにがっくりとレオンがうなだれていた。
 レオンは自身の持っている杖を疑うテロリストに対し、【指揮棒】と言い張り自分たちは指揮者だと言い張った。
 ところがそれが裏目になってしまい、余計に怪しく見られ杖を没収されていたのだった。
「っと待て! こいつを殺されたくなければ持っている武器を全部捨てろ!!」
 近づこうとしてくるシリウス達に吠えるように男は叫ぶ。
「……この人達のことならほっといても大丈夫だとおもうから、行こう」
 美羽はシリウスの服の袖をぐいっと引っ張ると、ステージと反対側へと歩いて行こうとする。
 そのあっけない言葉と行動にシリウスは驚いた。
「い、いいのか!?」
「うん、むしろ私たちがお邪魔しちゃ悪いよ?」
 何のことなのかさっぱりわからないシリウスは首を横に傾げた。
 しかし、美羽は意味深げに笑って見せた。
「それに、私達以外にも助けてくれる人が居るよ!」
「ばれてたか」
 美羽が後ろの木陰に目をやる。
 すると、五十嵐 虎徹(いがらし・こてつ)が申し訳なさそうに髪をかきながら出てきた。
「にしても、縛られてる姿も綺麗だぜ〜ちくしょうヤりてえなあ」
 虎徹は頭から足下まで紅月を見ながら言った。
 
「そんなことより、美羽は非情だね〜せっかく、敵が居る場所なんかを教えてあげたのに」
「ちゃんとマリアがどんな人なのか、式神を通して教えてあげたよね?」
 つまり、紅月の情報により美羽はここまで来ることが出来、そのかわり美羽は紅月にマリアの情報を伝えてたということだった。
 その話をしている間にテロリストの男は我慢が限界だった。
「おいっ! づべこべいってねえでさっさと武器を――」
「虎徹」
 紅月が虎徹の名前を呼んだ瞬間、鋭い音があたりに響く。
「な……」
 男は汗をほおに垂らした。
 先ほどまで銃口を紅月に向けていたはずが、気がつけば紅月の手に握られた刀によってのど元が狙われていたのだった。
「おいっ!! その刀を下ろせ!!」
 紅月達を囲むようにテロリストがぞろぞろと10人程度、駆けつけてきた。
 どうやら、悲鳴などを聞きつけて駆けつけてきたようだった。
「レオンこいつを頼む」
「わかりました」
 レオンはそう答えると、紅月が刀を突きつけているテロリストに則天去私をぶつけた。
 その衝撃にテロリストは、うめき声を上げながらその場に崩れ落ちた。
 紅月は唯一の武器である刀を地面に転がした。
「俺の武器はこれだけじゃないよ」
 同時にテロリスト達へと駆け寄ると、握砕術『白虎』が見舞われていく。
「ぐあっっっ」
 男の1人が、握砕術『白虎』の強い衝撃によって、近くに居たもう1人の男にぶつかる。
 その衝撃ははかりしれないものであり、2人とも同時に気絶してしまった。

「くそぉう、戦うあいつの姿も綺麗だ、惚れる! 今すぐ抱いてくれ!」
 いつの間にか人型に戻っていた、虎徹は紅月の姿を見て叫ぶ。
 そして、息を切らす紅月の元へと駆け走っていった。

「すげえけど何かおかしいぞ……」
「さっ、ここからは愛の時間だから、行こう」
「そ、そうだな!」
 シリウスと美羽はそんなことを言いながら、その場を後にしたのだった。